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2016年10月17日 07:03

大手小売業(日本型GMS)に何が起きているのか(3)

お客にとって広く大きな店がいいとは限らない

 消費頻度の高い食品は価格に合わせて「近くにある」という買い物時間の要求にもこたえなければならない。店のなかった時代は野越え山越えやって来てくれたお客も、居住地の近くに店ができれば当然来てくれなくなる。いくら人的サービスを付加しても、この距離の原則を打ち破ることはできない。大きな店も同じである。食品だけで600坪を超える店舗は品揃えこそいいが、お客にとっては極めて不便である。毎日の食の買い物は買い手にとってけして楽しいものではない。どちらかというと手っ取り早くすませたいというのが本音である。
 家から遠いという条件や店が広すぎて手早く買い物ができないという状況はお客から見るとはなはだ不満ということになる。
 郊外立地の大型店に広い食品売り場を併設するという日本型GMSはこの面でも小さくないハンディを背負うことになる。かくてその収益全般の改善が思うようにならないという結果に陥るのである。

現在の半分の売り場面積でも売り上げは変わらない?

 現在の日本型GMSはお客のニーズに沿った品揃えというより、売り場を埋めるための品揃えといった感じがぬぐえない。お客のニーズのない品ぞろえは当然まともな価格では売れるはずがない。そしてそれは値下げによる大きな損失につながる。その結果、多くのバイヤーはその補てんのために市場ニーズとは関係なく、値入率の高い商品を優先して仕入れるといことになり、商品の販売不振にますます拍車がかかる。これが笑えない仕入れの実態である。

2

 表はイオンのセグメント別の収益状況である。いわゆる本業といわれる部門構成は80%を超す売上げを構成するが、が、その利益は全体の28%に過ぎない。特にGMSの不振が際立っている。

32014/8月期数値(単位億円)

 次にGMS(イオンリテール)の部門構成と粗利益率、販売管理費を見てみる。物販で獲得する利益率は26.6%。それに対して、販売管理費率は33.3%。差引8.1%の逆ザヤということになる。100円の物を売って8円の赤字ということである。その売り上げが2兆円ともなれば経営から見たらいささか心穏やかならぬ数値に違いない。
 この数値が物語るのは、大型スーパーがお客の期待出来る売り場を提供できていないということである。特に衣料品は36%の粗利を確保するためには値下げを考えると50%前後の差益率を確保しなければならないことになる。そうなると「よい品を安く」のGMSの基本を実行することは難しい。
食品や雑貨も同じことである。ドラッグストアや大型ディスカウントストアの値入率は大方15%前後であることを考えるとこちらももはや価格競争力はない。価格競争力がないということは小売業で最も重要な、坪あたり売り上げを上げられないということである。
 15年度の方針でイオンホールディングスは20名の執行役員の半減、450名の社員を230名に減らすとしている。中期3カ年の投資計画も1.5兆円から1.3兆円に変更している。

売上総利益で販売管理費が賄えないというジレンマ

 大手に限らず、中小の流通業も商品の販売だけで販売管理費を賄えないケースが増えている。
 商品の売買で利益が出ないとなると、残された道はその他の営業収入でその差額を補てんしなければならない。その典型の形が「テナント収入」である。自社の店舗にテナントを入れて、その家賃で収支を合わせることはもはや大手小売業では当たり前のことになっている。
 言い換えればずいぶん昔から本業は本業たる立ち位置を失っているということである。
 いまやGMSは入居するテナントの集客のためにその存在があるという極めておかしな立ち位置になってしまっているということである。この構造は一人イオンだけでなく、セブン&アイを始め、今やわが国のすべてのGMS企業に共通する現象である。

 さらにこの構造は今やSM業界にも広がっている。SM企業がNSCという商業集積施設を自ら作り、運営するのは価格競争に対抗するのに必要な安い価格を実現するために他ならない。専門店と共同で商業施設を運営すればワンストップ(お客は1か所で買い物が済む)の利便性と家賃収入を目論んでのことである。今や経常利益のほぼ全てをこの家賃収入で得ているSM企業もある。しかし、その手法では投資効率が悪化してしまう。さらに現在では、その建設の余地もほとんどなくなってきている。もちろん、これらの手法がとれない企業がたどる道は相当厳しいということになる。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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