2024年04月19日( 金 )

機能性表示食品「広告」の一斉指導を考察

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 「認知機能」をサポートする機能性表示食品の広告に対し、消費者庁が行った一斉指導(3月31日付)。「事後チェック指針」に基づきインターネット広告を監視した結果、131商品で問題が見つかった。業界関係者からは「厳しい」という声が聞かれる。だが、不適切な広告・表示が氾濫している現状を考えれば、取り締まりの“本番”はこれからといえそうだ。

「葛の花」事件の教訓生かせず

 機能性表示食品の広告・表示の取り締まりで有名なのは、2017年11月の「葛の花由来イソフラボン」配合商品を対象とした行政処分。販売会社16社が景品表示法違反に問われた。

 この事件が発端となり、策定されたのが消費者庁の「事後チェック指針」だ。機能性表示食品について、違法となる表示・広告の考え方を示している。今回の一斉指導でも用いられた。

 ある販売会社によると、「実名で公表された『葛の花』事件ほどの衝撃はないが、『認知機能』の行政指導も業界にとって相応のインパクトはある」という。今回、「葛の花」事件の教訓を生かせず、115事業者(131商品)が行政指導を受けた。この背景には、事後チェック指針に対する認識不足がある。

事後チェック指針のポイントとは?

認知機能 イメージ    115事業者は、どのような理由で行政指導を受けたのか。一斉指導のポイントを事後チェック指針に基づいて考察する。

 今回の指導事例に、商品の対象者が中高年であるにもかかわらず、「受験生の考える力を鍛えるために」などと表示していたケースがある。「認知機能」の機能性表示食品については各社とも、40歳以上や50歳以上を対象としたヒト試験の結果を科学的根拠としている。若年層を試験の対象としていないことから、10代・20代に対する効果は不明だ。このため、若年層に向けた宣伝はできない。

 次に、消費者庁へ届け出た文言の一部を切り出した表示も問題視された。たとえば、届け出た文言が、「認知機能の一部である記憶力(言葉・数字・図形・位置情報)を維持」という商品について考えてみる。

 この商品では、ヒト試験の結果を基に、記憶力のうち、言葉・数字・図形・位置情報を覚え、維持する機能が確認されている。それにもかかわらず、一部を切り出して「記憶力を維持」と宣伝すると、消費者は記憶力全般に対して効果があると誤認してしまう。記憶力には幅広い領域があり、宣伝できるのは届け出た範囲内に限定される。これを逸脱すると、法令違反に問われる。

 また事後チェック指針では、「解消に至らない身体の組織機能などの不安や悩みの表示」を禁止している。今回の一斉指導でも指摘された点だ。

 事例を見ると、「よく知っている人の名前のはずなのに出てこない」「物をしまった場所がわからなくなる」といった悩みを列挙した広告などが改善指導を受けた。

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 「認知機能」の機能性表示食品で期待できる範囲は「維持・サポート」にとどまり、これらの悩みを改善できるわけではない。取材に対し、消費者庁の担当官は「悩みの解決に関する表示は、1つひとつ突き詰めていくと改善につながる」(表示対策課)と指摘する。

グラフの用い方にも注意が必要

 試験データやグラフの使用方法についても、不適切な広告が見つかった。指導事例に、「有意な改善が確認できた」という説明とともに、試験データのグラフを表示していたケースがある。

 問題視されたのは、消費者に改善すると誤認させる点だ。機能性表示食品の科学的根拠として、「二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験」と呼ばれるヒト試験の結果が用いられる。当然、機能性表示食品を摂取した被験者グループはプラセボ食のグループと比べ、スコアが有意に低下(または上昇)している。グラフで見ると、効果の違いが明確にわかる。

 だからと言って、グラフを用いて“改善”効果を強調した場合、届け出た文言の「維持・サポート」を逸脱してしまう。この点を注意しなければならない。

ある業界団体の関係者は、「トクホ企業はグラフの利用の注意点を理解しているが、それ以外の企業はそうでないかも」と話している。

「認知機能」の一斉指導は“手始め”

 今回の一斉指導はインターネット広告が対象。しかし、不適切な表示は商品パッケージでも散見される。商品パッケージの表示も取り締まりの俎上に乗せることが、喫緊の課題に浮上している。

 このほかにも積み残した課題がある。研究レビュー(研究論文を用いた文献調査)によって有効性を確認した場合、「…という機能が報告されている」と表示しなければならない。ところが、各社の広告・表示を見る限り、必ずしも順守されていない。

 業界内には、「取り締まりがほかの機能性表示食品へも広がると厳しい」という声がある。一方、消費者の誤認を防ぐためには、取り締まりの大幅強化が不可欠。今回の一斉指導は、不適切な広告・表示の一掃へ向けた“手始め”に過ぎないとみられる。

【木村 祐作】

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