朝倉市の「よか良家プロジェクト」

想創舎(株)手嶋組
代表取締役 手嶋誠一 氏

想創舎(株)手嶋組 代表取締役 手嶋誠一氏

 新築住宅の市場が勢いを失っている。とくに地方部の中小工務店にとっては、その影響が大きい。そうしたなか、福岡県朝倉市周辺の工務店は合同で総合住宅展示場を開設し、集客と受注、さらには地域の活性化でも成果を上げている。朝倉市地域住宅活性化プロジェクト「よか良家(よか)プロジェクト」によるもので、その取りまとめ役である想創舎(株)手嶋組の代表取締役・手嶋誠一氏に、これまでの成果や今後の展望について話を聞いた。


■よか良家ヴィレッジ(第2期)
福岡県朝倉市甘木1188-4
URL :https://yokayoka-p.com/
TEL :080-1983-3920(センターハウス)
開設期間:2024年11月~25年10月
出展企業:(株)エステート工房、(株)三連工務、時川建設(有)、フルハウス(株)、想創舎(株)手嶋組

苦戦する地域工務店

 ──プロジェクトを発足した経緯について、お聞かせください。

 手嶋 近年、朝倉市などの地方部の住宅市場では、ハウスメーカーやパワービルダーなどが勢力を伸ばしており、地元の工務店がシェアを減少させています。たとえば、朝倉市では新築戸建の約8割が大手ハウスメーカーなどによるもので、地元工務店による供給は約2割にとどまっている状況です。これにより、持続的な成長や事業継続の意欲を失いつつある工務店がありますし、大工や電気など専門工事を行う職人に仕事が行きわたらず、地元が潤わない状況にもなっています。私が知る限り「朝倉で働きたい、住み続けたい」という若者もいるのですが、彼らは仕事や収入を得ることができないため都会に流れ、その結果、地域の活力が失われつつあります。一連の状況に危機感を覚えていたのが、プロジェクトに取り組む大きな理由でした。

 ある建材メーカーの紹介で、青森県五所川原市で複数の地域工務店が協力して合同で総合住宅展示場を開設し、成果を上げている事例を知りました。現地を視察し、ノウハウを参考にして、2020年に朝倉市や久留米市、うきは市などにある6社が集まってプロジェクトがスタートしました。展示場土地の用意や、建設するモデルハウスの仕様(高気密・高断熱・耐熱等級5以上、耐震等級3、長期優良住宅、オール電化)、展示場運営のルールなどを定め、2021年9月から22年8月の1年間、第1期展示場「よか良家ヴィレッジ」(朝倉市柿原)をオープンさせました。なお、モデルハウスはプロジェクトの期間終了後、お客さまに売却するものです。センターハウス(受付・管理棟)も設け、来場者は複数のモデルハウスを一度に見学でき、各工務店が公平に商談や受注の機会を得られる仕組みとしました。

圧倒的な集客力を実現

 ──成果はいかがだったのでしょうか。

 手嶋 最大の成果は集客力でした。1年間で667組、約1,600人のお客さまが来場され、私たちは合計で44棟の成約を得ることができました。単独での集客には限界がありますが、6社が集まる住宅展示場では、多くの方々から高い注目を集めることができたのです。6社はこれまで展示場に出展した経験がありませんでしたから、このように一度に多くのお客さまに出会えたことは、強い刺激となりました。また、お客さまはこれまで住宅取得を検討する際、久留米市や大野城市にある住宅展示場を訪れていたのですが、「近くに展示場があり気軽に訪問できる」と高評価を得ることができました。

 プロジェクトを展開するなかでは、定例会議や勉強会を通じてイベント開催手法を工夫するなど、会社の垣根を越えた交流と協力が行われ、それにより各社で接客に関するノウハウ、技術を向上させるといった成果を得ることができました。また、6社のなかには事業継承に強い不安を感じていた企業がありましたが、このプロジェクトを展開するなかで手伝いにきたその企業経営者のご子息が、跡取りになることを決意されたという喜ばしい出来事もありました。

女性が主役の第2期

 ──第2期(24年11月~25年10月までの予定)は、いかがでしょうか。

 手嶋 参加工務店の顔ぶれが変わり、建築するモデルハウスの内容にも変化が見られました。基本的な仕様は同じですが、たとえば平屋建と2階建の混合だった第1期から、第2期はよりリーズナブルな住宅取得を望む消費者ニーズの高まりといった市場環境の動向に合わせて、平屋建に統一しています。

 また、第2期は参加各社の代表の奥さんが主役となって展示場を運営していることが、特徴の1つです。これまで経理などの事務を担当していて営業経験がなかった方々ですが、イベントを運営するうえで女性・主婦ならではのアイデアを出し合うなど、これまでにない活気を感じられるようになりました。受注に苦戦している会社の状況を改善するアイデアを、ほかの会社の奥さんたちが一緒になって出し合っているといった具合です。

自治体との連携強化

 ──今後については、どのようにお考えですか。

 手嶋 地元の自治体や関係者との連携をより強化したいと考えています。たとえば朝倉市には「あさ暮らし住宅補助金」事業(1件100万円)がありますが、これまではあまり活用されていませんでした。ところが、第1期プロジェクトを通じて6件の活用実績がありました。もしプロジェクトが行われなければ、この実績はなかったのかもしれません。プロジェクトへの取り組みによって、私たちが市の地域活性化策に貢献できることを確認できたわけです。今後は連携を一層強めて、新たな成果を創出したいと思っています。
 もちろん、次の出展予定地の候補が挙がるなど、第3期の計画も進めつつあります。住宅着工が予想以上に減少している状況下ですが、「ライバルは大手、我々は仲間である」「地産地消」「地材地建」という当初からの想いをもち、小さな工夫を積み重ねながら、立ち止まることなくプロジェクトを進めてまいります。

【田中直輝】

■エステート工房
代 表:德田義則
所在地:福岡県朝倉市菩提寺585-6 
TEL:0946-26-0808
URL:https://estate-koubou.jp/
エステート工房    リビングダイニングからガレージを見ることができる間取り。11.25帖の広々としたロフトも設けており、収納のほか、子ども部屋、趣味の部屋、仕事部屋などさまざまな活用方法を提案している。隠し部屋のように使える「ヌック」があるのも特徴の1つ。

■三連工務
代 表:師岡榮治
所在地:福岡県朝倉市入地2983
TEL:0946-52-1810
URL:https://www.sanrenkoumu-asakura.com/
三連工務    子育て世帯はもちろんのこと、一人暮らしや「単身のお母さん+お子さん」「独身のお子さんとご両親」など、助け合いが必要な家族向けに設計されたモデルハウス。キッチンからすべてを見渡せる家事動線も見どころの1つとなっている。

■時川建設
代 表:時川貴紀
所在地:福岡県朝倉市杷木林田1136-1
TEL:0946-62-0824
URL:https://tokikawakensetsu.com/
時川建設    「こころ落ち着く家」をコンセプトに、テラスを囲むようにLDKを配置し、プライバシーを確保しながら開放的でくつろぎを感じられる空間を実現している。コンパクトでありながら、快適に生活できる工夫も随所に散りばめられている。

■フルハウス
代 表:北川秀幸
所在地:福岡県筑後市西牟田3777
TEL:0942-65-7921
URL:https://fullhouse30k.co.jp/
フルハウス    直営する熊本県小国町の製材所から調達した小国スギを、丸太からフローリング・壁板・天井板へと加工した環境に配慮した建物。2人住まいを想定した設計で、趣味の部屋、大容量の収納スペースを設けることでスローライフを提案。

■想創舎(手嶋組)
代 表:手嶋誠一
所在地:福岡県朝倉市堤615-1
TEL:0946-28-8244
URL:https://sososya.com/
想創舎(手嶋組)    常に家族とのつながりを感じられつつも緩やかに仕切られ、それぞれの時間も大切にできる空間づくりをしている。地元の甘木土を使った自然素材の塗り壁により、赤みがかった甘木土は柔らかい表情で、懐かしく落ち着きのある空間に仕上がっている。

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