2024年04月29日( 月 )

今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(10)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

アメリカ・チェーンストア巡り グローサラントの雄・ウェグマンズ(1)

トイレの入り口で衛生用品のプロモーション

 1916年、ロチェスターで青果業(ロチェスター・フルーツ&ベジタブル)として創業したウェグマンズだが、今やグローサラントの代表スーパーとしてそのクオリティーの高さを際立たせている。
 この企業もオーナー企業として有名だ。会長のダニーさん、社長の長女コリーンさん、次女のニコルさんと娘2人が経営トップに座る。アメリカ東部に92店舗、全従業員4万7,000人、年商83億ドル。2,000~4,000坪の店舗に50,000~70,000アイテムもの商品をもつ非上場企業だ。

 ウェグマンズは、従業員と顧客双方から高い評価を受ける企業である。
 従業員を尊敬し、奨学金の支給などできる限りの従業員サポートをすることと、お客とのより良いコミュニケーションを社是とするこの企業は、フォーチュン誌が毎年発表する「働きがいのある企業トップ100」の常連である。
 もちろん、小売業のランクでは断トツの1位だ。消費者側の立場から厳しい企業評価をすることで有名な、コンシューマレポート誌のスーパーマーケット評価でも5年連続第1位に輝いている。PBの評価やクリンリネス、生鮮品の品質、レジスピード、地産地消、オーガニックの品質と価格で、極めて高い評価を受けている。

 その特徴は高付加価値とミールソリューション(惣菜やデリカテッセンなどを活用し、食事の準備にかかる時間を減らすこと)だ。ウェグマンズは、ミールソリューションには、1990年ごろには本格的な挑戦を始めている。会長のダニー・ウェグマンは社長時代、デリの充実のために一度に100人のコックをスカウトするという思い切った戦略を実行するなど、これぞと思った方向には大胆な決断を持って臨んできた。

イートインスペースでは自社の歴史、取り組みを掲示

 ダニー会長は我が国で開かれるスーパーマーケットトレードショーなどにも講師として出席し、その経営指針をフランクに話してくれたこともある。その時の話だが、あるスーパーの幹部が、「デリカ重視の経営で商品の減耗ロスは?」と質問したことがある。彼の答えはもちろん頭の痛い問題ではあると笑顔で応えたが、気のせいかそこにはいささかの皮肉っぽさがあった。「リスクのない挑戦には価値はないよ」とも見える笑顔だった。

 このような高付加価値商品を扱う店舗の成否はひとえに坪効率に尽きる。店舗数の割には売上が大きいが、手間ひまの大きいデリカ生鮮重視の店をうまく運営するには、高い粗利率だけでなく一定の店舗面積あたりの高い売上が必須なのである。一定面積粗利の売上が高いほど、生鮮、デリカの販売効率が上がり、ロスリスクが小さくなる。このことはアメリカだけの話ではない。地域に関わらず、生鮮重視の店は坪率の問題解決なしには成立しない。いくら高質の店を作っても坪あたりの高い売り上げという条件をクリアしなければ、それをうまく運営することはできない。そのためには、より広域からの集客が必要である。この点ではディスカウント店と高質店は同じ課題をもつ。

ライスの代わりにカリフラワーを使った寿司

 ウェグマンズの店舗にあるイートインスペースには100~300の席があり。パンやベーグル、サラダやスープ、寿司、肉、魚のオーブン料理、サンドイッチなど店内調理の種類豊富なデリカを、2階の飲食スペースから1階の売り場を見下ろしながら楽しむことができるようになっている。

 メニューのレベルはレストランに勝るとも劣らない。たとえば寿司。日本以上のレベルの握り鮨だけでなく、お米の代わりにカリフラワーを潰したものを使った巻き寿司まである。ちなみにカリフラワーライスはアメリカでは人気の新食材だ。
 そのほかにもニューヨーク郊外に6万坪の有機菜園「ウェグマンズ・オーガニックファーム」を運営し、店内ワインバーや調剤薬局にも挑戦するなど、その革新の歩みを止めることはない。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
(9)
(11)

関連記事