2024年10月07日( 月 )

シーホーク売却へ シンガポールファンド1,000億円強の儲け 【福岡ドーム3点セットを読む】

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シーホーク、PayPayドーム イメージ    シンガポール政府系投資ファンド「GIC」が、所有する「ヒルトン福岡シーホーク」(福岡市中央区)の売却を提案したという情報が流れている。投資家たちへの希望価格は約850億円とみられている。シーホークは福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)、福岡ドーム(現・福岡PayPayドーム)とともに「福岡ドーム3点セット」を形成する施設だ。

 まず3点セットがこれまでにたどった経緯をまとめてみたい。シーホークは1995年のオープン。当時の経営母体はダイエーであった。ダイエーはこの百道浜埋め立て地について、「ツインドーム&ホテル計画」を華々しく打ち上げた。当初の投資計画は4,000億円。その後、2,800億円に減額となり、最終的には1,400億円まで縮小した。ツインドームは福岡ドームとなり、もう1つのドーム予定地は商業施設となった。

 当時のダイエーは実質、銀行管理状態にあり、最終的には銀行整理となった。プロ野球球団・福岡ダイエーホークスは福岡ソフトバンクホークスにオーナー会社がチェンジした。1,400億円の資金調達の内訳は、ダイエーによる自己資本調達600億円と、金融機関からの借入金800億円であった。当時、ダイエーはかなりの含み資産をもっていた。だから、神戸にあったホテルを売却するなどし、資金調達ができた。ダイエーオーナー・中内功氏の戦略眼は凄いと思う。「神戸よりも福岡の方ははるかに将来性(国際的)がある」と確信していたのである。

植民主義ファンドが買う

 球団買収にはソフトバンクオーナー・孫正義氏が即座に名乗りあげた。その次に、残りのホテル、商業施設をどこが買収するかが注目された。アメリカ資本のコロニーキャピタルが買収の意思表明をするまでにはかなりの時間を要したが、買収の際に当社にも、「コロニーキャピタルとは何者なのか」という問い合わせが殺到した。日本では名もなき存在であった。また、同社の日本法人代表の信用が今ひとつであった。

 金融機関の基本姿勢は、相手が名も無き者でも、損をしないのであれば大歓迎、であった。コロニーの提示額は750億円であった。ダイエーの借入額は800億円である。金融機関から見れば夢のような結末だ。750/800、90%の還元率になったからだ。当時は、企業内整理の事態に金融機関が巻き込まれた際には50%の還元を確保できたら万々歳であった。だからコロニーキャピタルの処理(90%還元)には金融機関、特に筆者の友人であった某銀行融資責任者は非常に喜んでいた。この取引仲介に入った業者は記録に残る額の仲介フィーを得たことはあまり知られていない。

コロニーはさすがに植民地主義者

 コロニーキャピタル(植民地主義者)が慈善事業を行うとは考えられなかった。「日本での実績づくりであろう」という観測が一時、流れていた。ところが、本来の体質を露にして暴利を得た。3年後の2005年にGICに1,000億円で売却した。たった3年間、抱えただけで250億円の利益を収奪したのである。さすが体質そのもの、植民地主義者は長期だけでなく短期で暴利を収奪する習性を有している。感服してしまう。金融機関の連中を喜ばしたのは鼻薬をかがせてやったのに過ぎないのである。こんな芸当ができる事業家は福岡ではお目にかかれない。

一気呵成に暴利を貪るのではない、連続性が特徴

 こちらもコロニーキャピタルの行動で多少学んだ。だから成り行きを注目していた。GICが投資ファンドで国家の財務強化を図ってきたのは承知しているが、具体的には目撃したことが無い。だから具体的なやり口を理解できない。

 絶句する局面が早く訪れた。福岡ソフトバンクホークスの幹部と会食していたときのことである。

 「賃料は幾らなのか」と質問したところ、「年間リース代が50億円だ」という回答を得た。絶句したのは、GICが早急に投資資金を回収できる仕組みをつくっていたことに気付かされたからである。それから6年して、福岡ソフトバンクホークスは福岡ドームを800億円で買収した。「GICは6年で元を取り返したではないか」と驚いた。

 福岡ソフトバンクホークスは延べ(リース代含む)1,100億円を支払ったのである。つまり、GICは6年経過で100億円(元本を押さえて)の儲けを叩き出したのである。

最後の決戦

 途中の15年、GICは商業施設を三菱地所に売却した。譲渡価格は120億円前後と言われる。三菱地所はマンション分譲で元を取ったうえで、その後の商業施設の運営で賃料収入が丸々儲けとなって加算されていく。さすが日本の最大のデベロッパーは、外資投資ファンドに負けない水準まで到達したことの証明を目撃できた。

 そしてクライマックスは先般のヒルトン福岡シーホークの売却意向の発表である。希望価格が850億円と言われる。10年前、シーホークの宿泊率は20%前後であった。ヒルトンブランドでも低迷していた。だが、最近の宿泊率は少なくとも60%を超えていると思われる(すべて夜、高速道路で走りながらの目カウント)。売却の絶好の機会なのだ。

 GICが福岡ドーム3点セットで得る最終的な利益は次の通りとなる。

 「福岡ソフトバンクホークスへの売却とリース代1,100億円」―「コロニーキャピタルからの購入代1,000億円」+「三菱地所への商業施設売却益120億円」+「シーホーク譲渡希望額850億円」=1,070億円!

 1,070億円の利益を叩き出すとは、福岡での不動産取引における利益では最高の記録であろう。

 00年代になると世界ではコロニー、GICのような不動産投資ファンドが主役となった。しかし、02~05年にかけて、この2社の画策を理解できていた福岡の専門家たちの存在は稀有であった。時間差をつけて、この2社に漁夫の利を得られてしまった(現在は常識になってしまったが)。

総括

 福岡3点セットから見えてくることは、私たちが地元福岡の成長見通しをつけることが全くできていなかったということだ。その点、ダイエーオーナーの中内氏の戦略眼は天才的であった。地元民が無知であるならば、余所者、外国人の力を頼る方が賢明とみられる。福岡の将来性に魅力を感じる外人投資家たちにドシドシ投資して貰う。単位が最低1,000億円であるから地元ではファンド組成は難しい。残念ながら。見よう見真似でスキルをマスターするしかない。

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