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WF再生へのキーポイント まちの賑わいをいかに取り戻すか―(前)
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2018年09月05日 07:03

WF再生へのキーポイント まちの賑わいをいかに取り戻すか―(前)

(株)アプル総合計画事務所
代表取締役 中野 恒明 氏(芝浦工業大学 名誉教授)

 都心部を中心に、さまざまな都市開発が進行している福岡市。そのなかでウォーターフロント(WF)エリアでは、MICE機能が集積し、イベント開催時とそうでないときとで、人の賑わいの変動が激しいという課題を抱えている。WFを恒常的に活性化させていくためには、どのようにすればいいか―。これまでに「門司港レトロ地区まちづくり」や「横浜みなとみらい21新港地区景観計画」などの数々の都市計画や都市デザインを手がけてきたほか、福岡市の「ウォーターフロント地区再整備に関する専門家懇談会委員」も務めた、(株)アプル総合計画事務所・代表取締役/芝浦工業大学名誉教授の中野恒明氏に聞いた。

古い港町に人を戻し日常的な賑わいを創出

 ――これまで、さまざまな都市デザインや都市計画などを手がけてこられていますが、なかでも「門司港レトロ」は、今では北九州市を代表する観光地として知られるほどになっています。

 中野 「門司港レトロ」のまちづくりには、1989年から関わり始めましたので、ちょうど30年くらい経ちますね。当時の門司港エリアは、今では考えられないくらい寂れていましたので、正直なところ私も最初はあまり自信がなく、声をかけられた当初は固辞していました。ところが、北九州市の方々の熱意に負けて、結局、引き受けることにしたのです。門司港では、当時の都市デザインの潮流のなかではある意味で異端ではありましたが、「古いものは残そう」とか、「ヒューマンスケールのまちにしよう」とか、そういったコンセプトの下で、古い港町を再生していくプロジェクトとして進めていきました。今ではこうして多くの観光客が訪れ、地元の方々からも親しまれるエリアとして認知していただけるようになりました。大規模な再開発や区画整理のような従来型の都市計画手法とは、異なるアプローチであったわけです。

 ――今、福岡市では、都心部の「天神ビッグバン」や博多駅周辺の開発、九大・箱崎キャンパス跡地の再開発、そして「ウォーターフロントネクスト」など、各エリアでさまざまな都市開発が進行しています。中野さまは、福岡市の「ウォーターフロント地区再整備に関する専門家懇談会委員」も務めておられましたので、今回はとくにウォーターフロント(WF)エリアについて、今後の活性化や開発の方向性についての意見をお聞きしたいと思います。

 中野 福岡市のなかでは「天神」と「博多駅周辺」、それに「WF」の3つのエリアを合わせて“三極”と言っていますが、ほか2つのエリアに比べると、正直なところ、WFはかなりの課題を抱えているように思います。ちょうど私がこの9月に「水辺の賑わいをとりもどす」(花伝社)という本を上梓するのですが、それを読んでいただけると、ここのWFの抱えている課題がより詳しくわかると思います。

 簡単にご説明しますと、今のWF―つまり博多港には古くからの歴史があり、この港町を中心にして、かつて福岡・博多のまちは発展を遂げていきました。これは何も福岡・博多に限ったことではなく、世界中のさまざまな都市が同じような経緯をたどっています。私はよく「生活街」という言葉を使うのですが、港があって、港を利用する人、そこで商いをする人、さまざまな人がそこに住んで生活を営む「生活街」こそが、本来の港町の姿でした。ところが産業革命以降、「近代都市計画」という考え方が出てきて、「住むところと働くところを分離しよう」という動きが起きました。都市が工業化していく過程において、港町には大型化した船舶を受け入れられる物流拠点としての役割が強く求められていったのです。そして物流機能をより充足していくために、港町から人を追い出し、いわゆる臨港地区というエリアが国によって定められていきました。世界中の港町で、そのようなかたちで、港から人を追い出していったのです。ところがその後、港の機能が外延化し、より水深の深いところに新たな港を整備していったことで、ある時期には世界中で古い港町が寂れていきました。

 そうした世界のWFを再生させるにあたって、何が行われたのか―。それは、いなくなってしまった人を、もう一度WFに戻すことです。山側・内陸側にシフトしてしまった人口重心を、古い港町に戻して新しい生活街をつくり出すことで、WFを再生させていったのです。アメリカのボストンやボルチモアなど、WFの再生に成功しているところでは、港町に人を定住させる取り組みを行ったことで、日常的な人の賑わいを取り戻しています。人がいるということは、そこで商業や飲食も成り立ちます。
 なので、世界中でWFの再生に成功しているところは、必ずしもMICEのようなかたちで人を集めることだけに特化したまちづくりを行ったわけではありません。集客ではなく、まずは人を定住・定着させていく。そうすると、まちがヒューマンスケールになっていき、常に人の気配があるような、そういった雰囲気がWFにつくり出されていきます。

 一方で日本の場合は、いまだにWFに人を戻すということをせずに、MICEや商業施設など、人を集める機能ばかりに傾倒されているようです。港町に人を定住させるという発想がないことが、日本の都市計画や都市政策の一番の問題なのではないでしょうか。

 ――福岡・博多の場合は、WFにMICEなどの機能が集積しており、イベントなどの開催時には多くの人で溢れますが、それ以外のときは閑古鳥が鳴いています。

 中野 イベントなどで集客すれば人は集まっても、それ以外のときはガラガラ。それが、今の日本におけるまちづくりの一番の課題です。実のところ、大規模イベントなどを開催するためには、周辺に人がいないほうが都合が良いんですね。大きな音を出しても、交通混雑が発生しても、そこに住む人がいなければ、あまり苦情も出ませんし。ですからWFが、MICEやイベント会場として適しているのも、また事実です。ですが、本当にそれでいいのかどうか。何かまちとして、歪な印象を受けますよね。

(つづく)
【坂田 憲治】

<プロフィール>
中野 恒明 (なかの・つねあき)

(株)アプル総合計画事務所・代表取締役/芝浦工業大学名誉教授
1951年、山口県宇部市出身。74年に東京大学工学部都市工学科を卒業後、槇総合計画事務所を経て、84年にアプル総合計画事務所設立。2005年から17 年まで、芝浦工業大学理工学部教授(環境システム学科)。専門は都市デザイン、都市計画から建築設計、景観設計まで幅広く実践活動を行う。代表的な作品・業務に、「門司港レトロ地区まちづくり」「皇居周辺道路景観整備」「新潟駅駅舎・駅前広場整備」「新宿モア街歩行者環境整備」「横浜みなとみらい21新港地区景観計画」など。

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