2024年04月26日( 金 )

市民、女性、若者を覚醒させた採決強行!(3)

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法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏

日本に真の「民主主義」を確立するチャンス

 ――前回、結果的に安倍総理は日本の中で眠っていた「民主主義」の目を覚ましてくれたというお話をお聞きしました。

法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏<

法学館憲法研究所所長・弁護士 伊藤 真 氏

 伊藤 今、多くの国民の皆さん、マスコミ報道も含めて、日本の「民主主義」は危機、ピンチであると考えられていると思います。しかし、私は今こそ、日本に真の「民主主義」を確立するチャンスだと考えています。ものごとはすべからくそうですが、空気や水のように当たり前と思ってしまうと、あまり深く考えないものです。日本においては、「自由」や「平和」は当たり前と考えられてきました。しかし、安倍政権の進めている政策の延長上には、もうそのような「自由」も「平和」もありません。そのことを多くの市民の皆さん、特に女性、若者が気づき始めています。

 私たちは、3.11や福島原発事故でエネルギーの重要さ、その有限性を知ったと同時に、「食の安全」は、いいかげんな政府報道を頼りにするのではなく、自分で守らなければいけないということを強く自覚するようになりました。今回は、主権者である国民が政治家に守るように命じた「憲法」を無視されました。そこで初めて、多くの国民は「民主主義とは何だ」と疑問を持ち、今「憲法9条」、「日本の安全保障」について学ぼうとしています。
 「抑圧は自由の母である」という言葉があります。今回のように余りにもひどいことが起こらないと、「自由」の有り難さはわからないものなのです。

小学校低学年から憲法をしっかり教えている

――欧米の先進国では、どのような「民主主義教育」が行われているのですか。先生は、少年時代にドイツで過ごされたこともあると聞いています。

 伊藤 特別に詳しいわけではありませんが、例えばアメリカでは小学校の低学年から、国の成り立ちなどを「デモクラシー」、「レスポンスビリティ」、「オーソリティ」などという言葉を交えて教わります。憲法については「憲法の木」のイラストを使って、「表現の自由」などを教えています。
 ここで、「民主主義の本質は、あなたたちが大人になった時、選挙で自分達の代表を選ぶことではありません。選んだ政治家を猜疑、監視し続けることなのです」としっかり学習します。

考えの違う人といかに上手く共存できるか

 ――小学校低学年から「憲法」ですか。日本の学校教育では、「政治」とか「法」は避けて通る嫌いがありますね。

 伊藤 内容もそうですが、その進め方が全く違います。日本では、多くの場合は座学で先生から一方的に知識を受け取るケースが多いと思います。しかし、教育の根本は知識を受け取ることではありません。世の中には様々な考えが存在します。その自分と考えの違う人たちとどうやったら上手く共存していくことができるかを学ぶことが教育の根本です。

 そのためには、「自分の考えをいかに発表して他人に理解してもらうのか」、「他人の考え方をどのように理解したらよいのか」その技術を徹底的に学びます。
 彼らはスタート地点から、移民問題など、ダイバーシティ(多様性)を認めないと国が成り立たたなかったからです。しかし、日本の場合は、肌の色も同じ、人種も同じ人達が多数を占めます。それ自体はもちろん何も悪くありません。しかし、その結果、「民主主義」、「立憲主義」、「人権」教育などが大幅に遅れてしまい、異質なものを排除してしまう傾向にあります。今問題となっている、ヘイトスピーチなどもこの延長線上にあります。

自立した個人の行動で一番重要なものは選挙

 日本国憲法13条では「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と謳われています。しかし、今までの学校教育や社会教育で、「個人の尊重(尊厳)、幸福追求権及び公共の福祉について規定している」この素晴らしい条文を学習、自覚して生きてきた方はとても少ないと思います。

 私は今「1人1票実現国民会議」の発起人になっています。日本では、人口10万人につき議員1人という地域の住民が投じた1票に対して、人口20万人につき議員1人という地域の住民が投じた票はその半分の価値しかない、といったような不平等が起こっています。これを「一票の不平等」と呼びます。自立した個人が行動する時に一番重要なものは選挙です。そこでは、国民それぞれの1票の重みは、等しくなければならないからです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
itou_pr伊藤真氏(いとう・まこと)弁護士(日弁連憲法問題対策本部副本部長)
 1958年生まれ。1981年東京大学在学中に司法試験合格。1995年「伊藤真の司法試験塾」(現「伊藤塾」)を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。法学館憲法研究所所長。立憲主義の破壊に反対する『国民安保法制懇』の設立(2014年)メンバー。
著書として、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)、『けんぽうのえほん あなたこそたからもの』(大月書店)など多数。

 

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