口呼吸は無意識に行いがちな習慣ですが、健康を害するリスクが潜んでいます。日本人の約90%が口呼吸をしているといわれるなか、鼻呼吸がもたらす驚くべきメリットとは?今回の連載では、口呼吸の危険性と鼻呼吸が健康に与えるポジティブな影響を詳しく解説し、日常生活で実践できる方法をご紹介します。
鼻呼吸の優れた理由
日本人の約90%が無意識に口呼吸をしているとされますが、口呼吸は健康に深刻な悪影響を及ぼします。いびき、睡眠時無呼吸症候群、睡眠の質の低下を引き起こし、日中の集中力やパフォーマンスを低下させます。睡眠中、口周りの筋肉が緩み、舌根が沈下して気道が狭まると、呼吸が浅くなり、酸素不足に。疲労感や体調不良が蓄積し、口内の乾燥から歯周病や口臭の原因にもなります。
一方、鼻呼吸は「天然のマスク」として空気中のほこりや細菌を濾過し、浄化された空気を肺に送ります。口呼吸より多くの酸素を効率的に取り込み、全身の細胞に酸素を供給して代謝を活性化。肺には筋肉がないため、横隔膜をしっかり動かすことが重要です。吸うより吐くことを意識し、鼻から二酸化炭素をしっかり吐き出すと呼吸の質が向上します。鼻の高い位置を意識することで、鼻腔を活かした深い呼吸が可能です。
吐くことを意識する
鼻呼吸では、喉頭蓋(気管への弁)が開き、軟口蓋(鼻への弁)が下がり、空気が鼻腔を通って吐き出されます。このプロセスをスムーズにするには、口角を上げ、鼻唇溝(ほうれい線)を意識することが重要。表情筋が活性化され、鼻呼吸が自然に促されます。舌回し運動で口周りや舌の筋肉を強化すると、睡眠時の口呼吸を防ぎ、舌根の沈下を抑えて気道を確保。いびきや無呼吸のリスクが軽減されます。
マスク生活では表情筋の使用が減り、口呼吸になりがちです。現代社会のストレスは自律神経を乱し、疲労や体調不良を引き起こします。鼻呼吸は自律神経を整える簡単で効果的な方法です。深い呼吸で副交感神経が優位になり、心拍数が抑えられ、リラックス状態になります。吐く際に「吐き切る」ことを意識し、鼻からゆっくり息を吐き、横隔膜を動かすと酸素の取り込み効率が向上します。日常生活で鼻呼吸を意識し、習慣化しましょう。
鼻呼吸の健康効果
鼻呼吸は血流を改善し、血管の平滑筋のアンチエイジングに役立ちます。糖化を防ぎ、血管の柔軟性を保つことで血管年齢の若返りが期待でき、心臓病や脳卒中のリスクが低下します。また、口呼吸より深い呼吸が可能で、酸素供給量の増加により代謝が活性化し、疲労回復が早まり、免疫力も向上します。
マウスピースや鼻CPAP(持続陽圧呼吸療法)は睡眠時無呼吸症候群の一時的な対処法にすぎず、根本的な改善にはなりません。鼻呼吸を習慣化すれば、呼吸の質が向上し、健康問題を予防できます。鼻呼吸のメリットを活かすには、日常的な意識と実践が重要です。吐く際に鼻を意識し、口角を上げて鼻唇溝を感じる習慣を取り入れましょう。これにより顔の筋肉が鍛えられ、鼻呼吸が自然になります。このほか、舌回しトレーニングも効果的です。
次回は「唾液の驚くべきパワー」を解説。唾液は口内環境を整えるだけでなく、消化促進、免疫力向上、抗菌作用など全身の健康を支えます。唾液の秘めた効果に注目し、健康への一歩を踏み出しましょう!
歯科医師 大村豊(おおむら・ゆたか)
1964年3月23日福岡県柳川市生まれ。福岡歯科大学卒業後、大学院で舌の発生学を研究。2002年10月に福岡市百道浜で大村歯科クリニックを開業し、予防歯学を重視した診療を展開。オーラルフレイルに早期から着目し、独自の口腔機能向上プログラムを通じて患者の生活の質向上を図る。現在も「口の健康が全身を支える」という信念のもと、研究と臨床の両面から口腔ケアの重要性を訴え続けている。