職人が報われる業界へ 建設業再生への提言

(株)石和総建
代表取締役 石橋京介 氏

(株)石和総建 代表取締役 石橋京介 氏

 建設業界で深刻化する職人不足。その背景には、単なる人手不足にとどまらない、現場軽視や過剰管理、技能への低評価といった構造的な問題が横たわる。(株)石和総建の代表取締役・石橋京介氏に、型枠大工の誇りと業界再生への話を聞いた。

現場主義が支える品質と人

 ──まず、現在の建設業界、とくに型枠大工を取り巻く状況をどのように見ていますか。

 石橋 私がこの業界に入ったころは、現場にはつらつとした自由な雰囲気がありました。職人が自分の腕に誇りをもっていて、現場全体にも熱気があったのです。しかし今は、管理や書類が優先され、現場の判断や職人の経験が軽く見られる傾向が強くなっています。

 型枠大工の仕事は、建物の品質を左右する非常に重要な仕事です。もしその出来や精度が悪ければ、建物の強度の低下や外壁が剥がれ落ちるなど、建物が出来上がった後に問題が発生する恐れがあります。本来は高度な技術と経験が求められる専門職ですが、長い間、その価値に見合う評価や対価が、十分に与えられてこなかったと感じています。

 今起きている職人不足は、単に人が集まらないという話ではありません。職人という仕事の重みや専門性を、業界全体がきちんと評価してこなかった結果だと私は考えています。

 ──30歳のとき、「手間請」から「材料持ち」へと転換されました。当時としては、かなり大きな決断だったのではないでしょうか。

 石橋 非常に大きな決断でした。手間請のままでは、どうしても元請との取引ができません。一次下請負業者に大きく影響され、経営の独自性と運営の自由度が損なわれる、という危機感がありました。

 私は職人の力を大きく引き出し、本来持っている能力を発揮させるためには、自分たちの材料をもち、その使い方のノウハウまで緻密に指導し、他にない新しい考え方をもって、責任を負える体制が必要と考えました。もちろん、リスクはありました。社員も抱えていましたし、家族もいますから、不安がなかったわけではありません。

 ただ、このままでは自分の独自性と将来性への不安が強かったのです。自分たちの技術と品質で勝負するためには、経営の主体性をもたなければならない。その考えが、転換の原点でした。しかし、当時は十分な資金があったわけではありません。ですから、資材の買い取りについても、分割で支払わせてもらう交渉をしました。今から振り返れば、かなり無理のある話だったと思います。

 それでも前に進めたのは、直系の職人たちが1人も辞めずについてきてくれたからです。技術をもった仲間がいたこと、それが最大の財産でした。会社の信用も、設備も、結局は人がつくるのだと実感しました。

 あのとき、自分たちで材料を持つ体制に移行したことで、単なる作業集団ではなく、自分たちで経営を組み立てる技術集団になれたと思っています。あれが、石和総建の原点の1つです。

(株)石和総建    ──品質について重視していることは、何でしょうか。

 石橋 私たちが一番大切にしているのは、型枠を外した瞬間のコンクリートの品質です。当社では「削らない、塗り足さない」を基本にしています。つまり、後から補修して見た目を整えるのではなく、最初から完成度の高い仕事を目指すということです。

 最近は、仕上げで何とか見せるという発想も少なくありませんが、それでは本当の品質にはなりません。下地が悪ければ、いずれ不具合が出ます。ですから、無理な工程や品質を損なうような条件であれば、たとえ相手が大手でも簡単には引き受けません。

 その場では厳しいやり取りになることもありますが、最終的には品質を見て評価していただけます。営業で信用を得るというより、現場で信頼を積み重ねる。それが私たちのやり方です。

 ──人材育成についても、独自の考え方をお持ちですね。

 石橋 私は、人は環境で変わると思っています。当社で働いている若者のなかには、中卒や高校中退の職人がいます。しかし、そういう人たちほど根性があり、腹をくくれば強い。技術を身につけ、現場を任されるようになると、表情も変わります。きちんと仕事を教え、責任をもたせ、認めれば、大きく成長しています。

 今では、かつて若かった彼らが、ベテランの職長として現場を支えています。人材育成というのは、単に技能を教えることではなく、「自分は必要とされている」「この仕事には意味がある」と実感してもらうことだと思います。そこがなければ、人は育ちません。

制度と現場の乖離

 ──職人不足の背景に、国家制度の問題もあると指摘されています。

 石橋 建設業界懸案の社会保険未加入問題の背景には、社会保険料負担の上昇があると思います。国民の平均年収はこの30年で大きく伸びておらず、横ばい、あるいは微増にとどまっています。その一方で、社会保険料は着実に上がってきました。さらに税負担や消費税も加わることで、働いて得た収入に対する負担感は非常に強くなっています。結果として、若い社員ほど「働いても手元に残る金額が少ない」と感じやすくなっており、社会保険への加入を避けようとする動きの一因になっていると考えています。

 持論ですが、補助金をなくし、それを原資として2~3割のサラリーマン減税をすべきだと強く思っています。補助金という名目で官僚が金を配るのではなく、最初から税金を取らず、汗をかいて働く人間の手取りを増やす。それだけで、少子化もやる気不足も一気に解決します。また、社会保険料を支払っても減税されるのであればと、社会保険未加入問題も解決に向かうでしょう。官僚が管理する金を減らし、現場に金を戻す。これこそが唯一の再生策だと考えています。

(株)石和総建    ──大学への巨額の補助金を撤廃し、16歳から社会に出て税を納める若者を支援すべきだという主張について、その公平性の観点から詳しくお聞かせください。

 石橋 16歳や18歳で現場に出て、泥にまみれて働き、税金を納めている若者がいます。一方で、20代半ばまで実のない『Fランク大学』で遊び、その学費を我々の税金(補助金)で賄っている若者もいます。こうした不公平は許されないと思っています。学生らが熱心に勉学に励んでいる大学ならともかく、学ぶ意欲のない学生だらけの大学に金をバラまくのは、即刻やめるべきです。その浮いた財源を、若くして社会を支えている労働者に、『働いてくれてありがとう』と直接還元すべきでしょう。高卒や中卒でも、現場で磨かれた知性は大学生を凌駕します。優秀な若者を大学というモラトリアムに閉じ込めるのではなく、早くから現場で働ける仕組みをつくるべきです。

 ──福島第一原発の事例を挙げ、現場の「職人主義」が「書類第一のマニュアル主義」になっているとおっしゃられていますが…。

 石橋 これも持論になるのですが、過剰規制、過剰管理をなくすことが大事だと思います。福島の事故が起きた際、官僚や東電の幹部はマニュアルがないと動けませんでした。しかし、あの危機を瀬戸際で支えたのは、現場の判断と即応力、すなわち『職人の勘』だったのです。

 今の建設現場は、責任逃れのための書類作成に、膨大な時間が費やされています。安全管理ですら、『自分たちが責任を問われないための証拠づくり』になっていると思います。このような規制は、現場を窒息させるだけです。日本は本来『職人主義』の国。マニュアルを盲信するのではなく、現場で技を磨き、その場の状況に応じて最適解を導き出す職人の誇りを、国全体が再評価すべきです。

次代を担う職人像

 ──外国人材活用については、どのような考えをお持ちでしょうか。

 石橋 私は、外国人材を単なる補助労働力として見るべきではないと思っています。当社では、能力のある人には職長として責任をもってもらっていますし、彼らには「自分が使う人材は、自分で国に帰ってスカウトしてこい」と伝えています。日本人が面接するより、現場を熟知した彼らが同郷の仲間を見極めるほうが、ミスマッチが起きないのは当然です。現場を理解している彼らが新たな外国人材を選ぶほうが、ミスマッチは少なくなりますし、本人にも責任感が生まれます。国籍ではなく、その人の姿勢や能力で評価する。それが組織を強くしますし、いずれは彼らが外国人のみのチームをつくれるよう、促していきたいと考えています。

 これから人材不足がますます深刻になるなかで、外国人材をどう受け入れるかは大きな課題です。ただ安く使うという発想では、長続きしません。主体的に働ける環境をつくることが重要です。

 ──今後の建設市場については、どのように見ていますか。

 石橋 福岡を見ていても、今はかなり過熱感があります。ただ、こういう状態はいつまでも続きません。必ずどこかで調整が入ると思っています。そうしたときに生き残るのは、規模だけを追ってきた会社ではなく、現場を大事にし、職人との信頼関係を築いてきた会社です。仕事の量が少し落ち着いたときこそ、企業の本当の力が見えます。

 私たちは、売上の大きさだけではなく、納得して仕事ができる関係性を大切にしてきました。結局、最後に残るのは信頼です。その積み重ねがある会社だけが、次の時代にも残っていけると思います。

(株)石和総建    ──最後に、若い世代へ伝えたいことをお願いします。

 石橋 大工には4つの種類があります。お宮をつくる「宮大工」、住宅を建てる「木造大工」、内装を仕上げる「造作大工」、そして我々「型枠大工」です。それら4種のなかで、地位的には「型枠大工」が一番低いとされています。しかし、型枠大工は、現場ごとに異なる複雑な形状を計算し、コンクリートの巨大な圧力に耐える構造をその場でつくり出す。これはAIやロボットには不可能な、アスリート的肉体と高度な知性の融合です。

 若者たちに言いたいのは、『手に職をつけることは、真の自由を手に入れることだ』ということです。会社や国がどうなろうと、自分の腕一本あれば、世界中のどこでも生きていける。マニュアルの奴隷にならず、トレーニングを繰り返し行うことで能力の向上を実感する喜び、自分の手で空間を創造する喜び。これこそが、AI時代における最強の防波堤であり、最高の生き方です。そうした仕事に誇りをもてる人が増えれば、この業界はまだ良くなると思っています。型枠大工の地位向上も図れるでしょう。私自身、石和総建を、そういう職人が夢をもって働ける場所にしていきたいと考えています。

【内山義之】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:石橋京介
所在地:福岡市早良区大字脇山2693
設 立:1981年4月
資本金:2,500万円
URL:https://www.isiwa.co.jp


<プロフィール>
石橋京介
(いしばし・きょうすけ)
1956年2月生まれ、長崎県出身。74年長崎県立島原工業高校卒業後、同年4月、戸田建設(株)に入社。80年12月、同社退社後、81年1月に家業である石橋組に入社。同年4月に(有)石和総建を設立。代表取締役に就任。91年10月、株式会社に組織変更。現在に至る。趣味はゴルフ、農作業。

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