「人が支える鉄筋工事業」創業70年企業の成長と継承

今本工業(株)
代表取締役 今本健一 氏

今本工業(株) 代表取締役 今本健一 氏

 創業から70年以上、地域に根ざしながら鉄筋工事を手がける今本工業(株)。リーマン・ショックの危機を乗り越え、現在はベテランから若手・外国人材が連携する体制を確立。4代目社長となる今本健一氏に業界環境や職人不足、働き方改革への対応などを聞いた。

強みは実績と機動力

 ──御社の概要および強みをお聞かせください。

 今本 祖父が起業した当社は私で4代目となり、社長に就任したのは2021年6月でした。創業は1952年で、当時は祖父や父の兄弟を含め、5人ほどで始めたと聞いています。地元に根ざして事業を続け、社員数も徐々に増えていきましたが、リーマン・ショックの影響は大きく、一時は社員6人程度にまで縮小せざるを得ませんでした。その後、営業や人材確保の努力を地道に続けて、今に至ります。

 現在の社員数は27名で、うち現場の職人が15名、工場の鉄筋加工スタッフが7名。そのなかには、外国人技能実習生や特定技能の方も9名います。彼らは、最初から現場に出せるほど経験のある子もいますし、性格を見て配置を判断しています。社員の平均年齢は30代後半。今が人員面でも売上面でも、ピークといえると思います。

 当社の強みとしては、一番はやはり“人”ですね。取引先の要望にすばやく対応できる機動力は、職人や工場スタッフが十分そろっているからこそ発揮できます。近年、物件が大型化していることもありますが、先代や叔父たちが築いてきた信用と実績のおかげで、多くの工事案件についてご相談いただいております。その結果、他社で手が回らないような案件も当社にお声がけいただけるようになり、売上増につながりました。

職人育成にも変化が

 ──採用および教育は、どのように行われていますか。

 今本 採用においては中途採用がメインで、私が職人時代に培った人脈を生かして徐々に増やしています。また、高校訪問も行っており、昨年と今年は、新卒を迎え入れることができました。

 職人の育成については、70歳を超えても働いてくれているベテランもいるので、若手への技術継承にも役立っています。ただし、図面を拾い出して鉄筋を加工し、実際に現場で組み立てられるようになるまでには、最低でも5年から8年かかります。現場は忙しく、口頭で細かく教えるのが難しい場面も多いです。そこで動画マニュアルを作成しようと考えています。新人があらかじめ基本を頭に入れたうえで現場に入れば、職長やベテランも教えやすいですし、本人の理解度も高まると思います。

 ──地場の業界についてはいかがですか。

 今本 たしかに忙しい状況が続いているのですが、実際のところは工事件数や床面積が大幅に増えたわけではありません。むしろ職人が減ったことで、1人ひとりの負担が増し、「忙しく感じる」構造になっています。福岡市や熊本市では需要が堅調ですが、全体を見わたすと、地域によってバラつきも大きいです。

 ──働き方改革や残業規制への対応はいかがでしょうか。

 今本 土日休みを原則としていますが、民間の施主さんや元請さんの都合で土曜も出ざるを得ない案件が少なくありません。その場合は、平日に休んでもらうなどして調整しています。公共工事は週休2日を取りやすいのですが、民間の場合は価格と納期が優先されるため、なかなか難しいところです。とはいえ、夏場には炎天下のなかでの作業を避けるため、昼の休憩を2時間にしたり、交代制で休日を確保したり、いろいろと試行錯誤しています。

鉄筋工事業の魅力は

 ──出前授業もされていると聞きました。

 今本 建設産業専門団体九州地区連合会で近隣の工業高校を訪問し、業界の説明や出前授業・技能講習を行う「学校キャラバン」を年1回行っています。そのほか、技能職団体連合会の青年部で活動しており、小学校への出前授業も年3回ほど実施しています。出前授業では、ミニチュア化した模型を小学校に持参して、子どもたちに鉄筋の結束などの組み立てを体験してもらいます。普段は当たり前に暮らしているマンションや学校などの建物の「骨組みがどうなっているのか」をリアルに知ってもらうことで、ものづくりの面白さを感じてもらえれば、と。意外と大人でも知らないことが多いですし、将来、工業高校や建設業を選ぶきっかけになればと思っています。

小学校での出前授業
小学校での出前授業

 ──鉄筋工事の仕事の魅力とは、どんなところにあるのでしょうか。

 今本 鉄筋工事は建物の“骨”をつくる仕事で、構造の中核を担う重要なポジションです。やり直しがきかない責任の重い仕事ですが、その分完成したときの達成感は大きいですね。図面を基に材料を拾い出して実際に組み上げていき、すべてを自分の手でかたちにしていくプロセスは、ものづくりの醍醐味そのものです。1人立ちできるまで5~8年かかる職人の世界ですが、その分やりがいも大きいです。重労働のイメージが強いかもしれませんが、昔と比べて機材も改善され、重過ぎるものを無理にもたされるようなこともありません。適度な体力づくりにもなりますし、体を動かすのが好きな方には、ぴったりの仕事だと思います。

働きやすい環境づくりを

 ──最後に、御社が目指す将来像は。

 今本 職人不足は今後さらに加速していくと考えられ、業界全体として若者や女性が働きやすい環境づくりが一層求められます。当社は人材に恵まれているほうですが、ベテランがいつまでも働けるわけではなく、若手を育成する仕組みを進化させていかないといけません。地域に根ざしながらも、新技術や時代の流れに適応できる企業へとアップデートしていきたいですね。

【内山義之】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:今本健一
所在地:北九州市八幡西区野面2008-4
設 立:1972年10月
資本金:1,000万円
URL:https://imamotokogyo.com/


<プロフィール>
今本健一
(いまもと・けんいち)
1984年8月生まれ、北九州市出身。社会人となり複数の会社勤務を経て、2004年、今本工業(株)に入社。19年に取締役に就任、21年6月に代表取締役に就任した。技能職団体連合会の青年部に所属し、小学校への出前授業などに携わる。

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