2024年05月04日( 土 )

ハマス対イスラエル~軍事的観点から考察する(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

防衛研究所 軍事戦略研究室
主任研究官 橋本靖明

この戦闘はどこまでいくか

 空軍による爆撃という第1段階を経て、現在は地上軍によるガザ地区への侵攻、ハマスが長年構築してきた地下トンネル拠点の攻撃と破壊、テロ指導者の確保や排除という第2段階にイスラエルは進んでいるが、ハマスが長年にわたってイスラエルに与え続けてきた累計被害の大きさ、今回の大規模テロによって被った大きな損害を考えて、イスラエルはこの対テロ作戦を進め、ハマスが簡単には立ち直れないほどの甚大な損失を与えるまでその行動を止めない可能性がある。その結果、ガザ地区が再び、以前のようにヨルダン川西岸地区にあるパレスチナ政府の支配下に戻る可能性もある。

 もちろん、一般人に紛れていると思われるメンバーも多いことから、ハマスを100パーセント壊滅させることは不可能であろう。しかし、ハマスを完全に根絶やしにすることでより過激なテロリスト集団の台頭を招くことは恐らくイスラエルの望むところではなく、また、ハマスという、イスラエルにとってはいわば病巣のごとき集団は、上記のように完全な排除そのものは不可能であろう。

 残った一部のハマスは再び勢力を拡大しようとするだろうし、ガザ地区のパレスチナ人の一部で今までハマスのテロ活動に否定的であった人々の一部には、自分の家族や仲間がイスラエル軍による今回の対ハマス軍事作戦のなかで理由なく殺傷されたことで、自らの態度を改め、ハマスに加わることも大いに考えられるところである。

増え続けるパレスチナ市民の犠牲

パレスチナ イメージ    ハマスによって殺害されたイスラエル人は1,400人と言われているが、他方、ガザ地区でのイスラエル軍による対テロ活動に巻き込まれて死亡したパレスチナ人は、その8倍程の1万1,000人との報道もある。この犠牲者数は11月中旬のものであり、イスラエル軍によるハマス制圧活動が続けばこの数はますます増えることは確実である。(ハマスは、国際法上は通常は許されない、保護されるべき施設である病院などの地下に隠れるようにして、テロ関連施設を設けているとの指摘がイスラエル側からなされている。)

 イスラエル人の怒りも大きいが、より小さな人口規模(900万人以上いるイスラエル人に比べて、ガザ地区のパレスチナ人はわずかに200万人ほど)であるにも関わらず、イスラエルの8倍の死者を出し、かつ増え続けているガザ地区のパレスチナ人の怒りもまた、非常に大きいはずである。

 ヨルダン川西岸地区のパレスチナ政府にとっても、自分たちと対立し、コントロールのまったく効かないハマスではあるものの、ガザ地区に住むパレスチナ人も含めて彼らはパレスチナ人という同胞であり、ガザ地区がイスラエルによって一方的に被害を受け続けることを受容するのは、心情の上からもなかなか容易ではないのではないだろうか。

 今後の推移と最終的な結末を予想することは難しい。しかし、我々の住む日本は、世界の安定の上に自らを立てており、世界との連携なしには立ちゆかない国家である。テロリズムの存在を非難し、その対策に適切に対応しつつも、テロとは関係のない一般市民への人道的配慮が失われることのないように、事態の必要以上のエスカレートを招かないためにも、外交面での努力を含め、適切に行動する必要があるだろう。

(了)


<プロフィール>
橋本 靖明

防衛研究所 軍事戦略研究室 主任研究官 橋本靖明防衛省防衛研究所軍事戦略研究室主任研究官。防衛研究所にて助手、主任研究官、研究室長、研究部長などを経て現職。その間、政府宇宙政策委員会委員、防衛法学会理事、International Institute of Space Law(国際宇宙法学会)理事、ユトレヒト大学(オランダ)客員研究員、防衛大学校や政策研究大学院大学、駒澤大学講師などを歴任。専門は国際法、安全保障法制。母方は肥前の戦国大名、龍造寺隆信の末裔。

(前)

関連キーワード

関連記事