空き家・所有者不明土地の問題 法律家と専門家の連携で解決に導く

(同)負動産の窓口

空き家 イメージ    空き家、耕作放棄地、荒廃した山林──。こうした不動産は近年、所有者と相続者にとって負担・負債と認知されるケースがあることから、「負動産」と呼ばれることもある。彼らにとって、それをどのように処理することが適正なのか、わからないことが多いからだ。(同)負動産の窓口は、法律と不動産の知識と知見を生かし、そうした悩みを解決するソリューションを提供する存在である。空き家問題を中心とした取り組み内容について、同社代表で弁護士の荒井達也氏と空き家事業部の責任者である鶴岡純氏に聞いた。

災害時に法的責任を問われるケースも

 「空き家」や「所有者不明の土地」が、全国各地で問題となっている。空き家問題については、地域の資産価値の低下や景観悪化、安全面の懸念、不法投棄や犯罪の温床になることが懸念されており、それは地方はもちろん、都市部も例外ではない。総務省の「令和5(2023)年住宅・土地統計調査」によると、空き家は全国に900万戸あるとされている。所有者不明の土地問題は、農業・林業に携わる人たちの高齢化や従事者人口の減少、後継者不足にともなうもので、耕作放棄地が増加。周辺環境にも病害虫・鳥獣被害の発生、雑草の繁茂などの悪影響をおよぼし、山林では倒木によるトラブルも発生している。

 このほか、負動産を相続した方を狙った詐欺なども増えていることも、問題の1つといえる。数多くの負動産の処分・対応実績がある荒井達也弁護士は、「たとえば、21年7月に起きた静岡県熱海市の土砂災害をはじめ激甚災害が頻発していることから、土地所有者に求められる法的責任や社会的責任は重くなっている」としている。

 これらの問題に対して、自治体による特定空き家の指導・除却命令・行政代執行を可能にする「空家等対策の推進に関する特別措置法」(15年施行)や、不要な土地を国に返す「相続土地国庫帰属制度」(23年施行)、不動産を相続した人は3年以内に登記申請を必要とする「相続登記の義務化」(24年施行)、さらには「空き家バンク制度」など、国や自治体も法制度の整備を進めている。

 しかし、問題は改善しているとはいいがたい。それは、弁護士を含む専門家にとって、負動産は「お金にならない分野」であり、精通している専門家が少ないからである。加えて、空き家や相続した不要な山林・農地などは過疎地域にあることが多いが、その相続人は都市部に住んでいるケースがある。この場合、一般の人たちが現地で信頼できる専門家を探すのが難しいことも、問題解決が進まない状況をつくり出している。

司法書士や土地家屋調査士と連携

 負動産の窓口は、弁護士である荒井氏が起業した負動産放棄専門サービスを展開する不動産会社。「子どもや孫の世代に迷惑をかけたくない」「誰も引き取ってくれない」「相続はしたものの、どうしたらいいかわからない」などと悩む、負動産の所有者やその相続(予定)者に向けた助言をしている。また、同社のスタッフはもちろん、荒井氏がもつ法律知識と不動産会社としての専門知識、さらに提携する全国の協力専門家(弁護士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士)とのネットワークを駆使して、問題の解決にあたっている。

 同社では、「公式LINE」を開設し、負動産の放棄に成功した人たちの事例や、そのために参考になるトピックスに関する動画や資料の提供、セミナーの開催などを行っているのも特徴だ。同LINEの登録者には、多くの動画が無料視聴可能となるほか、荒井弁護士への無料相談券(初回30分)、弁護士費用1万円割引券が取得できるなどの特典がある。こうしたサービスを通じて、これまで売却、放棄ができなかった人たちからの依頼のうち、約94%を成功させているという。

公式LINEを開設している
公式LINEを開設している

 さて、荒井氏は負動産の処分にあたり、大きく2つの方法があるという。1つ目は費用を節約して、自分1人で手間と時間を掛けて処分する方法。2つ目は費用(目安は約50〜60万円)を負担して専門家を頼りながら、手間と時間を節約する方法だ。前者については、「隣地の所有者に売却・譲渡する」「自治体に寄付する」「値段がつかない不動産(負動産)を売買するサイトを利用する」「相続土地国庫帰属制度を利用する」「相続を放棄する」などといった方法がある。

詐欺や悪徳商法のリスクも

 このうち、隣地の所有者に売却・譲渡する手法については、「隣地の所有者にとっては、売れない土地でも魅力的なことがあります。土地柄もよくわかっていることが多いため、トラブルリスクも低いです。もちろん、過疎地域だと、『私もその不動産はいらない』といわれることもあります。とはいえ、コスパが良い方法ですから、ぜひダメ元という心持ちで試してみましょう」(荒井氏)という。

 なお、「不動産引き取りサービス」の利用ではトラブルが急増しており、注意が必要だという。「数十万円から100万円ほどの手数料を支払うことで、不動産を引き取ってくれるサービスが増えています。ただし、詐欺や悪徳商法が多く、国も注意喚起をしているため、利用はおすすめできません」と、荒井氏は指摘している。

 また、相続放棄についてもプラスの財産を先に生前贈与で逃がしておこうと考える悪質なケースでは、裁判所で無効と判断される可能性がある。相続放棄の記録には保存期間があり、保存期間が経過すると、記録が廃棄されて、裁判所で相続放棄の証明ができなくなるが、この場合、ある日突然知らない土地の相続人になってしまうなどのケースとなる可能性があるという。

放置された空き家。景観を損ない、周辺の資産価値に悪影響を与える懸念もある
放置された空き家。景観を損ない、周辺の資産価値に悪影響を与える懸念もある

相続土地国庫帰属制度のメリットとは

 荒井氏が推奨する手法の1つが、相続土地国庫帰属制度の利用だ。相続した土地について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」「周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要であるが、負担が大きい」といった理由により、土地を手放したいというニーズが高まっていることに対応するため、土地を手放して国庫に帰属させるもの。相続、または遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部または全部を譲ること)によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に利用できる。何より国が相手であるため、安心して手放せるのがメリットだ。

 「家屋付きの土地」が要件を満たさない、審査手数料(1件1万4,000円、負担金20万円~)など条件が厳しいという指摘もあるが、「25年2月28日現在で、1,426件が承認され、承認率は93%と高確率であり、決して条件が厳しいとはいえません。実際に、私の相談者のなかにも、国庫帰属制度で土地を手放した方や、この制度を申請して国の審査を受けている方がたくさんいます。もっと、皆さんに国庫帰属制度を正しく理解してほしいと感じています」と荒井氏は語っている。公式LINEなどには、同制度に関する詳細な説明記事や動画も用意されているので、気になる人は参考にすると良いだろう。

九州、福岡で増えるサービス提供

 ところで、空き家や所有者不明土地に関する九州におけるサービス提供の現状、とくに空き家問題に関する取り組みはどうなっているのだろうか。負動産の窓口で空き家事業部の責任者を務める鶴岡純氏に話を聞いた。

鶴岡純 氏
鶴岡純 氏

    まず、九州の状況について、鶴岡氏は「最近、九州―とくに鹿児島県などからのご相談が非常に多くなっています。もちろん宅地建物のご相談もあるのですが、なかでも山林に関するもので、『相続したものの、その土地に住んでいない』あるいは『山の場所もよくわからない』といった所有者の方からの相談を多く受けています」と話している。

 また、福岡県では宅地建物の相談が多く、これまで引き取り手が100%見つかっているとのこと。「福岡市の中心部からアクセスしやすい場所、具体的には片道2時間圏内ぐらいですと、買い手が見つかりやすいケースが多いです。もちろん、築年数や状態にもより、1,000万円、2,000万円といった高値で売りたいという場合は難しいですが、自分たちの代で片付けて、子どもや孫たちに引き継ぐのはここで止めるんだ、という強い気持ちがある方、自分の代で片付けるんだという強い気持ちがある方であれば、処分がしやすい傾向にあります」。

空き家になる前に対処することが重要

 鶴岡氏がとくに強調するのが、どんなに老朽化が激しい建物でも周囲に危害を加えないなど、安全性を確保できれば解体しないことだ。「築100年以上の建物があっても、取引が成立するケースがある」と強調する。リノベーションをして、古民家風の住居や商業施設などとして活用するニーズがあるためだ。また、空き家になる前に処分することの重要さを説く。

 「空き家の期間が長くなるほど劣化が進むので、住んでいるという実績があるのは重要なことなのです。所有者が元気なうちから買い手を探し始める、あるいは仮に空き家になっても、早めに買い手探しに動くことがとても大切です」と話す。

 負動産の窓口に相談が寄せられた空き家については、国庫に帰属する前に、引き取り手が見つかったケースが約98%にのぼるとも指摘していた。なお、同社では今後、提携先の拡大などにより、宿泊施設へのリノベーションといった空き家活用事業にも着手する計画だという。

【田中直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:荒井達也
所在地:前橋市元総社町2691-6
    ルアナ元総社406
設 立:2022年4月
TEL:027-225-2296
URL:https://souzokutochi-kokkokizoku.com/


<PROFILE>
荒井達也
(あらい・たつや)
福井県あわら市出身。2010年法政大学法学部卒業後、12年に明治大学法科大学院を修了し、13年に弁護士登録。20年に「荒井法律事務所」を開設。群馬弁護士会所属。18年から22年まで日本弁護士連合会「所有者不明土地問題等に関するWG幹事」として相続土地国庫帰属制度の制定に関与した。現在、群馬弁護士会「空家対策プロジェクトチームリーダー」、前橋市空家等対策協議会委員、国土交通大学校講師を務めている

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