2024年05月03日( 金 )

建築技術者から見た、リニア新幹線談合の是非

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(協)建築構造調査機構 仲盛 昭二 代表理事

 リニア新幹線の受注において、スーパーゼネコン4社による談合疑惑が報じられている。この問題では4社のうち大林組が最初に申告し、清水建設も認めているが、鹿島建設と大成建設は「談合にあたる行為はなかった」と主張している。4社のうち2社が談合の事実を認めているのであれば、あとの2社についても、理由の如何を問わず、談合に関与していたと考えることは当然のことだ。

 「談合」とは「競争入札の参加者が落札者と落札価格を前もって決める不公正な話合い」といわれている。これは、競争入札参加者が落札者と落札価格を話し合いで決めることにより、より高い価格での落札が可能となり、発注主に不利益を与える。

 公共工事であれば、税金の無駄遣いとなることはいうまでもない。このような談合は、もちろん、社会通念上、許されるものではない。民間企業であるJR東海の新幹線工事とはいえ、公共的要素が高い新幹線工事故に、あえて、競争入札が行われたものと思う。

 リニア新幹線のケースで考えてみると、品川-名古屋間286kmの9割近くの工区がトンネルであり難工事が予想されるので、事実上、高度な施工技術を有するスーパーゼネコンと呼ばれる業者以外に施工は不可能だと言われている。

 各ゼネコンとも、独自の工法を持っており、これまでの山岳地帯の鉄道や高速道路などの建設において経験を蓄積している。リニア新幹線の計画においても、各工区に適した工法を有するゼネコンに担当させる方向での協議は当然行われたと思われる。

 逆に、事前の協議がなければ、計画そのものが技術的に成立しないと思われる。その協議の結果を各社のイニシャルで工区を示す図面に記入していたといわれ、この協議が談合の一部だと指摘されているようだ。しかし、大規模な土木工事の多くは、このリニア新幹線と同じような経緯により施工業者が決定されていたのではないか。

 日本のスーパーゼネコンの技術は、世界的にも超一流の技術力を有している。事前に、技術的な課題をゼネコンに相談することは、方法論としてあり得ることである。

 私は、建築の世界に長く身を置いており、建築の世界でも、同じような事前の協議は幾度も目にしてきた。土木と建築では少し事情が異なるかもしれないが、建築における例を示してみたい。

 公共建築物の多くは、基本的に競争入札により設計者や施工業者が決定される。たとえば、計画されている公共建築物の敷地の地盤調査や周囲の状況などから地盤の問題点が想定される場合、発注側の行政が、杭の専門メーカーの意見を聞く場合も多い。近年の杭の工法は、各メーカーが有する認定工法により高い杭の支持力を得られるので、認定工法以外の従来の工法では相対的に低い杭の支持力しか得られないため、杭本数が極端に多くなり、逆に不経済となるケースが多い。

 認定工法が採用された場合、当然、認定工法により施工しなければならないので、その杭メーカーは独占的に受注が可能となるのである。これも談合となるのであろうか? 私個人の考えとしては、このような事前の協議を行っていなければ、工事が発注された後に、大混乱を来す可能性を否定できないので、いわば「必要悪」であると考える。

 杭に限らず、さまざまな分野において、「必要悪」は続けられており、それ故、工事が円滑に進められているのである。事務方の思考だけでは、設計も工事も進められないのである。これは、税金が投入される公共工事においても、行政側と設計側との間で、事前に水面下での調整が行われ、必然的に、事前に落札業者が決定されてきた事実を示すものである。

 同じく、基礎杭の工事に関しては、業者間で「チャンピオン制度」と呼ばれる、物件ごとに受注業者の優先権を決める行為も行われていた。これは前述の認定工法に関する事前の協議よりも、受注のための業者間の話し合いの色が強いものである。

 公共工事に近いところでは、旧住宅公団(現.UR都市機構)が発注する建物に使用される基礎工法に関しても、住宅公団の構造部門の責任者から、特定の杭業者を強く推薦され、住宅公団の物件の構造設計を担当する設計事務所は、住宅公団の構造部門の責任者の意向を汲んだ構造設計を行わなければ、不利益を蒙るという状況があった(現在の状況は存じ上げない)。

 東京都の豊洲市場の設計においては、鉄骨柱の柱脚部分に「ハイベース」というセンクシア(株)(日立系)の既製品が指定され独占的に採用された。他社の類似製品を採用しようとしても、製品の寸法や性能(回転剛性など)が微妙に異なるので、設計を遡って変更しなければならず、工期にまで影響を与えるので、他社製品の採用は非現実である。このように特定の製品が事実上独占的に採用される仕組みも、大局的には、談合と何ら変わらないと思う。

 リニア新幹線受注の問題に戻るが、現在の東海新幹線が東南海地震などにより運航できなくなった場合、リニア新幹線は重要な大動脈の交通手段となる。それゆえに、東海道に対して、バックアップとしての中山道は必要であり整備は急ぐべきである。

 全体の9割をトンネルで占めるような難工事を短期間で確実に施工できるのは、今、談合を報じられているスーパーゼネコンに限られると思う。否、スーパーゼネコン以外には施工できないのである。談合に関する課徴金の問題などでエネルギーを使うよりも、安全に施工を行い、予定工期内に確実に完成させることに力を注げる環境をつくり出すことが先決のように思える。

 

関連記事