2024年04月23日( 火 )

新国立競技場で渦巻いた「欲深さ」

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 安倍首相の鶴の一声で白紙に戻された新国立競技場の建設。この一件では、さまざまなプレイヤーの“欲深さ”が垣間見えた。それにより、それぞれの向かうベクトルがバラバラだったことが、混乱を大きくした要因だ。それを紐解いていけば、なぜこんな状態になってしまったのか、少しは分かるかもしれない。

同じ轍を踏まないために

新国立競技場<

新国立競技場

 前回のオリンピックから50年を経た旧国立競技場は、たしかに改修または建て替えする必要が生じていた。独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は当初、日本の大手設計会社に改修設計を依頼。旧競技場の躯体が生かされる予定だった。
 そこに降ってわいたラグビーワールドカップの日本招致。超党派の議連が結成され、2019年までに競技場を建て替えるという決議がなされた。ここで“欲深さ”を見せたのが森喜朗元首相だ。JSCの理事長に自身の右腕とされる河野一郎氏を据え、競技場建て替えへと邁進していった。その途中に東京オリンピックが決まった。世間では建て替えとオリンピックが結びつき、ラグビーの話題は下火になり、森元首相は苦虫を噛み潰したような心中だったのではないか。

 建築家の安藤忠雄氏もまた、建築家としての“欲深さ”を見せた。もともと2016年のオリンピック招致では東京・晴海地区でのメインスタジアムのデザインをするなど、積極的だった。20年にはデザインコンペの審査委員長にまわり、ある意味で斬新なザハ・ハディド氏の案を選定。しかし、最近の記者会見で「わたしはこんな大きなものを作ったことがないから、こんなにお金がかかるとわからなかった」と他人事。結局、「新国立競技場のデザインは俺が選んだんだ」という“欲深さ”のために引き受けたとしか思えない。
 さらにこの事業を進めてきた文部科学省。もともと同省は霞ヶ関のなかでも予算が少ない方で、権力が小さいといわれている。そこで出てきた国家プロジェクト。失敗は許されないし、成功すれば関わった人間は出世する。そんな“欲深さ”が無理な計画を生み出したのではないか。

 東京都も実は“欲深さ”を秘めていたと思われる。それが見えるのが、前回のオリンピックで立ち退きした人々が住んでいた「霞ヶ丘アパート」の取り壊しだ。もともと、競技場周辺の神宮外苑という地域は、「東京最後の再開発地区」と言われていた。国家プロジェクトの旗の下に再開発できる。そんな“欲深さ”があったのではないか。
 そしてこれらの“欲深さ”を一手に引き受けてしまったのが、事業主体となったJSCだ。もともと建築系に弱い文科省からの出向者が多く、今回のプロジェクトは、はっきりいって彼らの能力を超えている。神宮外苑の地区計画も作成しているが、建築担当がその中身を把握していないなど、いろいろな計画進行の粗さが見受けられた。
 そして最後に出てきたのが、安倍首相だ。安保法案成立直後の白紙撤回宣言。これ以上、支持率を下げたくないという“欲深さ”がすべてをひっくり返すとは、皮肉な結果になってしまった。
 いずれにしても、同じ轍を踏まないようにするためには、“欲深さ”の原因を消し去らなければ何も始まらない。

 

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