NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
今回は4月30日の記事を紹介する。
1995年、WTO(世界貿易機関)がスイス・ジュネーブに設立された。国際商工会議所日本支部より商社で貿易実務に携わり、大学で貿易を研究する学者を、WTO船積前貿易紛争処理委員に任命したいとの動きがあった。その結果、大学で国際貿易論を担当していた日本大学の新堀聰教授(元三井物産)、日本福祉大学の絹巻康史教授(元丸紅)とともに、筆者・東京経済大学教授(元ニチメン=現双日)が選ばれた。
WTOジュネーブ本部では、貿易紛争上級処理委員として国際商法権威の東京経済大学現代法学部谷口安平教授が活躍しておられた。WTO創設10周年記念会議がスイスで開催される機会に、2005年にWTO本部を訪問。谷口安平上級委員とともに会議に参加。日本での10周年会議は東京経済大学、およびWTO研究所を有する青山学院大学、国連大学と共催で開催。米国ではニューヨーク・コロンビア大学が主催。南米の貿易大国ブラジル・サンパウロで開催。会議後、筆者がかつて駐在したサンパウロの日本人街・ガルボンブエノの日本レストランに谷口教授を案内。ブラジル駐在時代を懐かしく思い出すことであった。
今回のトランプ政権の高関税措置は貿易自由化を進めるWTOの貿易政策、方針にも反し、かつまた第二次世界大戦後の貿易金融自由化を推進したブレトンウッズ協定にも違反。世界の経済、貿易に悪影響を与えつつある。ブレトンウッズ体制の目的は高関税競争と世界経済不安によって二度と大戦を引き起こさないことを目的に米国が主導。米国ニューハンプシャー州ブレトンウッズで第二次世界大戦中の1944年7月に会議が開催された。
その結果、IMF(国際通貨基金)、IBRD(国際復興開発銀行=世銀)を創設。世界の貿易、通貨安定に貢献してきた。 その創設者の米国がトランプ第二次政権のもと、米国一国主義で矢継ぎ早に先進国、発展途上国を問わず高関税をかけ、世界の貿易、経済に悪影響をもたらしているのは、WTOの自由貿易主義にも反し、問題である。
4月29日、南米リオデジャネイロで開催のBRICS外相会議にはグローバルサウスの有力国、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦、インドネシアの11カ国が参加。会議に参加した中国の王毅外相は「BRICS諸国は多角的な貿易体制を守り、あらゆる形態の保護貿易主義に反対し、ルールに基づき世界貿易機関(WTO)を中心に貿易自由化を円滑化し、促進させるべきだと訴え、さらに人工知能(AI)、デジタル技術の機会共有を力説した」。さらに「グローバルガバナンスは重要な岐路に立っている。国際金融構造改革、先進国の環境保護義務の履行を強く訴えた」という。
日本もこの機会に発展途上国、アジアのASEAN諸国を代弁し、米国に毅然たる態度で対応すべきであろう。
<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。