2024年05月21日( 火 )

経営がひっ迫する精神科救急医療 求められる地域包括ケアシステム(前)

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岡田メディカルインベストメント(株)
代表 岡田 勢聿 氏

 2002年にスタートした精神科救急入院料病棟は、診療報酬において、1996年に新設された精神科急性期治療病棟をしのぐという意味から、「スーパー救急病棟」と呼ばれる。これは精神科で最も高い医療費が設定されていることで、精神科病院の経営上重要な位置を占めるものの、夜間・休日の時間外患者受け入れ実績や、病床の半分以上が個室であること、新規の入院患者の6割以上が3カ月以内に退院することなど、運用面での厳しい条件が経営をひっ迫させ、精神科救急医療体制に関する課題が数多く指摘されている。

精神科救急医療とは

岡田メディカルインベストメント(株) 代表 岡田 勢聿 氏
岡田メディカルインベストメント(株)
代表 岡田 勢聿 氏

    そもそも精神科救急医療とは何か。日本精神科救急学会によれば、「精神科救急」は「精神疾患によって自他への不利益が差し迫っている状況にある患者に対する医療的な対応」と定義づけられている。

 日本では精神科救急医療の草分け的な存在として、千葉県精神科医療センターに精神科急性期治療病棟(以降、急性期病棟)が1996年に新設された。かつての日本の精神科医療は、いわゆる「閉じ込め医療」と呼ばれる長期入院を余儀なくされる慢性期医療が主流だった。急性期病棟の運用にあたっては、4割以上の患者を3カ月以内に在宅へ復帰させることや、時間外外来を年間20件以上受け入れる。時間外入院を年間8件以上受け入れるなどの条件が求められている。2002年にはそれをさらに推し進めるかたちで「スーパー救急病棟」が新設され、6割以上の患者を3カ月以内に在宅復帰させることなどが盛り込まれた。

 急性期病棟とスーパー救急病棟の違いの1つに、人員の配置基準が挙げられる。急性期病棟は、精神保健指定医が病棟専従で1人以上、病院全体で2人以上いること、この病棟の入院患者13人に1人以上の看護師が常時配属されていること、専従の精神保健福祉士または心理技術者が1人以上いることが求められている。それに対し、スーパー救急病棟の病棟専従医師は入院患者16人に対して1人以上、精神保健指定医が病院全体で4人以上(22年度診療報酬改定)いること、病棟の入院患者10人に対して1人以上の看護師が常時いること、専従の精神保健福祉士が2人以上いることなど、より厳しい人員の配置基準が設けられているうえに、病床数の半数以上を個室にすることが求められている。

精神科における急性期病棟と救急病棟の基準

 しかし、近年の救急や急性期などの多忙な職場が避けられる傾向のなか、時間外における患者受け入れ実績をはじめとした施設基準をクリアするための人材確保に、多くの病院が苦戦している状況にある。もともと精神科病院は一般病院と比べて人件費率が高いとされる。一般病院の人件費率が55%前後といわれるなか、精神科は65%前後で、なかには70%を超える病院も決して珍しくないという。ただでさえ人件費率が高い精神科病院においてスーパー救急病棟の基準を満たそうとすれば、さらなる人件費率の上昇は免れられない。現実として、スーパー救急病棟を行う病院の多くが赤字を余儀なくされている。

 また、22年度の診療報酬改定で従来の点数体系が、(1)手厚い救急急性期医療体制、(2)緊急の患者に対応する体制、(3)医師の配置とクロザピン使用体制―の3つに分割され、それぞれに要件を課して厳格化されたことも経営悪化の一因となっている。

実情に合わない医療体制

 一般的な救急医療体制を見ると、1次救急は比較的軽症な患者、2次救急は手術や入院が必要な症状の重い患者、3次救急は救命救急センターなどが対応するより重篤な救急患者をそれぞれ担っている。しかし、精神科医療に関していえば、1~3次の救急体制が確立されていないことが問題となっている。たとえば、軽度のうつ病患者と重度の統合失調症患者がトリアージされることなく、同じ病院に運ばれるということだ。工場にたとえると、納期も種類も異なる商品を同じ工場でつくるようなもので、医療現場において非効率が生じている。精神科救急ではそうしたことがいまだに行われており、これも経営の圧迫、人員の疲弊につながる要因となっている。

福岡県内の精神科救急病院一覧

(つづく)


<プロフィール>
岡田 勢聿
(おかだ・せいいち)
1960年福岡市生まれ。福岡大学商学部卒業。83年麻生商事(株)入社。退職後、作業療法士国家試験に合格。92年に発達障害児施設「知徳学園」を開設。2005年に岡田メディカルインベストメント(株)を設立して病院経営に参画。現在は3つの病院で副理事長を務める。九州大学大学院医学研究院精神病態医学教室に専門習得生として在籍。

(後)

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