アサヒビール鳥栖工場と描く次世代の産業都市像

鳥栖市長 向門慶人 氏

鳥栖市長 向門慶人 氏

 物流拠点として発展してきた鳥栖市が今、産業構造の高度化と都市基盤整備を同時に進めている。アサヒビール新工場や新産業団地、鳥栖駅周辺整備を軸に、次世代型都市への転換を図る向門慶人市長に、その構想を聞いた。

物流都市から次の段階へ

 ──鳥栖市はこれまで、「物流のまち」として発展してきました。現在、どのような転換点にあるとお考えでしょうか。

 向門 鳥栖市はこれまで、高速道路が交差する交通の要衝として、物流・流通の拠点機能を強みに発展してきました。この基盤は今後も重要ですが、これからはそれに加えて、半導体関連やIT、高度製造業といった、高付加価値型産業の集積を進めていきたいと考えています。単なる企業誘致ではなく、土地利用や官民連携の仕組みも含めて、都市経営そのものを次の段階へ進める時期にきていると認識しています。

 ──その象徴的な案件が、アサヒビール鳥栖工場だと思います。市長はこのプロジェクトを、どのように位置づけていますか。

 向門 アサヒビール鳥栖工場は、単なる工場新設ではなく、鳥栖市の産業構造を押し上げる象徴的なプロジェクトだと捉えています。資材価格や建設費の高騰などで計画は延期されましたが、4月9日の起工式を経て、2029年1月の操業開始に向けて着実に前進しています。

 新工場は、現在の博多工場より広い敷地をもち、RTD(※)やノンアルコール飲料といった成長分野を担う中核拠点となる見通しです。加えて、鳥栖市の地理的優位性を生かし、輸出も視野に入れた戦略拠点として、地域経済への波及効果も大きいと期待しています。

※RTD:「READY TO DRINK」の略称。ふたを開けてすぐにそのまま飲める飲料で、主に缶チューハイや缶カクテルや缶ハイボールなどの低アルコール飲料のことを指す。

 ──アサヒビールの進出は、既存の企業立地とも連動するのでしょうか。

 向門 アサヒビールの案件を、単独で考えているわけではありません。鳥栖市はこれまで、交通結節点としての強みを生かし、多様な産業・物流機能の集積を進め、すでに産業基盤は厚みを増しています。そうした既存拠点と新工場が重なり合うことで、鳥栖市全体の競争力が高まっていくと見ています。

 また、大企業の進出は、鳥栖市が多様な働く場を持つ都市であることを外に示す意味もあります。行政としては、市内立地企業交流会などを通じ、異業種間の連携や新たなビジネス機会が生まれる環境づくりを支援してまいります。

若者定着が成長のカギ

 ──産業集積が進むなかで、人材確保も大きな課題です。どのように取り組んでいますか。

 向門 おっしゃるように人材確保は、自治体にとっても非常に大きな課題です。鳥栖市には優れた企業が多くありますが、地元の高校生に十分知られていない面があります。そのため、市内の高校で合同企業説明会を開催し、地元企業を知る機会を増やしていきます。

 若者の定着を考えるとき、本人だけでなく、保護者や進路指導の先生方への働きかけも重要だと考えています。地元企業で働くことの魅力や、給与水準を含めた労働条件について、正しく知っていただく必要があります。

 一度市外へ出ること自体は、悪いことではありません。ただ、そのうえで「いつか鳥栖に戻って働きたい」「地元にも魅力的な企業がある」と思ってもらえる環境を整えていくことが大切です。このたびのアサヒビール鳥栖工場もそうです。若者が地域とのつながりを持ち続けられる循環を、地域全体でつくっていきたいと思っています。

産業と暮らし支える基盤

 ──今後の産業政策の柱として、「サザン鳥栖クロスパーク」も注目されています。

 向門 これは鳥栖市の産業政策の次の柱です。約34haの新産業団地で、地域未来投資促進法を活用しながら官民連携で開発を進めています。従来であれば開発が難しい農用地区域でしたが、新たな枠組みを活用することで事業化への道筋をつけました。

 特徴は、分譲面積全体の4分の3以上を製造業・情報通信業が占めることとし、半導体関連や高度製造業、IT、クリエイティブ産業など、高付加価値分野に振り向ける点です。鳥栖市の交通利便性を、物流だけでなく次世代産業の立地につなげていく考えです。

 ──産業の成長を支えるインフラ整備として、JR鳥栖駅周辺整備も大きなテーマです。

 向門 JR鳥栖駅の整備は、市民生活と産業政策の両面で重要です。短期的な施策としては、既存の跨線橋「虹の橋」を活用し、各ホームから直接利用できる新たな改札の整備を進めていく方針です。完成までには時間を要しますが、着実に進めていきます。

 とくに駅東側の利便性向上は、大きな意味があります。駅東側に住む市民の皆さんだけでなく、今後、新産業団地などで働く方々の通勤環境改善にもつながります。鉄道とバスを含めた交通結節機能を高めることで、新しい人の流れを生み出したいと考えています。

 ──最後に、鳥栖市の今後についてメッセージをお願いします。

 向門 アサヒビール新工場やサザン鳥栖クロスパーク、鳥栖駅整備は、それぞれが別々の事業ではなく、「次世代が誇りをもって住み続けられるまち」をつくるための一連の取り組みだと考えています。

 鳥栖市はこれまで、物流都市として発展してきました。しかし今後は、それにとどまらず、人と技術と価値が集まる都市へ進化していく必要があります。産業と暮らしが調和した持続可能な都市を実現し、次の時代の鳥栖市をかたちにしていきたいと思います。

【内山義之】


<プロフィール>
向門慶人
(むかいかど・よしひと)
1971年1月、鳥栖市出身。福岡大学商学部を卒業後、95年に衆議院議員・山下徳夫氏の秘書を経て、2001年に鳥栖市議会議員に当選。市議会議員を2期務め、07年から佐賀県議会議員を4期務める。21年7月には自民党県連幹事長に就く。23年3月に鳥栖市長に就任。趣味は野球、ジョギング、スポーツ観戦。

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