2024年04月29日( 月 )

過労死の時代に~変わりゆく労働の価値(4)

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 過労による心身の崩壊には二種類がある。一つは循環器系のハンディを持っている人であり、もう一つはメンタリティの面で耐性が強くない人である。自分も含め、周りにそんな人がいることを考える必要があるのは当然である。そのような可能性がある人に配慮しながら人事管理を行うのは当然だが、最近のマスコミの論調を見ているといささか論点のずれを感じる。

 それは特殊例を一般化するという報道手法である。仕事の中身が容易でない域に達するのは一部の業界ではない。

 直近では電通の女性社員高橋まつりさんの事情が大きく報道された。きわめて悲しくかわいそうな事例である。しかし、それを報道するマスコミにも「夜討ち、朝駆け」で表現される過酷な勤務実態がある。

night 普通の人が行かないような危険な場所にも大手報道機関は社員や契約社員を派遣する。報道機関だけではない。長距離輸送の運輸会社、遠洋漁業の乗組員、国会答弁の資料作りに終電車に間に合わない時間まで仕事をするキャリア官僚、たった二人で月間400件の患者に対応する救急ドクター、家に仕事を持ち帰らないと仕事を完結できない教員、寝る間もなく働くタレント、ひょっとしたら、予算委員会で半分居眠りをしながらテレビカメラに写っている国会議員もそうかもしれない。しかし、それらが大きく問題視されることはほとんどない。いうなれば「順法の不公平」である。

 では、法に則ってこれらの人たちをみんな平準化して安心安全最優先の「適正労働」を義務化したらどうだろう?想像しただけで苦い笑いがこみあげてくる。でも法の公平を当てはめれば、それはおかしいことに違いない。

 以前、一番じゃなければだめなんですか?と聞いた野党の党首がいたが、研究開発は科学の世界での二番はそれ以下の順位となんら変わらないということが現実なのである。いや二番であれば全く価値がないといケースは枚挙にいとまがない。たとえば世界一のエベレストの名前は誰でも知っているが、二番目の標高の山を知る人は少ない。山だけではない、どんな世界も同じである。

 しかし、一番になるにはそれこそビル・ゲイツ並みの刻苦勉励が求められるのである。受験生が50の偏差値を75にするにはボツボツの努力では間に合わない。

 一般に仕事で一人前になるには6,000時間かかるといわれる。俗に石の上にも三年という言葉があるが、年間2,000時間とすればまさに言い得て妙である。さらにプロフェショナルになるには30,000時間を要するともいう。

 30,000時間を現在の法定労働時間で割ると20年近くの年月ということになるがそれは仕事の難しさとそれへの取り組み姿勢のあるべきようを表してもいる。

 言い換えれば、仕事は一筋縄ではいかない強かさを持っているということである。それをすることで生活の糧を手に入れ、命をつないでいることを考えればごくごく当然でもある。

 しかし、報道をはじめとする世評はそれを如何にも簡単に規制と画一化でコントロールできる考え、それを実行すべきと主張する。

 もし、真剣にそう考えているとすればそれははなはだしい誤解であり、錯覚である。また、本音ではそう思っているのではなく、世論に合わせてそうすることが当面の自己利益になると考えているのなら、救いようのない偽善である。もしそうであるなら、彼らが批判するポピュリズム対応政治家となんら変わりがない。いや、公平中立の立場で臆面もなく偽善と建前で世論をリードし、経営に重しを付けるということになれば、ポピュリズム政治家たちよりたちが悪い。まさに戦時中の大政翼賛報道に似ている。人材以外に目立った資源がない我が国である。その能力開発まで影響が及ぶような世論リードは無責任のそしりを免れないということになる。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 

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