2024年04月19日( 金 )

なにが問題なのか 改めて「漫画村」騒動を整理する(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 中編では「漫画村の巨大化を許した『電子書籍ビジネス』の未成熟」について触れた。ネット上では「漫画村とおなじ仕組みの、オフィシャルな漫画購読サイトをつくらなければ解決しない」という声もあるように、いまだ過渡期にある電子書籍ビジネスが漫画読者のニーズをくみ取り切れていないことが、違法サイト・漫画村の跳梁を許したという構図だ。前編でみたように、漫画村のような違法サイトは市場が縮小し続ける出版界の「最後の砦」だった漫画の収益を直撃。被害額は3,000億円以上にのぼるという推計も出ている。

 さて、さまざまな議論の広がりを経て、内閣が管轄する「知的財産戦略本部」は4月13日に「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」を発表。漫画村を含む3つのサイト(漫画だけでなく、アニメやテレビ番組の違法アップロードを行っていたサイトも含まれている)を挙げ、インターネットサービスプロバイダ(ISP。ネット接続業者)にブロッキング(閲覧制限)をするよう求めた。これを受けて、NTTグループのNTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTぷららは3サイトのブロッキングの実施に踏み切るとした。KDDIとソフトバンクは慎重な姿勢を見せたが、その後対象の3サイトはアクセス不能、もしくはテレビ・アニメ映像が再生できない状態になった。運営者側がサイト閉鎖などの措置を取ったものとみられる。

 しかし、これにて一件落着……とはいかないのが現実。漫画村問題は多くの課題を積み残し、さらに新たな問題点も浮上している。
 まず、ブロッキングはあくまでも対症療法に過ぎないという点。実際、ネット上では漫画村の閉鎖を受けて、「代わりに無料で漫画を読めるサイトはないか」と「タダ読み」を求めるユーザーの声が見られる。漫画村閉鎖直後も、漫画村と類似したサイトが登場して話題にもなった。根本的には、中編で指摘したように電子書籍のユーザビリティをできるだけ早く改善していく必要がある。しかし漫画家と出版社、出版社と電子書籍書店のあいだでの権利関係がいまだにクリアになっていないことなど、出版業界の古い商習慣を整理していかなければ、漫画読者が求めるような「ワンストップで、最新の漫画がいつでも読める」という電子書籍サイトは成立しない。
 そして、ISPによるブロッキングには看過できない大きな問題がある。「通信の秘密」の保持を定めた、憲法第21条に違反するのではないかという指摘だ。そもそも知的財産戦略本部は「緊急対策」で「(「通信の秘密」を)形式的に侵害する可能性がある」としているが、「刑法に定める緊急避難に当たる」ためにやむを得ない、という考え方だ。しかし知財管理に詳しい有識者や専門家からは、きちんとした立法措置を経るべきだという意見も多い。漫画の権利者側である日本漫画家協会からも「僕たちが表現者として常に大切にしてきた『表現の自由』や『知る権利』において、今回の『ブロッキング』という手段が諸刃の剣になりかねない、と危惧してもいます」(ちばてつや理事長名のコメント)と、憂慮する声が上がっている。

 5月に入り、講談社などの出版社側が、漫画村の運営者を著作権法違反などで刑事告訴していたことが明らかになった。漫画村問題は新たな局面を迎えたが、上記のような根本的な問題は解決されないままだ。
 現在、出版社を介さずに漫画家と読者が直接対価をやり取りできる仕組みも、徐々に広がりを見せている。従来の漫画雑誌や単行本をベースにした仕組みは制度疲労が進み、限界を迎えているといっていい。これまで漫画をはじめとした出版文化を守り育ててきた出版社には、漫画家と読者の双方を潤す新しいスキームの構築が求められる。

(了)
【深水 央】

 
(中)

関連記事