【研究】無二のビジネスモデルに打撃 真価問われる対応力(前)
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家庭用、業務(飲食)用に1時間無料宅配のビジネスモデルを構築し、業容を拡大してきた(株)カクヤスグループ。2019年に株式上場をはたし、20年には福岡の有力業務用卸2社を買収した。しかし、21年3月期は赤字に転落し、物流網などビジネスモデル再編を余儀なくされている。逆境を成長の糧としてきた老舗企業はコロナ直撃も転じることができるか。
お荷物だった独自モデルがけん引へ
(株)カクヤスグループは2020年5月にサンノー(株)(福岡市博多区)を買収すると、同年12月にはコロナ感染が長引くなか、(株)ダンガミ(福岡市博多区)も傘下に収めた。買収前の両社の売上高を合わせると約100億円に上り、中央の大手企業だったカクヤスグループは九州酒販業界の中心的存在となった。
100年前、町の酒屋として創業したカクヤスグループは外部環境に合わせて業態を変えてきた。バブル期に飲食店向け(業務用)の卸で売上を伸ばし、崩壊後は回収リスクのないディスカウント店に転換した。大型ディスカウント店対策として宅配料金を無料化し、酒販自由化が法制化されてスーパー・コンビニ参入が決定的になると多店舗化で準備を進めた。規制が緩和された03年には、東京23区内へ100店舗の配置を終えていた。このとき、ビール1本から1時間(当初は2時間)無料配達とする「カクヤスモデル」の原型が整った。ただし、当時は一般消費者のみが対象で宅配のコストを吸収する売上を確保できず、7割近い店舗が赤字となっていた。
そこで無料配達サービスの対象を飲食店業界に振り向けた。これが復活の核心となり収益構造が好転、06年には全店黒字化を達成した。その後はサービスエリアの拡充を進め、1時間枠での無料配達サービスエリアは横浜、川崎、大阪などにも拡大している。20年3月期時点で、売上の約7割にあたる768億円を「業務用宅配」が占めている。
コロナ後にターゲットを大胆変更
こうしたなかで発生したコロナ禍が事業の根幹を揺るがした。21年3月期の業務用の売上は前年比55.4%、425億円まで落ち込み、躍進を支えたビジネスモデルの見直しを余儀なくされた。幸い巣ごもり消費により「家庭用宅配」は同21.9%の大幅増収(売上高195億円)。「店頭売上」も郊外店がテレワークの増加などで奮闘し、16%の増収(178億円)となった。それでも業務用の落ち込みの埋め合わせには程遠く、21年3月期の連結売上高は26%の減収(802億2,600万円)となり、すべての段階利益が赤字に転落した。財務基盤の棄損は著しく、20年3月期に51億円有していた純資産額は32億円に減少し、自己資本比率は18.1%から11.9%まで低下した。コロナ禍との長期戦を見越して財務体質の強化を決断。21年5月に伊藤忠食品と三菱食品を引受先に第三者割当増資を行い、総額22億円強の出資を受けた。
そして好調な家庭用市場に照準を定める。改めてカクヤスグループの歩みを見てみると、主力販路や業態を目まぐるしく変えたのは1986年のバブル開始から2006年の全店黒字化までに集中している。その後はコロナ禍が生じるまで、強みであるビジネスモデルの拡充に力を注いできた。十数年ぶりとなる今回の路線変更だが、速やかかつ大胆に実施された。21年6月、認知度向上に向けて同社初となるテレビCMを放映すると、翌7月には従来の通販サイトに加え、酒とつまみに特化したサイト「カクベツ」を始動した。また、宅配強化の専門部署「カクヤスPlus推進部」を立ち上げ、ペット用品を皮切りに洗剤や紙おむつなどの無料配送を開始する。合わせて拠点網の再構築も進め、業務用の配達を配送センターへ移し、既存店は家庭用宅配に専念できる環境を整える。さらに、従来、店頭小売のみだった神奈川県・埼玉県などの大型店でも宅配サービスを開始した。
今期は上半期に家庭用の新店を2店、家庭用の小型倉庫を6棟設置。既存店の改装も上半期だけで14店舗実施し、下期はさらに13店舗を改装する計画だ。22年3月期中間期は、宅配と店頭売りを合わせた家庭用売上が52.4%と業務用46.1%を逆転している。業務用はアフターコロナに攻める体制を整備しつつ、守る分野にシフト。どこまでも家庭用の需要を掘り下げる構えだ。
ラストワンマイルを握る潜在能力
カクヤス単体で所有する車両は約1,000台。トラック、軽バン、電動三輪車、リヤカーと多様な車種をそろえ、あらゆる立地条件でも配達可能な体制をつくり上げている。21年9月末の拠点は家庭用店舗が「なんでも酒やカクヤス」138店舗など185店。小型倉庫は半年で6棟増加し16棟となった。カクヤスの1店舗あたりの配達実績は現状でおよそ1日100件。配達員1人が1時間で担える配達枠の目安は4件だ。午前10時~午後11時までの13時間枠で、平均3〜4名の配達員で試算すると1店舗が有する配達力は1日150件強となる。単純計算で1店舗50件の配達余力が生じる。主力業態「なんでも酒やカクヤス」だけで約6,900件の配達余力がある。
宅配商材の拡充も進めている。健康食品や炭酸水メーカーなどの無料宅配も行っている。今後の商材選択の基準として、酒類の宅配ピークタイムと重ならない正午~午後4時に配達できるものを優先していく。そして酒類宅配で培ったスキルを活用し、「重たいもの」「かさ張るもの」にも手を広げていく構えだ。
コロナ後、スーパーやドラッグストア、通販会社などから提携の打診があったことが判明した。流通業界がカクヤスグループの物流業者としての価値に目を向けている様子がうかがえる。ただし、現状での他社商材の配送には慎重な姿勢を示す。許認可などの問題を理由に挙げるが、新たに運送業の許可を受ける前に自前の仕入商材を広げる余地は無限にある。こうしたなかで注目されるのが、サンノー、ダンガミに続いて買収した明和物産(株)(東京都中央区)の存在だ。買収時期はコロナ真っ只中の21年2月。本業の赤字下で踏み切ったところに意欲の強さがうかがわれる。明和物産は首都圏に8カ所の拠点を有する宅配業者。売上高10億円程度にすぎないが、手がける商材は牛乳やサラダなど冷蔵系の飲料・加工食品だ。新たな宅配スキルの活用によるコロナ禍克服の契機を探る意図が見える。
さらなるM&Aで連結業績を押し上げる方法もある。カクヤスはサンノー買収後の20年10月に持株会社制に移行。商号をカクヤスグループに変更し、事業会社の新カクヤスを設立し、酒類販売事業を新カクヤスに移した。直後に買収したダンガミとサンノー、カクヤスがカクヤスグループの子会社となっている。めぼしい企業があればM&Aや資本提携に即座に取り組める環境にある。だが、22年3月期中間期決算を終えた段階での営業赤字は27億円を超える。通期では22億円の赤字に抑える見通しだが、ここへきてオミクロン株が猛威を振るっている。まずは、カクヤスモデル事業の早期黒字化が至上命令となる。
(つづく)
【鹿島 譲二】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:佐藤 順一ほか1名
所在地:東京都北区豊島2-3-1
設 立:1982年6月
資本金:3,651万円
売上高:(21/3連結)802億2,600万円法人名
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