「もうつくれない」昭和初期の建築物・九段会館を保存再生(中)
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「動態保存」とは
さて、ここからは九段会館の保存部分について、主に施工技術的な観点から紹介していきたい。今回の保存プロジェクトで特徴的なのが「動態保存」という考え方である。保存された北側・東側の棟は、オフィスおよびホールとして活用される。観賞用としてではなく、現役の建築として使用することが目指されたのだ。
【外壁・屋根・玄関】
まず、外壁は創建時のままである。大部分を構成するスクラッチタイルは温水高圧洗浄を施した後、すべてのタイルをピンニングした(約5万8,000本)。ドライエリアや玄関上のジャイアントオーダーに使われている擬石(※)も温水高圧洗浄され、表面微細研磨、ピンニング(約7,300本)が実施された。ピンニングでは、ピンの頭部をそれぞれ隣接する素材に模した着色を施し、外壁と同化させている。駆体の削孔部にはエポキシ樹脂を充填し、耐久性と安全性を高めている。
(※)擬石とは大理石や石灰石などを砕き、白系セメントに混ぜて固めた人造石。
軒部分や最上階外壁は当初リソイド塗りで仕上げられていたが、後年の改修でリシンが吹き付けられていた。そこでリシンを高圧洗浄で除去した後、ピンネット工法で下地をつくり、樹脂材ベースに特注の石材を混入したリソイド風着付け塗装で創建時の質感が再現された。
屋根瓦は健全性を確認するために、約2万8,000枚の瓦をすべて調査。不具合が判明した交換する必要枚数約3,300枚のうち約半数が創建時の瓦の転用、残り半分が今回新たに製作したものだという。新たに製作される瓦は、創建時の色ムラを出すためにあえて古い窯で製作し、もともとの「織部色」と呼ばれる独特の緑色を出すべく、瓦職人と釉薬の配合を変えながら40枚以上の試作品を製作し、そのなかから4色の瓦を採用した。
正面玄関は、国会議事堂の内閣総理大臣室の暖炉でも使われている柱面の褐色大理石・長州オニックスを活用。1枚250kgもある3カ所のブロンズ製扉(4枚組)は、スチール製の下地の腐食が進んでいたため、ステンレスで下地を置き換え、創建時の真鍮蝶番を転用して復原し、組み直した。扉枠も下地をステンレスで置き換え、腐食部分は鋼板で復原し、硫化燻を現状の緑青に合わせる試作を繰り返しながら2年がかりで修復した。また欄間のブロンズ製の装飾は磨き上げて再利用している。
【永上 隼人】
参考
・洪洋社編集部編「軍人会館競技設計図集」洪洋社 1931年
・日本建築協会編「日本趣味を基調とせる最近建築懸賞図集」 1931年
・帝國在郷軍人會本部「帝國在郷軍人會概要」 1932年
・近江栄『建築設計競技 コンペティションの系譜と展望』鹿島出版会 1986年
・藤岡洋保「軍人会館 (現・九段会館)─「帝冠様式」は軍国主義の象徴か?」、『コア東京』2020年7月号、(一社)東京都建築士事務所協会- 1
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