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2016年05月16日 07:01

トランプ「大統領」の外交・金融政策が日本を直撃する(3) SNSI中田安彦レポート 

副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦

 しかし、トランプの外交思想は、グリーンらが属するアメリカの主流派の外交サークルとは違う、「アメリカ・ファースト」(米国国内問題優先主義、米国第一主義)と呼ばれる派閥に属する。アメリカ・ファーストはアイソレーショニズム(孤立主義)とも訳されるが、さきのタイムズ紙のインタビューによると、これはトランプの好む表現ではないらしく、彼は積極的にのちの外交演説でも「アメリカ・ファースト」を使っている。

usa 「アメリカ・ファースト」という言葉にはアメリカ政治文化に根付く古い歴史がある。これはもともとナチスが台頭し第二次世界大戦が欧州で勃発した後の1940年に、アメリカが欧州の解放に参戦すべきだとする国際主義者の掛け声にたいして、「アメリカは欧州の事情に関わっている余裕がない。大恐慌からの復興が先決で国内問題を優先すべきだ」とする立場の人々の集まりとして設立された「アメリカ第一委員会」に由来する。
 その代表格が飛行機乗りのチャールズ・リンドバーグだった。彼らはアメリカを欧州の戦争に巻き込まれないようにするための平和主義者だった。同時に、ユダヤ人からはヒトラーに融和的な反ユダヤ主義を背景にしていると批判されたが、メンバーの中には確かにヘンリー・フォードのような反ユダヤ主義の疑いを持たれる人物もいたのは事実だ。そのような歴史的な経緯を「アメリカ・ファースト」は持っており、単純な平和主義ではない。
 アメリカの外交は孤立主義と国際関与主義という2つの軸があり、道徳的に軍事介入をしなければならない時があるという考えと、アメリカは世界のすべての問題に口出しすべきではないという考えの間を揺れ動いてきた。

 戦後、アメリカの外交は常に国際主義やグローバリズムに基づいて動かされてきた。ただ、ネオコン派の考えで主導されたイラク戦争の失敗により、アメリカは本当に国益上必要でなければ軍事行動はしないほうがいい、という考えがオバマ政権に如実に反映されるようになった。空爆はするが地上軍は派遣しないという考えや無人機を使って米兵の犠牲を減らすという思想にあらわれている。
 これは「リアリズム」という考え方で、アメリカのような大国は地域のパワーバランス(勢力均衡)を管理すればいいという考え方である。パワーバランスを管理するために、アメリカは間接的にあるときはA国を支援し、A国のパワーが増大してきたらライヴァルのB国を支援するという考え方だ。オバマ大統領のイランの核兵器放棄交渉も、シーア派の大国のイランをスンニ派の大国のサウジ他の中東諸国の勢力均衡に使おうという考え方にもとづいている。このような考え方はパワーバランスのみを重視するので、アメリカは道徳的に問題のある独裁国家さえも支援する可能性がある。

 トランプの外交思想は更にその先を行って、「アメリカ兵を国内に戻す」という考え方だ。トランプがかつて2000年に大統領選挙で立候補した「改革党」(リフォーム・パーティ)という弱小政党があるが、この政党でこの年に候補者指名を獲得したパット・ブキャナンという、ニクソン政権のスピーチライターで異色の保守系の政治評論家は、自著で「アメリカ・ファースト」の意義を再評価した。トランプも、おそらくはこの考え方だ。イラク戦争で疲弊し、多数の戦死者を出し、挙げ句の果てには、テロリストに国民が首を切られたのをアメリカ人は目の当たりにした。海外に遠征することでひどい目にあうのはごめんだ、ということになる。

 仮にそのような熱狂的な支持者の声を背景に、トランプが大統領になった場合、日本や指導者や、外務省がこれまでのように「どうせ、トランプでも日米同盟は継続する」と甘く考えていたら痛い目にあう。
 相手は「国内の再生を優先する。海外は二の次だ」という立場で政治を考えている人物だ。米軍基地を維持するカネを相手に負担させてその分で国内の再生を目指すという考えだ。トランプは海外の米軍兵士の雇用を国内のインフラ建設事業(建設業は彼の専門だ)に振り向けることで経済を再生する狙いかもしれないのだ。甘い気持ちで在日米軍がそのままだと考えて外務省が交渉したら、そのまま全額あるいはそれ以上の金額を負担させられるかもしれない。
かつて、小沢一郎・元民主党代表が「日米同盟は第7艦隊だけで大丈夫だ」とは発言したことがあるが、これくらいの勢いで交渉しなければ、「言い値を押し付けられる」と覚悟したほうがいい。これは相手とのチキンレースだからだ。

 そもそも今の段階でも日本は在日米軍駐留経費を他国と比較しても突出した割合で負担している。米国防総省の正式の資料は、2004年以降はインターネット上には発表されていないが、駐留米軍に対する日本の経費負担割合は約75%で、ドイツ、韓国の3〜4割に比べても突出している。トランプに対するCNNのインタビューでは韓国側の負担は現在は5割になっているので、日本側の負担も増えているかもしれない。過去のデータになるが、日本の外務省のサイトによると、在日米軍駐留経費の総額はいわゆる「思いやり予算」(日本人従業員の退職・住居手当など)などを含めて1兆2,273億円となっており、その内訳は米側が49%(5,969億円)、日本側が51%(6,304億円)となっていた。負担割合は米国のデータのほうが多めに出ているのが不思議だが、合計金額を負担するとなると、日本側は運用維持費や軍人の人件費まで含めて1兆円以上負担することになる。これに海兵隊海外移設費が短期的には含まれることになる。(参考:外務省サイト

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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