2024年04月29日( 月 )

「もうつくれない」昭和初期の建築物・九段会館を保存再生(中)

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 緑色の瓦屋根とジャイアントオーダーの向こうに武道館を仰ぎ見る、長らく九段下で親しまれてきた景色が、このたび九段会館テラスとして再生された。再生されたのは1930年代に建設された国の登録有形文化財である「九段会館」。帝冠様式のファサードはそのままに、牛ヶ淵沿いでは地上17階建ての高層ビルとして生まれ変わった。九段会館テラスの再生を手がけた鹿島建設(株)開発責任者の梅田慎介氏と施工責任者の神山良知氏に、話を聞くことができた。九段会館の歴史を振り返りつつ、足掛け5年以上におよんだ保存プロジェクトについて紹介する。

(左上)スクラッチタイル ピンニング、(中上)スクラッチタイル 東側外壁、(右上)ラウンジ 人造石研ぎ出し、(左下)九段会館テラス 正面玄関、(右中)正面玄関 ブロンズ扉、(右下)南東エントランス
(左上)スクラッチタイル ピンニング、(中上)スクラッチタイル 東側外壁、(右上)ラウンジ 人造石研ぎ出し、(左下)九段会館テラス 正面玄関、(右中)正面玄関 ブロンズ扉、(右下)南東エントランス

戦後は「ハレの場」として一般に親しまれる

 終戦後はGHQに接収され、「アーミーホール」=進駐軍宿舎として使用された。接収解除後、軍人會館は、軍人・軍属遺族の福利向上を目的とした日本遺族会が運営を担う。建物名称は「九段会館」と改められ、57年にレストラン・結婚式場として再開業する。

 それから長らく、九段会館は市民のハレの場として親しまれた。九段下交差点は戦前から市電が交差する交通の要衝ではあったが、64年に営団地下鉄東西線・九段下駅が開業すると、80年に都営地下鉄新宿線、89年に営団地下鉄半蔵門線が開通し、九段下は東京都心を縦横に接続する地下鉄ターミナルとしてさらに発展。九段会館には、さらに人が集まるようになっていった。大ホールでは数々の有名アーティストが公演し、武道館と並び音楽の殿堂として親しまれるようになった。78年にはサザンオールスターズがデビューコンサートを開いたことでも知られるほか、館内は映画撮影でも多く使用された。ホテル客室は162室(340名)、結婚式場は神殿とチャペルの2会場、創作フレンチにイタリアンレストラン、コーヒーラウンジがあり、牛ヶ淵を望む屋上のビアホールは人気を博した。正面玄関を入ってすぐのホール(講堂)は客席数1,112名収容(1階:614席、2階:168席、3階:330席)、創建当時のままの白亜の会場が独特の雰囲気で異彩を放っていた。

 そのホールを東日本大震災(2011年3月)が襲い、11年4月に日本遺族会は九段会館の営業を停止した。

東京駅の保存復原などで実績、再開発は東急不動産・鹿島で

鹿島建設(株)
開発事業本部 本部次長 事業部長
梅田 慎介 氏

    16年、九段会館は民間に払い下げられることが決定した。建物は北側と東側の棟をL字状に保存し、西側のホールと西南側と南側の客室部分を解体。そうして生まれた土地に、建物を新築して高度利用することとなった。17年に財務省が事業者公募として二段階一般競争入札を実施。東急不動産と鹿島建設チームの提案が選ばれた。鹿島建設は東京駅、ニコライ堂、共立女子学園共立講堂など歴史的建造物の保存・復原を数多く担った実績がある。加えて、「東急不動産とは、13年から20年にかけて実施した竹芝エリア再開発でチームワークができていた」(開発事業本部 本部次長 事業部長・梅田慎介氏)というように、2社間で人的な関わりが深い時期だったことも良い意味で影響したようだ。

 プロジェクトにあたっては、東京駅・丸の内駅舎の復原も経験した社内タスクチームが再結集して、重要文化財建造物修理工事主任技術者の資格保持者を監修者に迎え、文化財専門の会社も加えて臨んだ。

(上)九段会館テラス 正面玄関、(左下)復原屋根瓦、(右下)正面玄関 ブロンズ欄間
(上)九段会館テラス 正面玄関、(左下)復原屋根瓦、
(右下)正面玄関 ブロンズ欄間

【永上 隼人】

参考
・洪洋社編集部編「軍人会館競技設計図集」洪洋社 1931年
・日本建築協会編「日本趣味を基調とせる最近建築懸賞図集」 1931年
・帝國在郷軍人會本部「帝國在郷軍人會概要」 1932年
・近江栄『建築設計競技 コンペティションの系譜と展望』鹿島出版会 1986年
・藤岡洋保「軍人会館 (現・九段会館)─「帝冠様式」は軍国主義の象徴か?」、『コア東京』2020年7月号、(一社)東京都建築士事務所協会

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