2024年05月02日( 木 )

2年足らずで123億円もの資金調達に成功した越境EC企業

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 中国向けの越境ECを扱う企業は数多くあるなか、急激な伸長率を見せているのがInagora(株)(本社:東京都港区、翁永飆社長)。同社が運営する越境ECプラットフォーム「豌豆(ワンドウ)」に、大手企業の参入が急増。設立2年余りで売上高は約30億円まで伸長した。10月には伊藤忠商事(株)、KDDI(株)、SBIホールディングス(株)から6,800万ドル(約76.5億円)の第三者割当増資を完了したと発表され、越境ECにおける中間流通業者としてリードする企業に成長している。

 同社は2014年12月に、現代表でキングソフト(株)の翁永飆と、美容家でありMNC New York(株)代表取締役の山本未奈子氏らの出資で設立。東京を始め、北京・香港・上海に拠点を持ち、豌豆の運営とそれにともなう貿易、物流事業などを手がけている。運営している「豌豆」では中高年の女性をターゲットに、化粧品や日用品を始め、食品、子ども向けのアパレル商品などを販売。(株)ディーエイチシー(DHC)、(株)資生堂パーラー、(株)阪急阪神百貨店、御木本製薬(株)、日本製粉(株)、味の素(株)、カゴメ(株)、亀田製菓(株)、(株)永谷園、(株)サマンサタバサジャパンリミテッド、(株)エドウイン(EDWIN)、(株)ロフト、ピップ(株)、(株)キリン堂など大手企業が続々と参入しており、現在の出店企業は210社、取扱ブランドは2,600種、商品数は4万点に上る。

 なぜ「豌豆」に参入する日本企業が急増しているのか。まず挙げられるのは障壁の低さ。初期費用や固定費は無料で、販売額の20%のマージンと、3%の決済手数料が同社の収益となっている。次に参入の手軽さ。決済から物流まですべて同社が一貫して運営している。販売側は商品などの登録作業は日本語で対応し、発送についても自社で在庫を置いたまま、受注分だけを国内から行うことができる。また独自の販促サポートも魅力といえる。たとえば、模倣品が氾濫する中国では、中国国内のユーザー向けに、本当に日本産であることを証明するために、商品写真を多く掲載するように助言をしていることや、中国の流通事情で商品により、製品コードや製造現場まで掲載をするよう促すなど、販売につながる支援を行っている。

 同社では事業拡大のため、設立当初の2015年12月から、日本と中国の有力企業に第三者割当増資による資金調達を進めており、日本企業では美容・フィットネス機器大手のMTG(株)や、ベンチャーキャピタルの(株)WiLのほか、先述の伊藤忠商事(株)、KDDI(株)、SBIホールディングス(株)から6,800万ドル(約76.5億円)の第三者割当増資を受けたと発表。わずか2年足らずで計123億5,000万円の資金調達に成功した。こうした資金を基に、11月22日に発表した日中間における新しい商品流通システム「Wonder Japan Cross Border Syndication」の構想。日本企業が中国市場により手軽に参入できる環境を整え、成長基盤を強化することに貢献することを目的に、越境ECを行う上で必要となる、商品マスター、通関データベース、新商品情報や、商流・物流、マーケティングといった基盤をプラットフォーム化し、越境ECを総合的にサポートする新しい流通システムを構築するという。同社の発表では「中国のSNSやLIVEニュースなどのメディアは、越境ECのライセンスや物流拠点を所有していないため、弊社の倉庫を通じて各販売チャンネルに利用できるようにする。各メディアは弊社倉庫にある在庫商品をバーチャル在庫として手軽に販売することができ、より幅広い商品を中国市場で販売することが可能となる」としている。

 また、同社がもつ約4万点の日本商品の商品情報を応用し、 大手流通・卸企業と共同で新たな商品情報を追加・更新する。商品の訴求ポイントや販促情報、利用シーンなどのコンテンツを統合し、商品マスター情報を作成。中国の販売チャンネルに開放することによって、正確な商品情報の流通が常時可能となり、潜在ニーズの掘り起こしや販売促進へとつながるとしている。その事業化に向け、ワークグループを組織するといい、(株)あらた、伊藤忠食品(株)、(株)大木、加藤産業(株)、国分首都圏(株)、(株)日本アクセス、中央物産(株)、(株)ときわ商会、日本酒類販売(株)、三菱食品(株)、全農パールライス(株)、ピップ(株)が賛同している。2019年度には中国越境ECの流通総額を5,500億円まで拡大する意向という同社。たしかなニーズを基に、今後も中国越境EC拡大を先導する企業に成長していくものと思われる。

【小山 仁】

 

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