【イーロン・マスクの無双の世界(1)】SpaceX上場の衝撃

イメージ    イーロン・マスクが率いる宇宙ロケット企業SpaceXが、2026年5月20日に米SEC(証券取引委員会)にIPOの登録届出書「Form S-1」を公開提出しました。これまで完全に非公開だったSpaceXの財務が、初めて体系的に開示されました。

 申請内容によると、ナスダック市場とテキサス証券取引所に重複上場し、ティッカー(株式銘柄の略号)は「SPCX」とのこと。想定時価総額(会社全体の値札)は1兆8,000億ドル~2兆ドル(約270兆~300兆円)、調達上限についてはいくつかのメディアが750億ドル(約11兆円)と報じており、実現すれば米IPO史上最大級になります。

 S-1から明らかになった2025年度の連結売上は186億7,400万ドル(約2.8兆円)、営業損失は49億ドル、調整後EBITDA(営業利益+減価償却費)は65億8,400万ドルの黒字です。事業は3セグメントに分かれており、衛星インターネット事業のStarlinkは売上高113億8,700万ドル(前年比約50%増)、営業利益44億2,300万ドルと、完全に黒字創出部門となっています。一方で、ロケット打ち上げのSpace部門はStarship(火星往復を目指す巨大ロケット)の開発投資が重く赤字。そして今回新設されたAI関連セグメントは年間63億5,500万ドルの大赤字となっています。

 とくに目を引くのが、SpaceXがS-1のなかで打ち出した総市場規模(total addressable market、自社が狙える市場の総額)の主張で、28兆5,000億ドル(約4,300兆円)。その9割超を「AI市場」が占めると説明しています。論拠は「2028年にも軌道上AIデータセンター衛星の打ち上げを目指し、地上のデータセンターを宇宙に置き換える」という構想ですが、現時点でのSpaceXAIの売上は四半期で8億1,800万ドルに過ぎません。加えて、マスク氏は1株10票の議決権をもつ「Class B株」を抱え込むことで、経済的な持ち分は42%でも議決権の79%を支配し続ける設計になっており、上場後も会社の意思決定権はマスク氏1人が握り続けます。

 このIPOは、単なる「ロケット会社の上場」ではなく、ここ数カ月で一気に組み上がった「マスクAIスタック(マスク氏が支配するAI関連企業群)の公開市場デビュー」として読むべき事象です。2026年2月にSpaceXがxAI(マスク氏のAIラボ)を統合、4月にはAI開発ツール企業Cursorに600億ドルの買収オプションを実施しました。

 AIモデル(xAI)、計算基盤(コンピュートクラスタ「Colossus」)、配信網(Starlink)、アプリ(Cursor)の全レイヤーが揃ったタイミングで、その複合体を2兆ドルの値札で公開市場にもってきた、というのが今回のS-1の正体です。OpenAIも今年中に1兆ドルクラスのIPOを準備しており、AI業界の2大主役が「兆ドル規模IPO」で正面衝突する局面に入りました。一方で、Starlinkがすでに110億ドル規模の黒字キャッシュを生んでいることも初めて公式に裏付けられたわけで、2兆ドルの値札のうち、現実のキャッシュフローに紐づいた部分と、まだ宇宙にも飛んでいない「軌道上AI」の未来に乗せた部分を、投資家がどう切り分けるかが問われる局面でもあります。

 宇宙空間のAIデータセンターに関しては、まだ夢物語に過ぎないと指摘する人が多くいますが、Starlinkの次世代の衛星が10kWの消費電力のコンピューターであることを考えれば、衛星1基に100kWの消費電力のAIコンピューターを搭載する時代もそう遠くないように私には思えます。

 すでに企業価値がかなり高くなってしまったので、爆発的なリターンを得ることは簡単ではないと思いますが、「株をもって当事者として応援する」という観点からはとても魅力的な企業です。Teslaとの合併の可能性も含めて、注目し続けたいと思います。

【Hayate Kirishima】

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