障害福祉「錬金術」の実態レポート 公費依存ビジネスに潜む多店舗展開の落とし穴
近年、異業種から障害福祉サービス(就労継続支援A型・B型、放課後等デイサービスなど)への参入が後を絶たない。街を歩けば、真新しい事業所の看板に出くわすことも多いはずだ。福祉に縁のなかった経営者たちがこぞって福祉事業に群がり、2拠点、3拠点と次々に事業所を増殖させていく。その背景には、この業界特有の“おいしい”ビジネスモデルが横たわっている。本記事では、障害福祉ビジネスという名の「錬金術」のカラクリと、その裏でポッカリと口を開ける「倒産リスク」の深層に迫る。
素人経営者が事業所を増殖させる裏事情
障害児を対象とする放課後等デイサービスは、2025年1~3月平均で2万2,748事業所、就労継続支援B型は24年10月時点で1万7,973事業所と、いずれも増加の一途をたどっている。一方、就労継続支援A型は24年度の報酬改定(スコア方式導入)の影響で現在は淘汰の局面にあり、25年3月末時点で4,471事業所と横ばいから微減の傾向を示している。
障害福祉ビジネス最大のウリは「超安定・低リスク」であることだ。なにしろ、売上の約9割は国や自治体からの給付費(公費)で賄われる。一般企業のような「取引先の倒産」や「売掛金の未回収」といったリスクとは無縁の世界である。
実際、厚生労働省が問題事例として公式に列挙した資料(25年)によれば、障害福祉サービスへの参入を勧誘する業者が「特段の知識や経験は不要」「売上の大部分が給付金」「通常の新規事業と比較して初期投資が少なく収益性・安定性がとても高い」などと宣伝する事例が後を絶たないという。国が問題視するほど、この構造は広く知られているのだ。
しかし、この制度には致命的な弱点が隠されている。「1事業所あたりの売上・利益には絶対的な上限(天井)がある」という事実だ。
売上は「国の定めた単価×定員×利用日数」でガッチリと固定されている。たとえば、定員10人の放課後等デイサービスを常に満員(稼働率90%以上)にしても、単一の事業所が弾き出せる利益はたかが知れているのだ。経営者が「もっと儲けたい」「M&A(事業売却)で企業価値を吊り上げたい」と野心を抱いた場合、必然的に「多店舗展開」へと走り、パイの総量を力技で増やすしか道は残されていない。
さらに、未経験者がフランチャイズ(FC)に加盟して参入する場合の事情も絡んでくる。ノウハウを得る代償として、毎月売上の5~10%という高額なロイヤリティーを本部に吸い上げられ続ける上に、上限が決まっている売上からロイヤリティーをむしり取られれば、手元に残る利益はスズメの涙だ。結局、同じFCパッケージを使い回して機械的に複数店舗を出店し、売上の絶対額を強引に稼ぎ出す構造に追い込まれるというわけである。
銀行の融資担当者も唸る「鉄板の錬金術」
では、多店舗化するための数千万円規模の出店資金を、どうやって銀行から引っ張ってくるのか。彼らには、金融機関をコロリと納得させる「鉄板ロジック」が存在する。それが「垂直展開」と「多機能型(併設)」という名の巧妙な顧客囲い込みスキームである。
1. 広告費ゼロで客を確保する「垂直展開」
かつて多くの事業者が用いた手法が、既存の「放課後等デイサービス(18歳未満向け)」の卒業生を、新設した「就労継続支援B型(大人向け)」へエスカレーター式に横滑りさせるというものだった。保護者の立場からすれば「卒業後の進路もこの法人で」という安心感があり、新規集客コストをかけずに利用者を確保できる点で、経営者にとっても銀行にとっても魅力的なロジックだった。

※上記数値は参考例であり、報酬単価や地域・加算の取得状況によって異なる。
しかし、25年10月から「就労選択支援」が導入されたことで、このモデルは事実上機能しなくなった。卒業後に就労継続支援B型を利用する場合、原則として就労選択支援によるアセスメント(第三者機関による評価)を経ることが求められるようになったためだ。事業者が「うちのB型に来てね」と利用者を誘導する余地は、制度上大きく狭まっている。いまだこのモデルの継続を前提に融資を決めた金融機関もあるが、「目まぐるしく変わる制度についての見通しが甘すぎる」(福祉関係者)という指摘は重い。
2. 集客とコスト削減の‟一石二鳥”「多機能型」
雇用契約を結んで最低賃金が保証される「A型」は、利用者からの人気が絶大で、強力な集客の‟看板”として機能する。しかし、要件を満たさない者や、体調面でA型の労働が厳しい者もいる。そこで、同じ敷地内に「B型(非雇用型・自分のペースで訓練)」を併設するのだ。
これにより、「まずはB型で訓練し、ゆくゆくはA型へ」「A型で疲弊した時は、受け皿としてB型へ」という形で利用者を自社の施設内でぐるぐると循環させて、他社への流出を防ぐのだ。同じ敷地内に併設すれば管理者などを兼務させることができ、人件費を大幅にカットできる、まさに利益率を跳ね上げる‟魔法の杖”ともなる。
急成長の裏に潜む「倒産リスク」
一見すると、まったく隙のない完璧なビジネスモデルに見える。だが、利益至上主義に走り、無軌道に事業所を増やし続けた結果、無惨に破綻するケースが後を絶たないのが現実だ。以下に例を見ていこう。
① 固定費の圧迫と人材不足が招く「連鎖倒産」
東北地方の某法人は、年商1億円超へと急成長を遂げ、新施設を建設した。ところが、競合激化の影響で想定通りに利用者が集まらない。結果、膨れ上がった家賃や人件費が首を絞め、給与の支払い遅延が勃発。愛想を尽かした有資格者が一斉に逃げ出して施設運営の基準すら満たせなくなり、廃業に至った。「箱」だけ立派でも外部環境の風向きが少し変われば、いとも簡単に吹き飛ぶ砂上の楼閣なのである。
② 給付金頼み・本業軽視の末路(あじさいの輪事件)
本来、A型事業所は利用者が行う「仕事(生産活動)の売上」から賃金を払うのが絶対のルールだ。しかし、全国的スキャンダルとなった「あじさいの輪」事件(17年)の裏側は酷いものだった。パン製造などの売上だけでは賃金が賄えず、あろうことか国からの給付金を賃金の支払いに回すという禁断の「自転車操業」に手を染めていたのだ。さらに別事業に手を出して大火傷を負い、多数の障害者を突然解雇して破綻に至っている。
厳格化する国のルールと「スコア方式」の恐怖
こうした「ビジネスありき」の露骨な囲い込みに対し、ついに国も重い腰を上げた。自社サービスへの移行割合が極端に高い(80%超など)場合、ペナルティーとして報酬を容赦なく減額するルールが整備されつつある。
さらに恐ろしいのが24年の報酬改定だ。A型事業所に対し、「仕事の売上で(自力で)賃金を払えていない事業所は、報酬を大幅にカットする」という極めて厳しい基準(スコア方式)が突きつけられた。これにより、利益を出せない‟なんちゃって事業所”が全国でバタバタと閉鎖に追い込まれているのだ。
制度ビジネスの「甘い汁」に潜む猛毒
障害福祉サービスは、売上の9割が国から保証される極めて「おいしい」ビジネスである。だが、その本質は「税金を使った社会課題の解決」であることを忘れてはならない。
「利用者をどう支援し、自立させるか」という福祉の理念と実態が伴わなければ、制度改定という国の一声で、一夜にして利益が吹き飛ぶ爆弾を抱えているのだ。安易な多店舗展開やFC加盟がもたらす甘い汁に飛びつく前に、この制度ビジネスの落とし穴を、しっかり見極めておくべきだ。
【石橋雅子】
※本記事における事業所数データは、放課後等デイサービスが25年1〜3月平均(2万2,748事業所)、就労継続支援A型が25年3月末時点(4,471事業所)、就労継続支援B型が24年10月時点(1万7,973事業所)に基づく。
※厚生労働省資料(第52回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」資料)に記載された不適切勧誘の実例を参照した。










