2024年04月30日( 火 )

日本最大級・伊都キャンパスで開く九州大学の新展開(中)

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九州大学 総長 久保 千春 氏

 2018年、九州大学は伊都キャンパス(福岡市西区)への移転を完了する。箱崎キャンパス跡地の約6倍、単独キャンパスとして日本最大級の広さを誇る伊都キャンパスでは、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)による世界レベルの研究が行われ、また4月からは新学部「共創学部」がスタートする。任期半ばを迎えた久保千春九州大学総長に、18年の展望についてうかがった。

(聞き手:(株)データ・マックス代表取締役・児玉 直)

世界トップレベルの研究拠点に

 ――九州大学といえば、福岡、ひいては九州ではトップクラスの学問の拠点です。今現在、どのような研究が行われているのでしょうか。

九州大学 総長 久保 千春 氏

 久保 まず挙がるのは、日本に11拠点ある世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つであるカーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER:アイスナー)です。CO2の排出を減らすとともに、非化石燃料によるエネルギーシステムを構築するための基礎研究を行い、環境調和型で持続可能な社会の実現を目指している世界最先端の国際研究所です。世界中から優秀な研究者が集まっており、現在177名の研究者のうち88名が外国人です。国からは年間約13億円のWPI補助金が交付されています。さらに研究者それぞれが他の外部資金も獲得しており、その総額は、九州大学全体の外部資金のうち12%程度を占めています。

 ――資金が集まるということは、研究が外部から評価されているということですね。

 久保 ほかには、多様なエネルギーの研究を進める研究機関として水素エネルギー国際研究センターがあり、福岡県とも共同で研究を進めています。水素自動車は、水素ステーションの設置に費用がかかるために普及に時間がかかっていますが、東京オリンピックの選手村で活用が予定されているなど、今後期待がかかるエネルギーです。日本はもちろん、世界中から9,000名以上の見学者が毎年訪れています。また、最先端有機光エレクトロニクス研究センターでは有機ELを使った半導体材料の研究を行っています。すでに商品開発まで行っており、九大発ベンチャー企業「Kyulux」を立ち上げて実用化を目指しています。そして、味覚・嗅覚センサ研究開発センターにおいてもトップレベルの研究を進めています。

 ――久保総長ご専門の先端医療関係にはどのような研究があるでしょうか。

 久保 ARO次世代医療センターでは、さまざまなシーズ(研究の種)を発見して新薬や医療機器の開発に生かしていこうという試みを行っています。先端医療イノベーションセンターではさまざまな企業と連携しており、その成果を実際の医療現場にまで届けるようにしていきたいと考えています。

 ――そのあたり、すべて掌握しながらのかじ取りは大変ですね。

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 久保 そこをどうするかを考えるために、総長就任時に「九州大学アクションプラン 2015-2020」をつくりました。これには6つの大きな柱があります。今までお話しした研究については、「Ⅰ 世界最高水準の研究とイノベーション創出」に関わるものです。18年春に新たに設置する「共創学部」は、「Ⅱ グローバル人材の育成」に含まれています。

 ――共創学部とは耳慣れない学部ですが、どのような学部なのでしょうか。

 久保 九州大学としては、51年ぶりの学部新設となります。いわゆる「文系」「理系」という枠を超え、さまざまな問題解決に資する幅広い知識を学ぶ学部です。単純に知識を積み重ねるだけではなく、学んだ知識をどう組み合わせるかを、自分とは異なる知識をもつ人々とともに切磋琢磨することで学びます。海外留学などのさまざまな経験を通じて、変化を続けるグローバル社会のなかで新たな知や価値を生み出す人材を育成しよう、というのが狙いです。

 ――アクションプランには、新たな学部の設置や大学運営を含めたさまざまな取り組みが織り込まれているのですね。

 久保 教育や人材育成、研究はもちろん、大学の組織としての機能を強化するための取り組みも含みます。アクションプランは、それぞれにロードマップをつくり、その進捗を毎年チェックします。それに応じて、総長の私自身も経営協議会や総長選考会議などで評価されるわけです。国に対しても成果などの報告を行い、その成果に応じて国から交付される運営費交付金が変動します。現在、世界のなかでの日本の立ち位置がだんだん低下しているという意見を多く耳にします。もちろん少子高齢化も大きな要因の1つですが、産業が競争力を失いつつあることが大きいでしょう。中国に行くたびに、その発展の勢いに驚かされます。政府も大学の研究開発に相当の金額をかけています。一方日本では、財政的に厳しい状態だということで運営費交付金を減らそうとしている。そのような状況のなかで、大学として経営していかなければいけない。厳しい状況ですが、可能な限りのチャレンジを続けていきます。

(つづく)
【文・構成:深水 央】

<INFORMATION>
(大)九州大学
所在地:福岡市西区元岡744
設 立:1911年
経常収益:(17/3)1,264億2,328万円

<プロフィール>
久保 千春(くぼ・ちはる)
1973年九州大学医学部卒業。アメリカオクラホマ医学研究所clinical research scientist、国立療養所南福岡病院内科医長、九州大学医学部心療内科助手を経て、93年九州大学医学部心身医学教授。2008年に九州大学病院長に就任。14年から第23代九州大学総長を務める(任期は2020年9月30日まで)。九州経済連合会理事、九州・大学発ベンチャー振興会議共同代表、大学ネットワークふくおか会長、ILCアジア-九州推進会議共同代表、福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)副会長などを務める。

 
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