(一社)アジア・インスティチュート
理事長 エマニュエル・パストリッチ
パランティア・テクノロジーズは、CIA出資を受けて設立され、米軍や連邦政府の諜報・監視システムを支える企業だ。近年はイスラエルとの協力やAI技術の軍事利用で存在感を強め、米国防産業の勢力図を変える存在となっている。本稿では、同社の起源からCIAとの関係、国際的な活動、創業者ピーター・ティールとアレックス・カープの思想的背景に至るまで、パランティアが目指す情報支配の実像を描き出す。
パランティアとデータ集中化の推進
パランティアは、トランプ政権下で進行中のデータの大規模な集中化を推進する最も強力な要因となっている。政府のすべての機関、FBI、IRS、諜報機関、企業が、すべての個人のファイルを統合し、そのデータを民間企業に提供しているからだ。このプロセスは主にパランティアを通じて行われているが、Google、アマゾン、メタ、オープンAIなども関与している。パランティアは「米国政府の中央オペレーティングシステム」を設計しており、アルゴリズムによる統治を可能にする。このアプローチは、パランティアの創業者であるピーター・ティールが提唱した「技術は政治の代替手段を提供する」という思想声明に沿っている。最終目標は、市民の反応が一切不可能となる、完全に技術で構成された政府を創造することだ。
パランティアは、政府や企業が大量の人々を追跡し、予測手法を用いて行動を操作し、行動を予測する技術革命を約束したため、COVID-19対応下で急速に台頭した。同社は、他のコンピューター上で実行可能で、情報を統合して一元管理するシステムソフトウェアを生産している。パランティアは、DOGE攻撃時に米国連邦政府の掌握に中心的な役割をはたした可能性があるが、詳細は不明だ。
戦争技術とイスラエルとの協力
パランティアの成功は、イスラエルのIDF(イスラエル国防軍)と協力して、社会を破壊し、権力と富の集中を可能にする新たな形態の低強度ハイブリッド戦争を開発している点にある。このモデルはガザで実施されており、パランティアは米国や世界中の警察とも協力している。
24年、パランティアはイスラエルと「パランティアの高度な技術を戦争関連任務を支援するために活用する」という契約を締結した。その技術の一部は現在、パレスチナ人を敵の可能性がある度合いに応じて1~100の数字で評価する「ラベンダーAIシステム」として見られる。その誤認率は10%で、イスラエルとパランティアにとって受け入れ可能な水準だ。この技術は現在、銀行(資金の流れを追跡するため)、警察(市民の追跡のため)、軍(追跡と殺害のため)に適用されている。最終的にこれらすべてが統合される予定だ。
パランティアはハブソラAIシステムを使用して、1日当たり100の攻撃目標を生成している。このソフトウェアは、移民の追跡、容疑者の追跡、パレスチナ人の追跡と殺害にも使用されている。プロジェクトの核心は、電話記録、ソーシャルメディア、移動パターンの完全なアクセス権限にあり、世界中で秘密裏に導入されている生体認証追跡システムとも連携している。
ピーター・ティールの思想と政治戦略
創業者ピーター・ティールとは何者か。ティールは子どもの頃チェスの天才であり、ビル・ゲイツを超える極端な野心を抱えている。彼は家族のドイツ系起源と南アフリカでの経験から、白人優越主義の思想を早期に抱き、その思想は彼の戦略の基盤となっている。その戦略は、白人人口の一部の層を動員し、キリスト教とイスラエルを擁護する技術主導の白人アメリカを築き、民主主義と政府への参加を終わらせるというものだ。ティールのもとでは、すべての政府はAIの機能に縮小され、このモデルに従いたいと願う同盟者が世界中にすでに存在している。彼は公然と反民主主義者だ。
ティールは、巨額の資金投入により、トランプ政権において副大統領となったJ・D・ヴァンスを政治家としてゼロから育て上げ、彼を早急に大統領に就かせたいと考えている。トランプが近い将来辞任し、後継者が就任する可能性は十分にある。ティールは公の人物であることに喜びを感じ、イーロン・マスクよりもはるかに頭脳明晰であり、ほとんどのCEOには見られない冷酷さをもっている。
彼のFounders’ Fundは、さまざまなITスタートアップ企業に多額の投資を行っており、この手段を通じて、ティールは自分よりも多くの資金をもつほかの億万長者たちよりも大きな影響力をもつことに成功している。彼の戦略的判断力は非常に優れており、テクノロジー、ガバナンスの性質、社会、金融の分野において、同時に何が起こるかを予測することができる。
ヤルヴィン思想とティールの世界観
ティールは、民主主義の終焉、憲法の廃止、技術に基づくファシズムの推進を主張するカーティス・ヤルヴィン(Curtis Yarvin)の哲学を効果的に活用している。ヤルヴィンは著書『パッチワーク』で、政府の廃止と多国籍企業による世界の統治を提唱している。彼は、強力なグローバルな反対勢力が形成されていないため、このプロジェクトを積極的に推進している。
アレックス・カープの個性と権力拡大
ティールとともにパランティアを創業したアレックス・カープについても説明しよう。カープは現在、パランティアのCEOであり、注目を浴びることを好む強い個性を持つ人物だ。彼はパランティアが情報、政府、お金、安全保障を前例のない方法で支配する可能性を見いだしている。彼はユダヤ系の家庭出身で、母親は黒人だ。しかし、進歩的な左派の背景にもかかわらず、彼はパランティアのファシスト的なイデオロギーを熱狂的に支持し、自身の技術で大量の人間を殺す能力に喜びを見出している。また、気に入らない人物に対して露骨な脅迫を行い、威嚇を試みている。
カープの権力基盤と思想的役割
カープは、アメリカとイスラエル、そして「西洋文明」が異質な文明を支配し自由を守るという、新たなネオ・ファシスト思想を構築している。彼は、過去のアメリカ政治言論にはない復讐と屈辱の修辞を用いている。敵を屈辱させ、貧しくさせよ、と彼はいう。
カープは従業員の間で自身の個人崇拝を築こうとしており、恐怖に依存している。彼のパラノイア的な性格は諜報機関に適している――家族はおらず、敵から身を守るために全時間を費やしている。
カープはスタンフォード大学時代からティールと親しく、2人で密接に協力してきたが、最近ではティールは金融と政治に深く関与し、カープはパランティアの致命的な拡大、とくに20年~22年のビル・ゲイツの取り組みを継承し、AIを活用して世界支配を目的としたイスラエルとの連携に注力している。
カープは好感のもてる人物ではないが、テクノロジーについて興味深い話し方をするほか、IT業界で育った多くの男性たちが育ってきたテクノロジー文化とそれを融合させる能力があり、イーロン・マスクが政府破壊の責任者に任命した人々のような、ある種のIT専門家やハッカーたちにとって、非常に魅力的な人物であり、ヒーロー的存在となっている。カープは、過小評価できないほどの忠誠心を彼らから得ており、重要な政治人物となっている。この新しい権力に関連するのは、議会や司法制度の弱体化、そしてパランティアのような民間企業の支配への移行だ。
カープの戦略とイスラエルとの連携
カープは哲学の博士号をもっている人で、米国社会がテクノロジーをもって西洋の価値観を異質文明の猛攻撃から守る義務があると想像して、ヤルヴィンと同様の思想的リーダーとしての役割をはたすことができる。しかも軍事力との結びつきはより強い。カープにとって、イスラエルの防衛、暴力と技術を用いて敵を破壊する脅威は、戦略の核心だ。彼の野心には限界がない。
彼は、他のIT CEOたちが単に利益追求に注力するなか、人々の発言内容と表現方法を制御することを主張してきた。カープは政府の代替機関を創設しようとしている。イスラエルとの緊密な協力の下、監視の新たな創造的な手法を通じて抑圧と国家統制を強化するプロジェクトが、この計画の核心を成している。
(了)
<PROFILE>
エマニュエル・パストリッチ
1964年生まれ。アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル出身。イェール大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(比較文学比較文化専攻)、ハーバード大学博士。イリノイ大学、ジョージワシントン大学、韓国・慶熙大学などで勤務。韓国で2007年にアジア・インスティチュートを創立(現・理事長)。20年の米大統領に無所属での立候補を宣言したほか、24年の選挙でも緑の党から立候補を試みた。23年に活動の拠点を東京に移し、アメリカ政治体制の変革や日米同盟の改革を訴えている。英語、日本語、韓国語、中国語での著書多数。近著に『沈没してゆくアメリカ号を彼岸から見て』(論創社)。