2024年04月20日( 土 )

「社会主義現代化強国」を実現させる習近平(後)

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(株)アジア通信社 徐 静波 代表取締役社長

 中国共産党第19回全国代表大会(以下、第19回党大会)が、2017年11月18日‐24日に北京で開催された。習近平主席は同大会で、毛沢東と並ぶ、自らの名前を冠した「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に盛り込むことに成功、理論面でも強い権威を得た。18年3月の「全国人民代表大会」(以下、全人代)を経て、習主席は新しい国家目標「社会主義現代化強国」の建設に向け第2期目を開始する。2018年の中国の政治・経済はどうなるのか。(株)アジア通信社 代表取締役社長兼『中国経済新聞』編集長の徐静波氏に聞いた。

外交重視の姿勢を示す

 ――次に、習近平主席2期目を支える、新しい政治局常務委員について教えていただけますか。

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 徐 第19回党大会が閉幕の翌日25日に、新政治局常務委員の発表がありました。現執行部では、習近平主席(64)、李克強首相(62)を除く、5人は内規である「七上八下」の原則(年齢の上限は67歳で、68歳になったら引退)に従って引退、入れ替わりました。中国民の反応も、識者の反応も想定内という感じです。また今回の人事で習近平共産党総書記(国家主席、軍主席)が共産党主席になるかどうかも噂されましたが結果的にはなりませんでした。

 【表】が、新たに就任した政治局常務委員5名の名前、年齢、予想される役職(18年3月の「全人代」で正式決定)です。

 今回後継者を決めなかった理由は2つ考えられます。1つは、習主席がさらに5年間主席を継続する可能性を残したこと、他の1つは、政治局員の中には、優秀な人材がたくさんいるので、そのうち誰が自分の後を継ぐに相応しいか、この5年間の間に見定めたいからということです。

 腐敗撲滅運動などで習主席を支え、留任の噂もあった王岐山中央規律検査委員会書記(69)は留任しませんでした。しかし、彼は政治局常務委員を降りても、中南海を去ることはないと思います。18年3月の「全人代」で、国家副主席など相応しいポストが用意され、引き続き習主席を支えていくものと思われます。毛沢東時代にも、2人の国家副主席がいました。

 また、今回の政治局員の人事では、外交問題を総括する前外相の楊潔篪 国務委員(67)が昇格しました。外交トップの政治局入りは元副首相の銭其琛氏以来20年振りのことです。国際社会での中国の存在感が高まるなかで、第2期目の習近平指導部が外交を重視する姿勢を示したものと思われています。

第2期5年は経済に重点

 ――18年の中国政治・経済はどのようになると考えておられますか。

(株)アジア通信社 徐 静波 代表取締役社長

 徐 1つはっきりいえることは、習近平主席の第2期の5年は経済に重点をおいた政策展開をするということです。第19回党大会が幕を閉じた時点で、今後の中国政治の大枠はほぼ明確になりました。そこで、国家政策の重点は経済に移ります。この流れは習政権誕生時から予測されていた自然の流れともいえます。

 その経済政策ですが、まず第1にやるべきことは市場の整理整頓です。とくに金融市場や不動産市場などに重点を置き、きちんとした新しいルールを作って、今までのような無秩序、無法図に「資本が国の経済を動かす、操作する」ことを厳しく取り締まっていくことになると思います。これも「社会主義現代化強国」建設への第一歩です。

 もう1つ、習主席は中国を製造立国(「中国製造2025」など)にしたいと考えています。そのための金融面の支援と政策面の支援を本格的に開始します。中国はあくまでも、マネーゲームと対極にある実体経済を重視していく方針を打ち出しています。恐らく18年3月の「全人代」では、製造立国を実現するさまざまな政策が発表されると思います。

日本の報道視点は諸外国と異なる

 ――最後に、新年を迎える読者にメッセージをいただけますか。

 徐 私が今回、第19回党大会に関する日本の大手マスコミ報道を見て危惧している点が1つあります。それは、日本の報道は、欧米の報道視点やアフリカなど第3国の報道視点とも大きく異なることです。

 端的にいえば、日本の中国に対する報道は、先ずマイナス面から入り、極端に人事に重きを置く傾向にあります。恐らく、多くの皆さまがご覧になった新聞の見出しには、「中国 新指導部 後継置かず」「習氏、慣例破り後継排除」「習氏 『一強』態勢を強化」「習近平新体制 個人独裁へ」という文言が躍っていたと思います。しかし、欧米他諸外国の報道視点はこれとは大きく異なります。

 今回重要なのは「新内閣」の組閣ではなく、習近平共産党総書記が中国共産党の歴史における地位を確立したことにあるからです。

 具体例で言いますと、ニューヨーク・タイムズは「世界は今、『平和の赤字、発展の赤字、グローバルガバナンスの赤字』という3つの赤字を抱えており、全人類にとって深刻な問題になっている。こうしたなか、中国共産党第19回大会は、政治、経済、安全保障に重大な影響をおよぼすとの見方が広まっている。国際社会は、中国が世界のために継続的にプラスのエネルギーで貢献し、世界をすばらしい未来に向かわせてくれることを期待している」と報じました。

 またBBCは「第19回党大会は「世界地図の前に立って」開催された大会であり、世界平和の維持と共同発展の促進を計画する中国共産党は、今後世界経済の未来のために新しい知恵と方法を提供するだろう」と報じています。

 中国は刻々と進化を遂げています。ぜひ、賢明な読者の皆さまには中国を大局的に見ていただけたらと思います。そしてこのことは、日中が互恵の発展を目指すうえでとても大事な視点と感じています。

(了)
【文・構成:金木 亮憲】

<プロフィール>
徐 静波(じょ・せいは)
政治・経済ジャーナリスト。(株)アジア通信社社長兼『中国経済新聞』編集長。中国浙江省生まれ。1992年に来日し、東海大学大学院に留学。2000年にアジア通信社を設立し、翌年『中国経済新聞』を創刊。09年に、中国ニュースサイト『日本新聞網』を創刊。著書に『株式会社中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』など多数。訳書に『一勝九敗』(柳井正著、北京と台湾で出版)など多数。日本記者クラブ会員。経団連、日本商工会議所、日本新聞協会などで講演、早稲田大学特別非常勤講師も歴任。

 
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