人を呼び込み「粕屋市」の実現へ全力

粕屋町長 箱田彰 氏

粕屋町長 箱田彰 氏

 現在、町内各所での開発が相次ぐほか、シティプロモーションにも取り組み、単独市制昇格要件の人口5万人達成に向けての施策に注力している福岡県粕屋町。同町では、8月30日に投開票された粕屋町長選挙で、現職の箱田彰氏が3選をはたした。3期目を迎えた箱田町長に、これまでの2期の振り返りと、3期目への意気込み、そして市制施行に向けての方策などを聞いた。

子育て支援を第一に
町内の都市基盤整備を

 ──まず、これまでの2期・8年間を振り返っては、いかがでしたか。

 箱田 今回の町長選挙では、「子育てしやすいまちづくり」「住みやすいまちづくり」「誇れるまちづくり」「安心して生活できるまちづくり」の4つの方針をとくに訴えてきましたが、この4つはまさに、私が町長に就任してからの2期・8年間でとくに力を入れて取り組んできたことと重なります。

 まず、私は1期目のときから、最優先すべき一丁目一番地の施策として「子育てしやすいまちづくり」を据えてきました。町長に就任した当時、町内には私的な待機を含めて200人規模の待機児童がいて、公立保育所は4園ありましたが、いずれも老朽化が進んでいました。そこで公立の建替え・最適化と私立保育園の拡充を進めた結果、この2期・8年間で待機児童(国定義)はゼロになりました。

 また、「住みやすいまちづくり」については、約14㎞2という狭い町ですが、町域のすべてをバス路線が網羅しているわけではありませんでした。福祉バス「ふれあいバス」を走らせてはいましたが、便数が少なく、一部の高齢者の方々にとっては、買い物に行くのにも難儀するような不便さがありました。そこで2期目に、AIが予約状況に応じて最適ルートを走るAIオンデマンドバス「のるーと粕屋」の運行を実現しました。2025年9月末から運行を開始し、町内の6つのJR駅や公共施設、大型商業施設「イオンモール福岡」などと連携しています。住民の方々に本当に喜ばれ、駅利用と大型商業施設の利用が増えたという声もあります。

 ──シティプロモーションにも力を入れられていますね。

 箱田 「誇れるまちづくり」にもつながりますが、粕屋町は福岡市に隣接し、博多駅までJRで10分という近距離にあるにもかかわらず、意外と知られていません。そのため、「知ってもらい、来てもらい、感じてもらい、最終的には住んでもらう」──これが今進めているシティプロモーションの方向性です。町制作のPR動画はSNSなどを通じて多くの方々に見ていただき、博多駅の大型ビジョンなどでも紹介されています。また、住民の意見を取り入れながら職員が考え出した町の新たなマスコットキャラクター「かすたまちゃん」も誕生しました。このかすたまちゃんの動画が令和8年全国広報コンクールにて総務大臣賞(映像)を受賞したほか、オリジナルグッズも人気で販売が好調で、目指すは「打倒!くまモン」です(笑)。

粕屋町の新キャラクター「かすたまちゃん」
粕屋町の新キャラクター「かすたまちゃん」

    そのほか、粕屋町のランドマークである駕与丁(かよいちょう)公園では、遊歩道の整備や遊具の充実、バラ園の拡充を進め、2期目の後半には長年の課題だった駐車場の拡張も実現しました。今後も、バラまつりやYOSAKOIかすや祭り、「かすやパンマルシェ」など、年間を通じたイベントの会場としての整備も進めていくほか、今後はもっと魅力的な公園にしていくべく、Park-PFI(公募設置管理制度)による民間活用なども研究し、カフェや物販などの集客施設などの整備も検討していきます。

 そして、先の熊本地震や豪雨災害などを考えても、「安心して生活できるまちづくり」のための防災の取り組みは欠かせません。粕屋町は全体的に平地が多くて起伏が少なく、大規模な土砂災害などのリスクはあまりありません。ですが、町内を多々良川と須恵川の2つの2級河川が流れており、駕与丁池をはじめとした溜池なども多く、豪雨時の浸水被害の発生などは想定されます。そのため、県管理の2級河川については県に働きかけて改修を進めるとともに、町管理の仲原川も年次計画で浚渫を続けてきました。さらに、粕屋町防災マップを作成・交付して町民の防災意識を高める取り組みを行うほか、企業などとの災害応援協定の締結を進めるなど、災害に強いまちづくりもしっかりと進めてきました。

開発と企業誘致で
行政サービスの充実を

 ──3期目では、とくに何に力を入れていかれますか。

 箱田 これまでの2期・8年間で、粕屋町の都市政策はある程度軌道に乗ったと自負しており、企業誘致やさまざまな業態の進出を受け入れられる環境は整いつつあります。これからの3期目は、それを下地として、たとえば区画整理事業や地区計画により新たな開発を促していきながら、さらなる発展を目指していきます。

 そのための重点プロジェクトとして掲げるのが、「新生・かすやプラン」です。これは、企業誘致をして雇用の拡大や税収の増加を図り、それを住民サービスに還元していくというもので、企業が進出すれば税収が増え、行政サービスが充実して住みやすくなり、人口が増えて新たな企業を呼ぶ―そうした経済の好循環を町政に当てはめた構想です。ただし、開発一辺倒ではいけません。既存の住民にも、これから来られる住民にも、良い住環境を共有できることが必要です。緑の保全を行いながら大都市にはない憩いや心の安らぎといった優良な住環境と、便利な都市機能とを融和させていき、粕屋町ならではの良さをさらに伸ばしていきます。

 ──町内では現在、すでに大規模な開発計画がいくつも動いていますね。

 箱田 おっしゃるように、現在進行中のものも含めて、町内5カ所の開発が動き出しています。まず、九州自動車道福岡ICや都市高速のインターに近い町の北部は、物流施設などを誘致するゾーンとして、大隈西地区(約12.9ha)と戸原西地区(約19.5ha)での開発を計画しています。このうち大隈西地区では、日本GLP(株)が大規模開発「GLP福岡ICプロジェクト」を進めているところです。また、福岡青洲会病院の東側に広がる長者原西地区(約21ha)では、住宅と商業、医療福祉施設などの複合開発を計画しているほか、酒殿西地区(約6.4ha)では新たな住宅地として市街化区域への編入を予定しています。そして、福岡東環状線が貫く粕屋町の仲原東地区(約28.3ha)では、お隣・志免町の志免町別府地区(約3.9ha)と一体となった「(仮称)粕屋町仲原東・志免町別府土地区画整理事業」として、東急不動産(株)と西松建設(株)、そして九州旅客鉄道(株)(JR九州)の共同企業体による開発が進んでいく予定です。ここは住宅と商業を組み合わせた複合開発で、一部には物流施設なども組み込まれる予定です。

 またJR酒殿駅の南側エリアでは、大規模な区画整理事業によって新たな住宅地が誕生して久しいですが、大東建託(株)が今年8月に発表した「いい部屋ネット街の住みここち(駅)ランキング2026 <福岡県版>」では、酒殿駅が昨年の10位から大きく順位を上げて3位にランクインしました。駕与丁公園やイオンモール福岡に近く、豊かな自然と生活利便性の両方が享受できることが、家族連れに人気の理由のようです。そこで今度は、駅北側でも新たに住宅地の開発を検討しているところです。その場合は、現在は駅南側にしかない乗降口を北側にも設けるなど、駅へのアクセス改良も必要になるでしょう。

粕屋町役場
粕屋町役場

 ──九州大学の原町農場跡地の動向も気になるところです。

 箱田 この九大農場跡地については現在、町として九大側に取得したい旨を正式に申し入れ、回答を待っているところです。というのも、町で取得できれば開発のイニシアチブが握れるからです。ここには、古代の役所跡だとされる「阿恵官衙(あえかんが)遺跡」という貴重な遺跡も残っており、公園として保全したうえで、住宅や商業、研究施設が一体となったまちづくりを構想しています。緑の公園があるところに、住宅があり、商業があり、研究施設がある。そうした産官学の三位一体の開発ができれば、かなり魅力的な場所となっていくでしょう。

 ──子育て支援にも、さらに力を入れていかれるようですね。

 箱田 待機児童が解消した件はお話ししましたが、次なる課題は学童保育です。低学年を中心に利用が増えているため、今年度、粕屋中央小学校と仲原小学校の校区に2カ所増設します。また、下校後に遊ぶ場所が少なく危険な場所も多いという課題には、閉園した町立幼稚園を改修し、冷暖房を完備した「子どもの居場所」を開設しました。さらに、これまでは国の臨時交付金で小中学校の給食費を無償化してきましたが、交付金は今年度で終わります。ですが、その後も町費で恒久化して、給食費無償化は続けていきたいと思います。保護者の負担軽減は、子育て世代の定住を促し、子どもを増やす優位性になると考えています。

 ──先の町長選挙では、福岡県内初となった電子投票が話題となりました。

 箱田 今回の選挙から導入した電子投票では、開票時間の大幅な短縮と省人化、コスト削減など、かなりの効果がありました。こうした取り組みを含めて、今後も行政システムのDX化は積極的に進めていく方針で、DX化による「書かない・行かない窓口」を目指していきます。電子申請の対象を順次拡大し、町民の皆さまの利便性向上だけでなく、職員の負担軽減にもつながる取り組みを随時進めていきます。

町制施行70周年を超え
目指すは単独市制昇格

粕屋町町制施行70周年記念ロゴマーク及びキャッチフレーズ
粕屋町町制施行70周年記念ロゴマーク
及びキャッチフレーズ

    ──来年3月に、町制施行70周年の節目を迎えます。

 箱田 1957年3月31日、大川村と仲原村が新設合併して誕生した粕屋町は、27年3月に町制施行70周年を迎えます。今年3月には多数の応募のなかから、70周年のシンボルとなるロゴマークおよびキャッチフレーズを決定しました。ロゴマークは町のシンボル「風車」と「バラ」をモチーフとしたもので、キャッチフレーズは「人がつながる 夢が広がる 粕屋町」です。また、今年度から70周年を冠したさまざまなイベントを開催しており、10月末には粕屋町立生涯学習センター「サンレイクかすや」で記念式典を開催する予定です。町民を挙げて町制施行70周年の節目を祝うとともに、町の歩みと未来を共有しようと考えています。

 ──その一方で現在、市制施行に向けた取り組みを進めています。

 箱田 単独市制に移行するには、国勢調査で人口5万人を達成することが必要です。市制施行に必要な体制は整っており、福祉や保健の部門でも人材を養成できているなど、人口以外の条件はすべてクリアできています。あとは人口を増やすだけなのですが、現在は人口増加のペースが鈍化しており、なかなか難しい局面を迎えています。そのため、先ほどのシティプロモーションと企業誘致による雇用、住宅供給を一体で進め、人口増に結びつけていきます。

 ──人口を増やすには、受け皿となる住宅の拡充も欠かせません。

 箱田 現在も町内各所では、戸建住宅のほか、賃貸向けの共同住宅の開発は旺盛に行われています。しかし一方で、以前は長者原地区などで分譲マンションの開発が相次ぎ、毎年1,000人規模で人口が増えていた時期もありますが、地価高騰などによって近年では分譲マンションの新たな開発がありません。やはり人口を一気に増やしていくには、大型の分譲マンションの開発に期待したいところです。町内には6つのJR駅があり、駅近での分譲マンション向けの住宅用地の捻出は可能です。開発にともなう市街化区域への編入を県とも協議しながら、新たな分譲マンションの開発をデベロッパーや大手住宅メーカーに直接働きかけていき、住宅の拡充を進めていきます。

 ──最後に、これから目指されていく方向性について、お聞かせください。

 箱田 自然環境にも恵まれて適度に田舎の良さをもちながらも、充実した都市機能がバランス良く調和した“トカイナカ”というのが粕屋町の良さですし、それがこれまでの福岡市のベッドタウンとしての発展の下地となっています。ですが、これからは単なるベッドタウンとしてだけでなく、福岡市からも人を呼び込めるようなまちづくりを進めていきたいと思っています。イオンモール福岡には福岡市からの来客が約4割を占めているというデータもありますが、人を呼べる拠点があれば、町外からも人が訪れてくれます。来てもらい、粕屋町の魅力を再発見してもらい、ゆくゆくは住んでもらう。そうしたまちづくりを進めていきます。

 先の町長選挙では、町制施行70周年のキャッチフレーズとも重なる、「人がつながり、夢が広がる町へ!」と掲げさせていただきました。町民の皆さまから3期目をご信任いただいた以上、周辺自治体との連携も進めながら、「人がつながり、夢が広がる」、そして「皆が幸せを感じられるまち」の実現に、全力全身全霊を挙げて取り組んでいきます。

【坂田憲治】 


<プロフィール>
箱田彰
(はこだ・あきら)
1954年4月生まれ、粕屋町出身。福岡高校、中央大学を卒業後、79年に粕屋町役場に入庁。収納課長や経営政策課長を経て、2013年4月から15年11月まで副町長。18年9月に粕屋町長へ初当選し、現在3期目。

記者募集

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

法人名

関連記事