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2016年10月07日 07:03

なぜ所信表明演説における「起立拍手」が問題なのか(後) SNSI中田安彦レポート 

副島国家戦略研究所(SNSI) 中田安彦

 より俯瞰的に、なぜ「首相に促されての起立拍手が問題なのか」について、以下の2つの点から指摘したい。

 1つ目は、行政府の長である総理大臣と立法府の一員である議員は、立法の府である議会と行政府である内閣は緊張関係にあるべきだという「三権分立」の立場からの議論である。安倍首相は先の通常国会でも、しょっちゅう「私は立法府の長である」と答弁で述べて批判されていたが、今国会で自民党の改憲草案について、野党議員から撤回を求められた際には、「行政府の長として立っている立場で、逐条的な解説をする立場にはない」と正しく答弁するなど、立法府と行政府の違いを明確に意識していないか、あるいは意図的に使い分けているように見える。

fukei 基本的なことだが、「立法府の長」は、衆議院議長である大島理森氏である。司法府の長は最高裁判所長官である。だから、この立場から大島議長は首相と議員のスタンディングオベーションをすぐさま制したのだ。今回は、行政府のナンバースリーである官房副長官が、議会の国対委員長にはたらきかけて、「もり立て」を依頼している。こういう行政府の立法府への介入まがいのことが行き過ぎるとこれは、政府の方針を議会が追認するという「翼賛政治」につながるわけだ。

 2つ目は、米議会との共通点と相違点の問題だ。たしかにアメリカでは毎年の大統領の一般教書演説などでは、演説を中断して議員らがテーマごとにスタンディングオベーションをすることがある。しかし、それは大統領の施政方針に対する賛同を示すのであって、安倍首相のやったようなその場にいない警察や自衛隊に対する敬意を表するものとはちがう。また、教書演説では演説のテーマに関係するゲストが呼ばれることがあり、それに対しても議員が拍手することもある。
 例えば、「毎日新聞」の解説記事では大山礼子駒沢大教授(政治制度論)が「オバマ大統領が議会演説する際、特定の箇所で拍手するよう要請したら大問題になる」と述べている。つまり、1つ目の論点で挙げたような行政府の立法府への「依頼」は論外ということだ。高村副総裁が指摘した鳩山首相へのスタンディングオベーションも、アメリカ型のもので、民主党政権に対する期待感を表したものであったろうから、安倍首相に対するものとは性質が違うのだ。また、「日経新聞」のピーター・ランダース米紙ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長への取材でも、「米議会では、演説する人に賛同を示すために皆が立って拍手するのに対して、安倍首相の場合は、その場にいない自衛隊員や海上保安庁の職員に敬意を表すために拍手を呼びかけた。私の記憶では、そのような呼びかけは米国でも珍しい」と安倍首相と米議会の起立拍手の違いを解説している。

 以上、見てきたように、この問題は、一部で言われているような「自衛隊に対して議員が敬意を表明することが責められるのか」という単純な議論ではなく、立法府と行政府の緊張関係に対して、行政府の中枢である内閣(首相以下閣僚、副大臣など)がどのように臨むか、という点をきちんと閣僚や国会議員が理解しているかどうかという問題だ。つまり議会制度の本質に関わる問題なのである。

 さらに言えば、90年代に小選挙区制の導入されてからかなりたつが、派閥の議員の教育機関としての機能が失われ、与党の追い風だけで再選を重ねる「なんとかチルドレン」というような質の低い「反知性主義的」な議員が急増してきた。政権奪還した2012年初当選組の若手議員に懸念すべき人材が多い。現在の選挙制度では一選挙区で公認を得られるのは一人であり、支部長のイスが少なくなったために党本部の意向に敏感になる傾向が顕著になってきていると言われる。いわば総裁への権力集中が起きており、今回のように議会制度上問題がある行動も「総裁の意向」を忖度して断れなくなることは今後も起こりうる。小泉進次郎議員が、若手ながら「ちょっとおかしいと思う。何となく自然じゃない」と批判していたが、そういうまっとうな感覚を持った議員が少なくなり、物事を考えず上だけを見て威張る「ゴマすり議員」が増えてきている危機感を私は覚えている。

 私は、そもそも「ヤジも拍手」も議会の花だし、それをあくまで立法府の立場の人間がもり立てるのも抑えるのも自由だと思う。しかし、安倍首相の答弁や一部の自民党議員の反応をみていると、やはり細野議員ではないが「一体何処の国の議会なのか」と思わざるを得なくなるのもまた事実だ。議会人の作法を自民党はキチンと議員に教育しているのか、ともぼやきたくなる。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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