【トップインタビュー】不動産の法律専門家にして不動産賃貸業にも精通
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弁護士 前田貴史 氏
((弁)富士パートナーズ 代表社員)(弁)富士パートナーズは2019年、前田貴史弁護士によって京都に設立された弁護士法人。23年1月に大阪事務所、同年12月に福岡事務所を開設した。同法人は弁護士業務を行うが、代表の前田氏は、法律事務所とは別に不動産賃貸業を営む株式会社を自ら経営している。今回、福岡に進出した経緯と福岡への期待を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)福岡の可能性と魅力 不動産管理会社を設立
──今回、福岡に進出した経緯を聞かせてください。
前田貴史氏(以下、前田) 当法人は5年前に京都で弁護士法人として設立し、私は主に不動産に関する法律問題についてのご相談やご依頼を会社や個人事業主から受けてきました。2018年には、私自身も収益不動産を所有・管理する会社を自身で設立し、収益不動産を購入して不動産賃貸業を行っています。しかし、主要都市では、東京だけでなく京都や大阪もすでに開発の余地が少なくなってきていると感じています。たとえば、京都は古い街のため小規模な住宅が市内に点在し大規模に開発できる土地がもともと少ないです。その一方で、京都市内の人口は減り続けています。また、大阪は万博が控えていますが、近年人口自体は減少に転じています。
それに対して福岡市は、まだ人口が増え続けており、現在164万人程度ですが、40年をピークとして170万人程度まで増えるという予想もあります。また、その一方で福岡市の地価や家賃は京都や大阪と比べるとまだ安いです。不動産開発も街のいたるところで進んでおり、今後、開発の余地と将来性は十分にあると感じています。こうした今後さらに発展する可能性がある福岡の街に魅力を感じ、昨年、弁護士法人の支店事務所として「富士パートナーズ法律事務所福岡事務所」を開設し、弁護士法人の代表である私自身も京都弁護士会から福岡県弁護士会に登録替えをしました。今では週のうちほとんどを福岡で過ごしています。
──不動産賃貸業はどのように進めているのでしょうか。
前田 18年に京都で不動産を所有・管理する株式会社を設立し、小型のテナントビルや戸建不動産を中心に1年に約2件ずつ購入を進めてきました。購入後は全物件自主管理をしており、現在、京都の会社では14物件を所有・管理しています。所有物件は、大阪と京都を中心に、JRや私鉄の駅から徒歩圏内の居住用戸建不動産をメインとしています。物件の査定や金融機関との融資交渉も私自身が行っています。
弁護士業以外に自身で収益不動産の査定や選定、管理などを行う経験を積んだことで、弁護士業での顧問先である不動産会社からの相談や紛争処理にも大いに役立っています。不動産業界にも共通言語がありますが、そうした共通言語も身に付いてスムーズに依頼者とコミュニケーションが取れ、依頼者のニーズを的確に把握できるようになったと思います。
福岡でも今年、不動産を所有・管理する会社を新たに設立し、主に中古の一棟アパートを購入していく予定で、今年はまず一棟目を購入する段取りをしています。
不動産関連を始めとする法律のエキスパート
──弁護士としては不動産関連でどのような業務を請け負われていますか。
前田 これまで弁護士業をしていた京都では地主が宗教法人(寺社)というケースが多くあり、宗教法人の本山等の顧問弁護士として不動産にかかわるさまざまな問題に対応してきました。たとえば、寺社が所有し賃貸している土地の賃料増額請求や、賃借人とのトラブルや賃貸管理の問題などです。
寺社という立場上、借主が檀家さんである場合などもあって、ビジネス的に割り切って賃料を上げるなどの対応がご住職自身でしにくいという事情もあります。何十年も同じ賃料のまま賃貸している結果、歴史的建造物の維持や固定資産税に多くのお金がかかる一方で、不動産賃料収入が見合っておらず、赤字になっているというケースもありました。そこで、寺社から委任を受けて代理人弁護士として賃借人らと交渉して、適正な賃料へ調整するなどサポートを行っています。
また、不動産開発に絡んでの依頼もあります。依頼主としてはデベロッパーもありますが、むしろ土地を開発しようとしてデベロッパーを引っ張ってくる人たち、たとえば、地元の有力者だったり地主さんだったりも多いです。京都では、ホテル建設にともなって、ホテル敷地予定部分に点在している借家人との交渉を行うなどの案件も取り扱ってきました。
そのほかにも、テナントビルや戸建不動産の家主側から依頼を受けた賃料増額請求や明渡請求なども常時5~10件程度は抱えている状況です。ホテル会社、建設会社、不動産会社のM&Aに関する業務も年に数件は取り扱っており、現在もこうした案件を数件抱えています。税理士の先生とともにチームを組んで税務と法務に関するデューデリジェンスを実施するという業務です。
不動産関連以外では、会社側(使用者側)の労働事件が多いです。たとえば、未払い残業代請求、建設会社や運送会社の労災事故、ユニオンとの団体交渉立会などの業務も取扱いが多いです。こうした各種労働事件は、私が弁護士登録をした当初から、企業からのご依頼を受けて比較的多く取り扱ってきました。現在は、運送会社や建設会社に対して未払い残業代請求が行われることが多く、そうした請求への対応業務も多く取り扱っています。具体的には、残業代として支払っていた既払金が存在するとの主張や労働から解放されていた時間は休憩時間にあたるとして、労働者側の主張に対して証拠をもって反論し、請求額を争い減額するといった業務です。
弁護士業以外では、先ほどお話しした不動産賃貸業のほかに、警察学校の講師、債権回収実務や労務関係の講演なども行っています。警察学校では、「適正捜査と人権」というテーマで新人警察官向けの講義を定期的に行っています。企業や個人事業主の売掛債権回収実務の講演は商工会などで行いました。また、今年は別の弁護士会から呼ばれて弁護士向けの債権回収実務の講演も行いました。
警察官から弁護士へ 異色の経歴
──弁護士を目指された経緯ですが、もともとは警察官だったと聞きました。
前田 高校卒業後、勉強があまりできなかったため大学には進学せずに滋賀県警察官採用試験を受けて警察官になりました。警察官のときは、交番や駐在所勤務、本部教養課勤務、留置場勤務、暴力団抗争事件の捜査本部での仕事などに携わりました。とくに、留置場勤務や暴力団抗争事件の捜査本部での仕事を通じて暴力団の特性を詳しく知ることができたのは大変貴重な経験になりました。
しかし、警察官の仕事というのは、どのような条件であればその場で被疑者を逮捕できるのか、逮捕の要件などは法律で細かく規定されており、実は現場判断がなかなか難しいのです。要件判断を誤れば違法逮捕となり人権侵害の誹りを受けることになりかねません。こうした警察実務経験を積むなかで、警察官として今後仕事をしていくには、法律をしっかり学び直さなければいけないと思うようになり、5年間勤務した滋賀県警察を退職して大学進学予備校に通った後、25歳で大学受験をして大学に進学しました。
大学で法律の勉強をしているうちに法学や法律実務への関心が強くなり、警察官に戻るのでなく弁護士になるために司法試験を受験しようと思い立ち、司法試験の勉強を続けてそのまま弁護士になりました。警察官としての職務経験は5年でしたが、現在、弁護士としてはその3倍程度の職務経験になりました。警察官のときの職務経験は、反社会的勢力対応の業務ではとくに役に立っています。
反社対策の重要性 疑われることすら危うい
──反社会的勢力への対策についても詳しいと聞いています。当社も情報サービスとして反社チェック等のデジタルサービスの充実を図っていますが、さまざまな相談が舞いこんできます。たとえば、とある弁当屋さんの場合だと、反社から弁当の注文がきたけれど、これは受けてもいいのかという相談があったりします。
前田 結論から言いますと、受けない方が安全ということになります。各都道府県で暴力団排除条例が定められていますが、反社に対する「利益供与の禁止」は最も基本的で重要なものです。ここでいう利益とは何かというと、必ずしも金品を提供することばかりではありません。反社の活動を助長したり、運営に資する利益を与えることも含まれるとされています。事業者が商品を販売し、相手方がそれに見合った適正な料金を支払うような場合であっても「利益供与」に該当します。たとえば、「ホテルが暴力団組長の襲名披露パーティーに使われることを知って、ホテルの宴会場を貸し出す行為」なども該当するとされています。ですので、反社勢力からの弁当の注文を受けることも、利益供与とみられる可能性があります。
利益供与と疑われる事案について警察の対応はとても厳しいです。私は債権回収会社の取締役弁護士もしており、日常の決裁業務だけでなく、コンプライアンス対応も行っています。金融機関から債権譲渡を受けた債権のなかに、債務者が反社である債権が混在している場合があるとします。そうした反社が債務者となっている債権についても、通常どおり回収しなければならないとされています。なぜかというと、通常どおり債権回収しない場合、たとえば債務免除や債務弁済猶予をした場合、それが債務者である反社にとって利益になるとして、反社に対する利益供与とみられる可能性があるためです。こうした債務者が反社である債権については、債権回収会社としては、外部の弁護士に債権回収委託をする等して適切な債権回収を行うことが多いです。
──反社とかかわりがあるとして企業名が公表されると死活問題です。
前田 反社に対する利益供与を行ったとみなされた場合、企業名が公表されるだけでなく、反社に対して利益供与を行っている密接交際者と認定され、当該企業の取引金融機関において暴力団排除条項に基づいて取引停止や口座解約をされてしまう場合があります。
こうした措置は企業にとって大きなリスクをはらんでいます。反社との関係が結果として事実無根である場合であったとしても、密接交際者であるといったん認定されて取引停止や口座解約された場合、そのことによって企業はたちまち資金繰りに窮するほか、金融機関との取引にも深刻かつ重大な影響が生じ、企業経営にとって致命傷になり得る大きなリスクがあります。
ですので、とにかく反社とは決して関係をもたない。あるいは、契約当初はわからず契約締結をしてしまったが、契約後に契約相手とのちょっとしたトラブルが契機となって反社である疑いが生じた場合には、速やかに弁護士や警察に相談して個別具体的な事案に応じた適切な対応を取る必要があります。警察も企業による反社排除には積極的に協力することになっていますので、早期に警察への相談や協力依頼などの対応を取ることが必要です。場合によっては警察と連携しつつ、民事的には契約の暴力団排除条項に基づいて反社と判明した契約相手に対して契約解除通知を行う必要も出てきます。
近時は、反社と関係を実際にもつことだけでなく、反社との関係を疑われることが企業活動への致命傷となるケースがありますので、反社対応については相当に繊細かつ迅速な対応が必要な時代になっていると感じています。
【文・構成:寺村朋輝】
<COMPANY INFORMATION>
富士パートナーズ法律事務所 福岡事務所
代 表:前田貴史
所在地:福岡市博多区博多駅東2-17-5
設 立:2019年2月
<プロフィール>
前田貴史(まえだ・たかし)
1973年、大阪市生野区生まれ。92年、滋賀県警察奉職し、5年間警察官として勤務。2002年、立命館大学法学部卒業。08年、同志社大学大学院司法研究科修了・司法試験合格。09年、最高裁判所司法研修所修了(62期)・弁護士登録。13年に独立して、15年に大阪にて弁護士法人を設立。19年、京都にて富士パートナーズ法律事務所設立、弁護士法人富士パートナーズ設立。法人名
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