2024年04月25日( 木 )

現代アートは資本主義を最も先鋭的に表現する!(2)

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東京画廊代表取締役社長 山本豊津氏

15作品にどんな価値があるかを客観的に判断できる能力

――前回は「アート」と「資本主義」の関係をお聞きし、目から鱗が落ちました。ところで、先生は著書の中で、「良いアーティストは作品を作る才能と同時に、その作品にどんな価値があるかを客観的に判断できる能力がある人です」と書かれています。どういう意味でしょうか。


山本 どの人も日頃、「ものごとは主観だけで見ないで、客観的に見るようにしなさい」とアドバイスされる機会が多いと思います。このごく普通に使われている客観的に見ると言う概念ですが、いつから始まったかご存知ですか。これは、近代から始まった概念なのです。近代になって自己が分裂したからです。どういうことかと言うと、近代以前は、多くの人は、例えば、田舎で朝早く起きて田・畑の仕事をして、日が暮れると家に帰るという生活をしていました。つまり自分の食べるものは自分で作っており、自分の足で歩いていました。この場合は、自己は分裂していません。


しかし、近代になって、多くの人が都会に出るようになり、自己が分裂し始めました。自分の食べるものは自分で作れなくなり、移動には自分の足でなく、電車や車を使うようになります。この分裂は、肉体的だけに留まらず、精神的にも大きな影響を与えていくことになります。

その結果、近代以降は、自分で主観的に思い込んでいることだけでは、その思い込んでいる自分自身の全体像さえ把握することができなくなったのです。この点を理解することは、美術家、芸術家を志す人にとっても、とても重要になってきます。


アーティストは自分の主観的な価値判断から作品を創造しますが、出来上がった時点で、その作品を客観的に評価できないといけません。自分の作品は、美術史上どのよう意味を持つのか、自分の出したメッセージは他人に正しく伝わっているか、自分や自分の作品が、過去、現在の作品の中で、どのような位置関係にあるのかなどです。私は、そこまでできて、初めて作品としても商品としても価値のある芸術が生まれると考えています。


画家は、作品を「作る自分」と「見る自分」とに分裂しています。そこで、必然的に、良い作家というのは作品を作る才能と同時に、その作品にどんな価値があるかを客観的に判断できる能力がある人のことを言うことになります。レオナルド・ダヴィンチなどがその代表ですが、現在、過去を問わず、世界的に認められている美術家、芸術家は、すべからく「作る能力」と「見る能力」のバランスがとれています。

美術内美術ではなく社会の中の美術であるべき

――興味ある見方ですね。浅学のため、今まで絵画、彫刻などの芸術作品をそのように鑑賞したことはありませんでした。


山本 僕たち美術商は、作品の内容を理解し、現在の動向や美術史の中で、その作品がどのような意味があるのかを判断する能力が必要とされます。そのために、美術史や絵画の世界の情報をたくさん知っていなければ務まりません。僕たちは、作り手である画家たちのように、絵を描き、新たな価値を見出すことはできません。しかし、画家以上に、たくさんの作品を見ていることで、その作品の意味と価値を正しく判断することに、敏感になっています。


日本の現在の美術・芸術大学の教育は、作ることばかりに専念させ、自分の作品を客観的に見る能力を養成することに欠けているように思えます。そのために、作り手の多くは見る能力が衰えています。専門の大学だけでなく、一般の方を含めてこの部分の教育はできていません。

しかし、これは結構重要な問題なのです。それは、見る能力は養うことはできますが、作る能力は養うことができないからです。もっと言えば、作りたい人は、技術的なこと(絵の具の使い方、筆の使い方・・・)など基本を教えれば、「作るな!」と言っても勝手に作り続けるものです。しかし、その彼・彼女らも、見る能力を養わないと、作品が内に閉じこもってしまい、いい作品はできません。


美術商の仕事は美術内美術ではなく、社会の中の美術でなければなりません。そうしないと、絵を売る時、どのような判断で売るのかが曖昧になってしまうからです。美術内美術では、「私の好みをあなたは好きですか?」ということになってしまいます。そのような作品は多くの場合、将来的に高い評価を得ることはありません。東京画廊は、日本で初めて現代アートを取り上げた画廊です。今では、何十億円という値段がつくようになったルーチョ・フォンタナやイブ・クラインなどの作品をまだ数十万円だった時に、日本に紹介しています。


そこで、一般の方にも、美術そのものが現代社会の中で、どのような意味を持つのかをご理解頂きたいと思ったことも、この本を書いた動機の1つになっています。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>

山本 豊津(やまもと・ほづ)

東京画廊代表取締役社長。1948年、東京生まれ。71年、武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。元大蔵大臣村山達雄秘書。2014、15年アート・バーゼル(香港)、15年アート・バーゼル(スイス)へ出展、日本の現代美術を紹介。アートフェア東京のコミッティ、全銀座会の催事委員を務め多くのプロジェクトを手がける。02年には、弟の田畑幸人氏が北京にB.T.A.P(BEIJING TOKYO ART PROJECTS)をオープンした。

 

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