2024年04月29日( 月 )

【福岡IR特別連載98】長崎IRとHTB、“日米経済安保”を理解せず

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 先日、ご承知の通り、米国ワシントンにおいて「日米経済版2プラス2」会談が行われ、NHKをはじめ各社マスコミがその中身について具体的に報道した。

 “米中覇権争い”の状況下、主たる議題は、ロシアによるウクライナ侵略、中国の習近平共産党政権による台湾問題など、世界的に影響をおよぼしている経済安全保障問題である。これらは経済人なら誰もが正確に理解している。

 しかしながら、長崎県知事に県行政、議会、同様に佐世保市長に議会もこれらをまったく理解していない。近年は“戦争”が起こっても不思議ではない世界情勢だ!筆者は以前からこの問題を重ねて強く指摘している。

 先の朝長佐世保市長の「所有者が変わっても…、IRに影響なし」という発言は、とんでもない“ど素人”の考え方であり、愚かな発言である。これでも政府、行政府の長なのだろうか。

 同様に、これらを疑いもせず、触れもせず、堂々とその発言を記事に掲載する長崎新聞や、長崎県のテレビ放送局各社もお粗末過ぎる。

 おそらく彼らは、「日米経済安全保障」とハウステンボス買収企業である香港を拠点とする中華系企業「PAG」社とを関連づけていないのである。

 簡単にいうと、朝長佐世保市長と同じで、世界観も世界情勢もわからない田舎組織の“世間知らずのお人好し”たちなのだ。

ハウステンボス イメージ  今回の、HIS澤田氏による「ハウステンボス売却・転売」問題は、昨年、長崎県行政で実施した、IR公開入札時の香港に本社を置く中華系カジノ企業2社を恣意的に外した内容と酷似している。今や香港は、中国が直轄しており、共産党政権の支配下にあるのだ。

 また、IR事業は、その“日米経済安全保障上の要点”である“マネーロンダリング”や“各種の情報管理”など、セキュリティが最優先課題となっている。だから、当時の長崎県はそれに気付かず、遅ればせながらの結果による、公開入札で中華系カジノ企業の2社を恣意的に外し、やむなく、現在の欧州企業のカジノ・オーストリア・インターナショナルに落札させた経緯がある。

 その後、その経緯を突かれ「公正性を欠いた入札」だとして、中華系カジノ企業2社に訴えられかねないのが現在の状況であり、昨年と同じ失敗の繰り返しだ。

ハウステンボス売却は「日米経済安全保障問題」だ

 今回のハウステンボスの買収企業「PAG」は、同様に香港に本社を置き、世界的に活動している中華系投資会社である。規模と業種こそ違うが、極論すると世界的に著名な中華系企業「ファーウェイ」と同じで、「日米経済安全保障」の観点から、ほぼ同一と看做される。さらに、朝長佐世保市長が公言しているように、隣接地の売買契約に基本協定等の“区域認定申請書”提出によって、ハウステンボスとIR事業は一体となっている。

 しかし、HISの澤田氏は、今回のハウステンボス売却に際し、この問題に一切触れていない。また、HIS側からのコメントにも「IR」の言葉はなく、あくまで表向きは“ハウステンボス単体の売却”で、その後は同園の運営を継続すると言っているのだ。しかし、彼はこの問題のすべてを理解している。澤田氏ほどのグローバルなビジネスマンが「日米経済安全保障」問題を理解していないはずはないのである。

 従って、その価格も含めて、今回の売却交渉はいまだ確定していないのだ。その途上、読売新聞に本件ハウステンボス売却交渉がスッパ抜かれ、後追い記事が全国一斉に広がってしまった。

 長崎県と佐世保市にハウステンボスとの三者契約協定、隣接地(IR予定地)譲渡額の205億円が、今回の売却価格に付加価値として入っていないはずはない。加えてIR誘致の可能性までも(可能性はない)考慮して、その売買交渉価格が800億円超の超高額だと、西日本新聞など各社が疑念をもって報道しているが、これらは誠に本質を突いている。

 2010年に、わずか20億円程度で買ったものが、たった12年間で売却額800億円超と40倍の付加価値がつくとは…。大変な利回りだ。HIS澤田氏の辣腕ぶりと交渉力に舌を巻くばかりである。

 この間、各々の行政からの長期にわたる各種“公租公課”の免税に減税、さらに今回の朝長佐世保市長の発言「IRに影響なし」は、中華系買収企業にどれほど信頼性を与えることになり、澤田氏の戦略に「熨斗」を付けまくることになるのか。愚かにも程がある。

 大石長崎県知事と行政に議会は、速やかに、長崎IRの中断を公に告知すべきである。このHIS澤田氏の戦略、ハウステンボス売却・転売交渉に、直接、間接を問わず、すでに加担してしまっているのだ。従って、可能な限り速やかに、手遅れにならない内に、勇気をもって一度決めたら変えられない、この国の「役人文化」を実行するべきだ。

 本件、すべてにおいて「知らなかった」では済まされない。自らには関係がないと思っていても、相手は、強かな中華系投資企業「PAG」である。田舎組織にいる経験不足、知識不足の者たちに敵うはずがない。

 残された時間は限られている。もし、この売却交渉が確定でもしたら、大きな政治問題に発展することは、火を見るより明らかだ。すでに、この問題はNHKを筆頭に全国で報道され、知らない者はいないぐらいの騒動になっている。筆者が以前から指摘してきた通り、長崎県行政が完全に墓穴を掘ったかたちで、長崎IRはすでに崩壊したと言ってよい。区域認定申請による政府判断の否決など待っていては、ますます悪循環となり、本件に関係する政治家たちの政治生命は終息を迎えることになるだろう。

【青木 義彦】

(97)
(99)

関連キーワード

関連記事