2024年04月25日( 木 )

北朝鮮「労働党大会」36年ぶり開催、3代目の首領は「先軍国家」を崩壊させるのか?(後)

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sora 「北朝鮮には2種類の軍人がいる」――これが定説だ。1つは、軍の人事や思想統制に当たる「政治軍人」である。もう1つが戦闘指揮を担う「野戦軍人」である。この2種類の軍人がいる。無理矢理の比較をすれば、前者が「皇道派」みたいなもので、後者が「統制派」と言うべきか。だが、時代も国柄(国体!)も違うから、そう単純ではない。

 ただ面白いのは、最近の北朝鮮の動向を見ていると、3代目(金正恩)による粛清が、「野戦軍人」に集中していることだ。
 2月に処刑されたと見られる李永吉(リ・ヨンギル)総参謀長や、昨年粛清された玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長が、その代表格である。そして前者の代表者は黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長である。金正恩の側近中の側近だ。

 今回の党大会で流布された写真を思い出していただきたい。金正恩がスーツ姿で登場して、世界を驚かせた(?)あの写真である。ひな壇の中央に金正恩が座り、その左に金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長の姿があった。祖父の代からの「金王朝侍従長」であると思えば良い。そして右に座ったのが、軍人の黄炳瑞だ。いずれも政治局常務委員である。
 党大会開幕式。グレーのシャドーストライプのスーツを着用した金正恩は、次のように述べた。

 「党大会は新たな里程標を築く歴史的な契機になる」「(この36年間は)党の長い歴史のなかで、これ以上なく厳しい闘争の時期であり、偉大な変貌が遂げられた栄えある勝利の年代だった」。

 勝利宣言にも似た高揚感あふれる内容である。しかし、それにしては演説が棒読みである。大挙招待した外国取材陣への公開も許されなかった。そこに「先軍国家」の弱点を見出すのは、私だけだろうか。気になるのは、「主体105年」を迎えた北朝鮮内部に、金王朝体制の「弛み」と「不満」が広がっていることだ。米国政府の北朝鮮通が指摘したのも、そういった情報に基づいている。

 「金正恩のことは、料理人に聞け!!」――まともな北朝鮮ウォッチャーなら、誰でもそう考える。日本の外事公安当局も今頃、金正日の元専属料理人、藤本健二氏(仮名)への聞き込みを重ねているだろう。彼は何と語ったか。最近、毎日新聞が特ダネで報じた。取材は北朝鮮通の鈴木琢磨氏。こういうネタは、彼の独壇場だ。以下、引用する。

 <再訪した北朝鮮で金正恩第1書記と面会したことを明らかにした。相次ぐ核ミサイル実験について金第1書記は「戦争する気はない。外交の人間がアメリカに近づくと、無理難題を突き付けてくる。むかっとしてミサイルを発射している」と発言したという。>

 <面会したのは藤本氏が平壌に到着した12日夕。市内の宴会施設で妹の与正(ヨジョン)氏や側近の崔竜海(チェ・リョンヘ)書記らを交え、3時間にわたり食事をともにした。赤ワインで乾杯した後、金第1書記はまず「日本国は今、我が国をどう見ているのか」と質問、藤本氏が「最悪です」と応じると「そうか」とうなずきながら聞いていたという。日本人拉致問題への言及はなかった。>

 <藤本氏は「宿舎の高麗ホテル玄関で待っていると、金第1書記自らベンツを運転してやってきたのに驚いた。いつ来てもいい、困ったことがあれば言ってくれ、と声をかけてもらった。私に日本政府との橋渡し役をしてほしいのだと思った」。>

 「むかっとしてミサイルを発射している」――金正恩の発言は、まことに意味深長である。

(了)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 
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