商業施設を「夢のステージ」に ~福岡発「ネイバーズリーグ」が仕掛ける地域スポーツの新経済圏
子どもの試合を体育館のなかだけで終わらせない。商業施設という「街のステージ」にコートをつくり、地域住民、企業、行政を巻き込んだスポーツ文化を育てる——。
NetGateが立ち上げる「NEIGHBORS LEAGUE PROJECT」は、ジュニアスポーツ起点の地域活性化モデルになり得るのか。
体育館から、街の真ん中へ
2026年11月14日、福岡県福津市のイオンモール福津で始動する「NEIGHBORS LEAGUE PROJECT(ネイバーズリーグプロジェクト)」。キャッチコピーは「夢への一歩を、街(ステージ)から。」主役は小学・中学生世代。バスケを体育館の外へ持ち出し、本気のプレーをスポーツとは無縁の地域住民にも届けるのが狙いだ。
仕掛けるのは、店舗向けアプリやDXソリューションを手がける福岡の(株)NetGate。15期目の同社にとって、地域スポーツは既存事業と異なる挑戦だ。
出発点は事業計画でも市場分析でもなく、家族だった。「月曜から金曜まで仕事して、土日はバスケの応援。子どもたちから元気をもらって、毎週いいものだと思っていました」と代表取締役・沖氏。息子の観戦を機に娘も競技を始め、週末はコートサイドに。その日々が「子どもたちがもっと輝ける場所をつくれないか」という事業構想へと変わっていく。
「試合に出られない子」にも光を

契機は事業担当の佐生氏との出会いだ。バスケットボール・プロクラブ経験を持つ佐生氏が思いに共鳴し入社した。名称「NEIGHBORS」は英語で「隣人」。遠いスター選手ではなく、同じ街の子どもたち自身を地域のスターにしたいという想いが込められている。
沖氏はこう語る。「子どもたち1人ひとりが主役になれるものが良いな、というのは日々感じていました。試合に出られないことも日常的に見ていましたしね」
福岡は高校バスケの強豪県だが、育成年代の大会は多くが体育館で開かれ、観客は保護者や関係者が中心。小中学生のプレーが地域住民の目に触れる機会は少ない。ならば競技を「街の中」へ。特設コートを設ければ、買い物にきた家族が偶然試合を目にし、声援から地域チームのファンが生まれる。ネイバーズリーグがつくろうとしているのは、大会そのものより「応援の経済圏」だ。
なぜ商業施設なのか
開催する意味は競技面にとどまらない。子どもがプレーし、家族が訪れ、地域住民が足を止める。滞在時間が延びれば飲食や買い物につながり、企業にはファミリー層との接点、行政にはスポーツ振興とにぎわいづくりをもたらす。「子ども」「地域住民」「商業施設・企業」「行政」への利益循環をつくれるかが事業の核心だ。
特徴は参加費を取らない点だ。「子どもたちから出場費用を取るつもりはありません」と沖氏。受益者から料金を取るのが一般的なスクールビジネスに対し、企業協賛や商業施設、地域との連携を軸に別の道を選ぶ。
「広告枠」ではなく、文化への投資
協賛も従来型のスポンサーシップとは一線を画す。キーワードは「FOUNDING PARTNER」。広告枠を売るのではなく、地域のスポーツ文化をつくる創設メンバーになってもらう発想だ。
企業の得るものは広告露出に限らない。地域貢献、ファミリー層との接点、企業イメージの向上、採用や社内広報への活用——CSRとマーケティングの中間の効果だ。「企業が今求めているのは、広告効果より会社の価値を高める施策。『この会社いいね』と思ってもらえる取り組みに、企業の求める価値は変わってきていると思います」
協賛は現金に限らず、ボール1個、シューズ1足といった現物支援や、企業のサービス・人的資源など「地域の子どもを支援する」資源を幅広く集める。
余剰資金は競技環境への再投資を構想する。用具不足チームへのボール寄贈、遠方参加の交通費、指導者不足地域への支援——。「ネイバーズリーグ単体で儲けようとまったく考えていない」と沖氏。価値を地域スポーツへ戻す循環ができれば、単発イベントを超えた社会的インフラになる。
3×3が生み出す、新しい選択肢
競技形式は3人制バスケットボールの「3×3(3on3)」だ。5人制より省スペースで、商業施設の特設会場との親和性が高い。小中学生が3×3を本格的に経験する機会は限られており、新たな選択肢となる。
背景には部活動の環境変化がある。教員の負担や指導者確保など、部活動だけでは担いきれず、地域による補完が求められている。ネイバーズリーグは部活動と競合せず、クラブチームやスクールなどとも接点をもちながら、「もっとやりたい」子どもが挑戦できる選択肢を地域につくる。
イベントからアカデミー、そしてリーグへ
構想はイベントで終わらない。ロードマップは4段階だ。第1段階は商業施設や公共空間でイベントを開催し、認知と熱狂をつくる。第2段階で各地域に育成拠点「NEIGHBORS ACADEMIA」を設立し、第3段階では福岡県を福岡、北九州、筑豊、筑後の4ブロックに分け、各地域を代表するチームが競う「NEIGHBORS SELECT」のリーグ戦へ発展させる。そして第4段階が新たなリーグ設立構想だ。
目指すのは「練習成果発表型」のリーグだ。住民が自分たちの街を代表する子どもを応援する──高校野球の「地元代表」に近い感情を、より若い世代の生活圏で生み出す発想だ。その先には、福岡にプロクラブをつくる構想もある。「街のステージから、未来のプロクラブへ。」資料にはそう記されている。
イベントで住民が子どもたちを知り、アカデミーで選手が育ち、地域対抗戦で応援文化ができてから、プロクラブをつくる。文化を育てた先にチームをつくる——これが長期構想だ。
11月14日、最初の実証実験
第一歩が、2026年11月14日に予定されるイオンモール福津での第1回大会だ。U-15の男女各4チーム、計8チームが参加し、総当たり戦と順位決定戦で16試合を行う。フリースローチャレンジやバスケットボールクリニック、ダンスなどのパフォーマンス、企業ブース、MC・音響、表彰・撮影エリアも配置し、「競技を見る場所」ではなく、偶然立ち寄っても楽しめるエンターテインメント空間を目指す。商業施設に目的地型コンテンツを実装できるかという実証実験で、成功すれば他施設や公共広場、県内各地へ横展開できる。
「地域のスター」を地域自身が育てる
沖氏が繰り返すのは「子どもたちを主役にしたい」という言葉だ。「シンプルに頑張っている子どもたちって、大人の目から見ると応援したくなる」
結果だけでなく、練習や選手の背景もSNSや動画で発信。1人ひとりに物語が生まれれば、感情移入は深まる。佐生氏もいう。「みんながプロになるわけじゃない。でもそのとき一生懸命になっている子どもたちを見て、大人がそれに引っ張られて熱狂する、そういうものだと思います」この言葉が本質を表している。
スポーツビジネスといえば放映権やスポンサー収入が思い浮かぶが、根底にあるのは「誰かを応援したい」という感情だ。わが子を、チームメートを、やがて地元の子どもたちを、そして街代表のチームを応援する。感情の輪を広げ、地域にスポーツ文化と経済活動を同時に生み出す──ボトムアップ型のビジネスモデルだ。
構想通り進む保証はない。アカデミー運営への移行、協賛企業の安定確保、学校や既存クラブとの役割分担──そして何より、「応援文化」を一過性でなく根付かせられるか。その試金石が11月14日の第1回大会だ。「ネイバーズリーグで育った子がプロのカテゴリーに呼ばれて、ネイバーズリーグに出てた子なんだって言われたら、最高ですね」と佐生氏。
その未来はまだ遠い。だが、プロクラブの歴史も地域文化の歴史も、始まりはいつも小さい。ショッピングモールに設置された一面のコート。懸命にボールを追う子どもたち。通りかかった買い物客が足を止め、いつの間にか声援を送っている——。福岡発の新しいスポーツ文化は、そんな光景から始まろうとしている。
【緒方克美】









