【北国巡り4】東尋坊 北陸新幹線延伸が後押しする“もう1つの拠点”

    福井県坂井市の景勝地・東尋坊は、日本海に面した断崖絶壁として知られている。地質の側面から説明すると、約1,300万年前の火山活動に由来する柱状節理で形成されており、「柱状節理世界三大絶勝」の1つとされる。1935年には国の名勝・天然記念物に指定された。

 筆者は初めて現地を訪れたが、断崖絶壁で崖の縁には一部を除いて柵や手すりがなく、自然のままの状態で、解放感はあるが絶壁のそばまで行く勇気はなかった。また、平日の午後3時前後だからか、観光客はまばらで、よけいにそう思えたのかもしれない。

 東尋坊という名の由来には、平安末期の僧・東尋坊の悲劇的な伝説がある。乱暴で恐れられていた東尋坊は、同僚の僧により崖から突き落とされ、その後暴風が続いたことから、この地名が定着したとされる。かつては「自殺の名所」として知られたが、現在では伝承を活用した観光資源としての位置付けが進められ、文学碑の設置など文化的側面の整備が進んでいる。

 同地の観光客数は2015年の147万人をピークに推移していたが、20年には新型コロナの影響で67万人に減少、21年にはさらに45万人にまで落ち込んだ。しかし、22年以降は回復傾向にあり、23年には来訪者数が80万人を超えるまでに回復してきている。観光客の大半は県外からで、アジア圏、とりわけ中国・台湾からの団体旅行を中心に、インバウンドも緩やかに回復傾向にある。福井県の調査によれば、観光地としての23年の東尋坊の集客者数は県内で6位。一乗谷朝倉氏遺跡(4位・97万人)などと並び、県観光の柱の1つとなっている。

    こうした観光復興の兆しを受け、坂井市は20年に「東尋坊再整備基本計画」を策定した。23年には同計画を改訂し、段階的な整備を開始している。老朽化した施設の撤去とともに、展望・学習・交流の機能を備えたビジターセンターを建設予定だ。さらに、アクセス道路や駐車場の動線を見直し、混雑緩和や回遊性向上を図る計画で、28年度の完成を目指している。

 インバウンド需要への対応も加速している。観光案内所には多言語対応のデジタルサイネージが設置され、アプリを活用した音声ガイドやWi-Fi整備、キャッシュレス決済など、利便性の高い受け入れ体制が整えられつつある。SNSを通じた情報発信も強化され、若年層や訪日観光客の関心をひきつける動きが進む。

 東尋坊は今や、荒々しい自然美にとどまらず、歴史や伝承を内包した複合的な観光資源へと進化している。坂井市はこの地を北陸新幹線の延伸効果を追い風に「もう1つの北陸観光拠点」として再定義し、新幹線開業効果と連動した観光政策の柱に据える構えだ。

【内山義之】

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