天神ビッグバンを前にした いまの新天町

再開発の流れのなかにある新天町

 天神のど真ん中に位置し、買い物や通り抜けに、毎日のように使われる場所──新天町。天神ビッグバン後半戦を象徴する再開発エリアの1つである。

 福岡市中心部で進行中の大規模再開発プロジェクト「天神ビッグバン」は、2026年末に第一フェーズの期限を迎える。これまでの制度では、26年末の竣工期限内に竣工する一棟単位の建替プロジェクトに対して、容積率緩和などのインセンティブが付与されてきた。一方で、複数街区にまたがって段階的に進む再開発プロジェクトについては、26年末の竣工期限後も個別に検討するとされており、天神のまちづくりは「次の局面」へと移行しつつある。

 そうした流れのなかで、新天町・パルコエリアでも一体的な再開発計画が進められている。

パルコ側から見た新天町
パルコ側から見た新天町

【現地レポート】いまの新天町を歩く

アーケード内の賑わい
アーケード内の賑わい

    アーケードに一歩足を踏み入れると、平日昼間でも人の流れが途切れない。学生、仕事の合間に立ち寄る会社員、買い物袋をさげた高齢者まで、通行人の年齢層は実に幅広い。目的地として訪れる人もいれば、ただ「通り抜ける」だけの人も多い。地下鉄天神駅と直結し、雨の日でも濡れずに移動できる動線は、意識されることなく日常に組み込まれている。

 商店街特有の親しみやすい看板や、店主の顔が想像できるような店構えも健在で、「いつもの場所」として福岡の人々に慣れ親しまれている。

活気あるまちが、それでも再開発に踏み切る理由

 全国的に商店街の衰退が課題となるなかで、新天町は高い集客力を維持している。周囲を百貨店や大型商業施設に囲まれながらも、ファッション、飲食、雑貨、書店など、老舗と新店が混在する構成によって独自のポジションを築いている。戦後の混乱期、「まちに再び活気と笑顔を取り戻そう」と立ち上がった博多商人たちが、木造2階建ての店舗を並べたことが新天町の始まりだった。その精神は、約100店舗が軒を連ねる現在の商店街にも色濃く残っている。

 一方で、課題がないわけではない。建物の老朽化は深刻で、防災・耐震面の不安は避けて通れない問題となっている。加えて、現在の建物の多くは2階建てにとどまり、都心部としては容積率が十分に活用されていない「もったいなさ」も指摘されてきた。

2階建ての建物が並ぶ現在のまち並み
2階建ての建物が並ぶ現在のまち並み

 新天町再開発の特徴として強調されているのが、「まちの記憶」を継承するという姿勢だ。計画では、ビル1階部分に現在の雰囲気を引き継ぐ商店街空間を設け、「天神と大名をつなぐ回遊動線」を再構築するとしている。

 新天町の象徴である時計台「メルヘンチャイム」は、新しいまちに引き継がれる予定だ。時を告げるメルヘンチャイムの音色に、思わず足を止める人の姿はいまも見られる。その音は、長年にわたってまちの日常に溶け込んできた。

 ただ、象徴的なモニュメントを新しいビルのなかに配置するだけで、「記憶が継承された」と言い切れるのかは、少し立ち止まって考えたくなる。新天町の魅力は、雑多さのなかで店が連なり、人が行き交うことで、いつの間にかまちの表情がつくられてきた点にあったはずだ。再開発後も、そうした雰囲気がどこまで感じられるのか。整った空間になればなるほどに、どこかで見たようなまちになってしまわないか。そのあたりが気にかかる。

現在のメルヘンチャイムと、それを見上げる人々
現在のメルヘンチャイムと、それを見上げる人々

再開発の先にある新天町の風景

 再開発計画では、商業施設やオフィス、ハイグレードホテルに加え、ライブハウスやミュージアムといった文化・情報発信機能の導入が予定されている。福岡市営地下鉄天神駅と直結する通路を地下に整備し、回遊性を高める構想もある。

 再開発によって、まちはこれまで以上に便利になるだろう。しかし、歩いているうちに偶然店を見つけたり、人づてに「実はあそこがいい」と教え合ったりするような、路地的な楽しさは、少しずつ薄れていくようにも感じる。巨大なビル型の商業施設のなかでは、そうした体験が少し想像しにくくなる。

 新天町は、買い物を楽しむ場所であると同時に、福岡の人々の暮らしの動線そのものでもある。再開発によってまちが更新されていくことは、都市が安全に、快適に機能し続けるためには必要である。それでも、慣れ親しんだ風景が変わっていくことに、どこか寂しさを覚える人がいるのも自然な感情だろう。

 福岡・天神の歴史や日常を語るうえで欠かせない新天町はいま、変化の最中にある。再開発によってまちの姿が更新されていくが、そのなかで新天町らしさがどのように引き継がれていくのか、多くの人が気にしているところでもある。

【和田佳子】

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