序破急の冬のトランプ劇場~あと2週間で決まるベネズエラ再建ゲーム(後)

 日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS、中川十郎理事長)より、(有)エナジー・ジオポリティクス代表・澁谷祐氏による「序破急の冬のトランプ劇場~あと 2 週間で決まるベネズエラ再建ゲーム」と題する記事を提供していただいたので共有する。

中国の影響力排除を目指す

 トランプ氏が石油支配にまい進する背景には、米国の「裏庭」の中南米で影響力を強める中国などへの警戒もある。

 3日、前掲の通り米軍特殊部隊がマドゥロ大統領とその妻を拘束した際には、同時に米軍は中国とロシアがベネズエラに提供した防空システムを急襲し、即座に無力化した。 この奇襲は中国の利権と威信に打撃を与えた。

 一方、在ワシントン中国大使館はロイターへの声明で、米国の「一方的かつ違法で、威圧的な行為」を拒否すると述べ、「中国と中南米およびカリブ諸国は友好的な交流と協力関係を維持している。情勢がどう展開しようとも、我々は友人でありパートナーであり続ける」と発表した(ロイター13日)。

 ベネズエラは本来、パキスタンやベラルーシと並んで中国の「全天候型戦略的パートナー」のはずだった。しかし、米国の武力行使の機動性を目の当たりにして、中国の影響力の限界を浮き彫りにしている(ロイター9日)。

 ベネズエラの原油輸出先は中国が7割を占める。制裁を回避し、安価な原油が裏取引されてきた。こうした流通を止めれば、敵対勢力と中南米諸国の依存関係を断つことにつながる。

 クリス・ライト米エネルギー長官は8日、米メディアに「ベネズエラが中国に依存することは許さない」と述べた。

 トランプ氏は、中国が債務をテコにベネズエラから安価な石油を手に入れる時代は「終わった」と述べた。

 中国との「石油と債務の交換」の取り決めはマドゥロ旧政権時代の象徴だったが、いま真逆な内容に変更されて、中国の権益はごくわずかな部分を残すだけとなった。 

 3日の米軍事作戦を境に、いきなりパートナーから外された感のある中国は怒っている。発効予定日は2月1日だからあとわずか 2週間を残すのみだ。

中国の巨額融資  焦げつきのおそれ

 中国は将来のベネズエラの原油出荷を担保に融資を行う取引を長年続けたとされる。中国のベネズエラへの融資額は約600億ドル(約9兆円)に達したとみられている。資金の大部分はインフラ整備事業に投入されたもようだ。

 米国による信託統治方式が発効すれば、中国が債権(推定約200億ドル)を回収できなくなるリスクが高まり、融資が焦げ付く可能性がある。

 また、中国はベネズエラから輸入していた原油について、 割安なロシア産やイラン産への切り替えを進めるとみられる。ベネズエラの石油輸出の約80%が中国向けなのに対し、中国の輸入に占めるベネズエラ産の割合は4%程度である。中東産原油に代替する可能性が高い。

ドルの復権を狙う

 アトランティック・カウンシルの客員上級研究員、フン・トラン氏は「ドルは依然として石油市場の基軸通貨であり、米国はその地位を守ろうとしている」と語った。

 ウィンチェスター大学の教授リチャード・ウェルナー氏も、米国のベネズエラに対する行動の目的は、オイルダラー体制の強化である可能性が高いと述べている(ロイター2026年1月7日コラム)。

 過去数十年にわたりドルの国際的地位がゆっくりと、しかし着実に低下してきた。外貨準備に占めるドルの割合は現在、過去 25年の最低水準となった。ドルは依然として世界貿易における主要通貨ではあるが、その地位も揺らぎ始めている。トランプ氏の石油再建計画でどこまで復活するかが試される。

中国の「幽霊船団」に制裁措置

 トランプ政権は 、ベネズエラ産原油の大口購入者である中国のサプライチェーンにも圧力をかけている。

 米財務省は、香港と中国本土に拠点を置く企業4社とこれらに関連する石油タンカー6隻を制裁対象に追加した。ベネズエラの「幽霊船団」としてマドゥロ大統領の不法な麻薬テロ行為を手助けしているというのが理由だ。

 米ブルームバーグ通信は5日、中国の金融監督当局である国家金融監督管理総局が大手金融機関などに対し、ベネズエラ向け融資に関する報告を求めたと報じた。

 米国が2019年に制裁を発動したとき、中国はベネズエラ産原油の輸入をいったん停止したが、2024年2月に再開した。ベネズエラにとって中国への原油売却収入は歳入全体の 95%を占めると言われている。その大半が「幽霊船団」によって持ち込まれている。

タンカー臨検で睨み合い

 2月1日、米国による統治信託が始まるまでの移行期間、いまカラカス-ワシントン-北京の首都間のホットラインは鳴りっぱなしといわれる。

 残り2週間、米軍および米財務省の管理下になる既存の石油施設の接収と監査が行われ、陸上タンクに蔵置されている原油や石油製品の処分・所有をめぐって協議はますます複雑化していると聞く。ベネズエラ暫定政府の力不足もあり、米中はつばぜり合いを演じている模様だ。

 ここで登場するのはタンカーの船主・船長、港湾管理者と荷主の3者に加えて、背後からエスコートする米中の艦船らだ。ベネズエラ近海や遠く北大西洋海域ですでに6隻のタンカーが臨検の対象になったという(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、1月7日=地図とも )。

 17日現在、ベネズエラ・ ホセ港周辺では、積込みを終えた 1隻のタンカーに対し、米軍の沿岸警備隊が「船舶検査」を要求し、それに対して中国側が「公海自由の原則」を盾に拒否するという睨み合いが続いている。

 2月1日の期限が近づき、「幽霊船団」が米海軍の警戒網の強行突破を図ったり、また米海軍と物理的な衝突(警告射撃)に至るリスクが現実味を帯びているという。仮にタンカー臨検や不測の事態が起きた際どうなる──。

 中国が「自国船舶の防衛」のため護衛艦を派遣するシナリオはハイリスクのため選択されないだろう。替わってカリブ海周辺で存在感を示す可能性が高い。

 中国は、マドゥロ氏の拘束直後、アフリカ・ジブチ基地やインド洋で「海賊対処」に当たっていた駆逐艦・フリゲート艦の数隻が、補給艦をともなって大西洋へ向かい、1月末にカリブ海に到着する予定といわれる。

結びに替えて

 戦後80年が明けていきなり米軍による首都カラカスの夜襲と大統領夫妻の拉致事件に、世界はびっくりした。

 21世紀の四半期は終わり、次の四半期の始まりを意識したトランプ氏の「出初式」かと思う。不謹慎ながらに彼にふさわしいイベントだった──。

 また、とくに、西半球にこだわった「ドンロー主義」は、新たな地政学的世界に我々を導く。グリーンランドの位置を地球儀を上からじっくり眺める。

 最後に、トランプ氏の、脱炭素には目を向けず、ひたすら化石(石油・ガス)復活を追う姿はなつかしくもある。オイルマンではなくて、不動産マンとしての感性を見たようで共感を覚える。たとえば、荒廃して見捨てられた油田のやぐらを組み立てる地上の作業はトランプ氏の感性に合っている。

(了)

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