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2017年05月22日 09:38

一般メディアが語る「中国」はわかりやすすぎる!(2)

東京大学大学院総合文化研究科 川島 真 教授

なぜアフリカは欧米、日本でなく中国の援助を選ぶ

 ――近刊『中国のフロンティア』(岩波新書)の内容に入って行きたいと思います。中国の台頭、世界進出と言えば、先ず話題に上るのがアフリカです。アフリカの現場(=フロンティア)はどうなっているのでしょうか。

 川島 中国とアフリカの関係を見る場合、中国が50を超える国々を万遍なく重視して、国際連合での票稼ぎをしようとしているという話があります。しかし、一方で、中国はいくつかの面でプライオリティをつけてアフリカを見ています。先ずは「資源重視」です。産油国でアンゴラ、ナイジェリア、南スーダン、鉱産国でザンビアなどが該当します。次に、「地域大国重視」です。エチオピア、南アフリカ、ザンビアなどが該当します。3番目に、「軍事安全保障重視」です。ジブチでの海軍基地建設などが該当します。そして。最後に「伝統的関係重視」です。タンザニアなどが該当します。こういった多様な要素が重なり合って中国の対アフリカ政策は作られています。

 ここでは、中国がアフリカに「進出」するのは中国側の要因だけで説明が可能かどうかを考えてみます。なぜ、アフリカは中国を受け入れるのか。アフリカは援助を欧米から受けるのか、日本から受けるのか、あるいは中国から受けるのかを選ぶ権利があります。 
 そう考えると、中国のやっている援助は、アフリカの国々にとって魅力的であるということになります。しかし、日本の一般メディアでは、援助後に起こる労働問題などだけがクローズアップされ、そもそも「なぜ中国がアフリカに進出できたのか」、「なぜ現地社会は中国の進出を受け入れたのか」はほとんど報じられません。

中国は途上国アフリカ諸国の目線に合わせている

 中国の援助は、アフリカ各国に個別に存在している特別な理由を除けば、その魅力は大きく3つに大別されます。

 1つ目は、中国からの援助は「条件付きでないこと」です。欧米先進国ドナー(援助者)が民主化の改革や、グッドガバナンスなどを要求するのに対して、中国は対象国の主権を尊重し、またその経済発展重視の姿勢を受け入れ、そうした条件を付けません。つまり途上国が途上国に行う“南南協力”で、中国は自分も発展途上国と位置づけ、アフリカ諸国の目線に合わせています。中国がアフリカに行う援助は、先進国から途上国への援助とは異なるのです。2つ目は「手続きが迅速であること」、3つ目は「援助の物量が大きいこと」です。

欧米先進国は自分たちの論理で制裁、援助を止める

 さらに言えば、4つ目の理由も存在します。日本を含む、欧米先進国のドナーは人権その他の条件をつけるだけでなく、紛争で社会が混乱し、治安に不安がある国には絶対入りません。また援助を開始しても、問題が起きれば援助を停止することもありますし、治安が悪化するレベルでの紛争が起こると援助をすぐ止めてしまいます。しかし、中国はそもそも条件をつけない上に、治安が悪化しても、先進国よりは粘り強く現地で援助を続けるので、歓迎されています。そして、中国は先進国が治安問題などで引き上げた後に、その「隙間」(ニッチな部分)に入り込んでいくわけです。
 もともと、世界のあらゆる地域で、アフリカも例外でなく、すでに欧米先進国のドナーが入り込んでいます。中国は、あくまでもレイトカマーなので、残されたの「隙間」を狙う他ないのです。

 また、中国の人の移動をめぐる風景は、必ずしも政府が旗振り役になって官民一体で行われているわけではありません。中国の人々の個別的な動きもまた、中国の「世界進出」とされる現象の一部を構成しています。しかし、このことは逆に、現地から考えると、本当にハイレベルな人材から、砂漠であれ、紛争経験地域であれ、逞しく入って行き、インフラを建設してくれる人材まで、多様性に富む対応をしてくれる中国を歓迎しています。

調査では、「保定村」の存在は確認できなかった

 ――「官民一体」関連で言えば、本書にはアフリカ・ザンビアの都市伝説とも言える「保定村」の物語が載っておりました。

 川島 保定というのは、北京に近い河北省の内陸の都市名です。その物語は以下のようなものです。

 国営企業が受注したダム建設工事のためにザンビアを訪れた保定市の出稼ぎ農民110人が工事終了後も中国に帰らず、ザンビアで高価な野菜の栽培と販売を始めた。それが、「保定村」の始まりで、これらの先行者を見習って、保定市の農民たちが積極的にグループを作り、海外に移住して暮らしながら農業を中心にビジネスを始めた。2008年の時点で、海外外に16,000人が移住し、すでに48の「保定村」が存在する。そのうち、アフリカには28の「保定村」がある。

 この話は2007年に中国中央電視台(CCTV)で紹介され、2008年には英字紙「インディペンダント」にも掲載されました。
 2009年3月に私はザンビアの首都ルサカ及びその周辺地域で調査を開始しました。中国と伝統的友好関係にあるザンビアには、大小さまざまな規模の中国人の経営する農場が20以上存在し、モングには水稲農場まであるとの話を耳にしました。また、移民前には考えられないほど、豊かな生活をしている中国人の農場があることも分かりました。しかし、大使館員をはじめ、現地の中国社会で「保定村」の存在を肯定した人はいませんでした。ザンビアで調査した限りでは、「保定村」の存在は確認できなかったのです。

 この物語を「虚」なるものとして、あるいは宣伝として排除するのは適切ではありません。指摘すべきは、中国農民の閉塞状況を打破すべく、援助プロジェクトなどですでにアフリカに来ていた人がおり、そうした人々を頼って中国の農民が移民し、そこで農業を営むことで富と成功を得る、という構図はその名前が「保定村」でなくても、確かにアフリカに存在していたからです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
川島 真(かわしま・しん)
 1968年神奈川県横浜市生まれ。1997年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程、単位取得退学、博士(文学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授(国際関係史)、専攻は中国近現代史、アジア政治外交史。世界平和研究所上席研究員、nippon.com企画編集委員長、内閣府国家安全保障局顧問などを兼任。
 著書として『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞)、『近代国家への模索 1894‐1925』(岩波新書)、『中国のフロンティア』(岩波新書)、『21世紀の「中華」』(中央公論新社)他多数。編著として、『東アジア国際政治史』(共編、名古屋大学出版会)、『チャイナ・リスク』(岩波書店)他多数。

 
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