楽天G、明日四半期決算、モバイルの大都市部ローミング利用で将来を占う

楽天モバイルの命運を占う、プラチナバンドの疑似実装？

    楽天モバイルが、東京23区、大阪市、名古屋市などの大都市で、新たにKDDIの通信回線を借りることがわかった。

　これまで楽天モバイルは、自社基地局による電波のカバーが十分ではないエリアについて、KDDIの回線を借りたローミングによって、通信網を補完してきた。

　だが、今回の大都市圏による新たなローミング契約は、自社基地局が比較的普及している都市部におけるものであり、目的は他社に見劣りする通信品質を補強し、競争力を高めるためにある。具体的にいえば、KDDIのプラチナバンド帯域をローミングで利用することによって、自社モバイルにプラチナバンドを疑似実装することに主眼があると思われる。

　楽天モバイルはこれまで、総務省に対してプラチナバンドの割り当てを強く求めてきた。それが今秋にも割り当てられる見込みとなった。

　しかし問題は、すでに膨大な設備投資によってグループ全体の財務状況を毀損しているモバイル事業が、本当にプラチナバンドを実装することによって収益化が望めるのかどうかということだ。

　今回の都市部におけるKDDIのローミング利用によってプラチナバンドを疑似実装し、楽天モバイルの通信品質が「使用に耐える」との認識がユーザーに広まり契約数の大幅な増加につながれば、楽天モバイルは収益性の見込みを立て、一縷の望みで生き残ることができるかもしれない。

　今回のローミング契約は、そのような楽天モバイルの命運を占うものに他ならない。

　一方のKDDIを含む既存3社（NTTドコモ、ソフトバンク）にとっては、プラチナバンドの再割り当ては迷惑以外の何物でもなく、既存3社の目論見も次のように交錯している。実際の再割り当てが実施される前に楽天モバイルには収益化の見込みが無いことを実証するか、あるいはプラチナバンドのローミング利用で楽天モバイルを手なずけることで同社の再割り当てへの意欲を実質的に断つか。

出口戦略の場合　総務省の認可条件はどうなるか

　しかし、大勢の見方としては、モバイル事業の収益化は厳しい。よって今回の契約はうがった見方をすれば、実質的に継続困難との判定が下る可能性が高いモバイル事業について、既存他社回線の併用を広げることによって、同時に出口戦略への伏線を張ろうというものと見ることもできる。

　そのように考える場合、2018年に総務省が楽天モバイルへの周波数割り当てを認可した際に与えた条件を思い出す必要がある。

「他の既存事業者のネットワークを利用する場合においても、携帯電話事業者は自らネットワークを構築して事業展開を図るという原則に留意すること」

　この条件を常識的に読めば、楽天モバイルがKDDIのローミング回線を利用することは、自社回線網が整うまでの暫定的な補完として許され、他社回線の利用は暫時縮小されるべきものと理解されるが、今回のローミング契約の拡大は真逆の動きである。

　さらに楽天への周波数割り当てが検討された17年には、次のような指針も盛り込まれていた。

「割当てを受けた事業者が、既存移動通信事業者へ事業譲渡等をした場合は、開設計画期間中であっても、認定を取り消す」

　当時、新規参入の意向を示していた楽天に対する覚悟のほどを問うた厳しい指針であったが、楽天モバイルがプラチナバンドを疑似実装しても収益性が見込めない場合は、楽天モバイルの参入を認めた総務省も、出口戦略における軟着陸に向けた対応が迫られる。

明日12日、23年12月期第1四半期決算発表

　明日の楽天グループの四半期決算発表で注目されるのは、2月14日に開かれた22年3月期決算会見で三木谷社長が表明していた、月150億円（年1,800億円）の費用圧縮目標と、23年中の楽天モバイル単月黒字化という目標の現実的な見込みを示せるのかどうかということだ。

　赤字圧縮の方法の1つとして三木谷社長が打ち出していたのは、「KDDI回線の利用抑制によるローミング費用の縮小」であったが、今回の都市部における新たなローミング契約は、大きな方針転換ということになる。ただし、その方針転換を正当化する理由として、楽天が支払う「ローミング料」単価をKDDIが引き下げることを持ち出すものと見られる。

　明日の第1四半期決算発表は、さらにどのような方針転換が用意されているのか、あるいは当初の目標達成に向けた成果を示すことができるのか、注目が集まる。

【寺村　朋輝】

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