2024年03月29日( 金 )

2030年の世界 アルビン・トフラーの『未来の衝撃』から読み解く(1)

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未来人「ノア」

 2017年11月、欧米では奇妙な予言者の登場が話題となった。彼の名前は「ノア」。
 自称「2030年からやってきたタイムトラベラー」である。何しろ、「人類に警鐘を鳴らすのが目的」とことわったうえで、YouTube上で次々と「2030年社会の常識」を披露。

 たとえば、「2020年11月の大統領選挙でトランプ氏は再選された」とか「2030年のアメリカの大統領はイラナ・レミキーという女性になる」といった具合だ。「2021年までに自動走行車が普及し、あらゆるモノが仮想現実と人工知能の力で一体化する」ということは十分あり得るだろうが、「自分は50歳だが、若返りの薬のおかげで25歳になった」といわれると、これはにわかには信じがたくなる。

 しかも、「2028年には、人類は火星に到達する」と同時に「タイムマシーンも完成する」というのだが、「ロボットによって世界は支配されることになる」らしい。そうした危機を回避する対策を訴えるために「身の危険を顧みず現代に飛んできた」というのだが……。その真偽のほどを試そうと、うそ発見器がもち込まれたが、いとも簡単にクリアーしたという。とはいえ、今のところ彼の未来予測を信じるのは再選を狙うトランプ大統領だけのようだ。

 実は、アメリカでは未来研究が学問として定着している。ハワイ大学を筆頭に未来研究学部が歴史を重ねている。世界未来学会も活発に啓蒙活動を展開中である。国防総省やCIAなどの専門家が集められ、「世界のトレンド分析:2030年への選択肢」と銘打った報告書もまとめられているほどだ。未来を先取りし、新たなアイデアや技術を駆使することで世界のリーダーとして君臨し続けようとするアメリカの強い意志が感じられる。

 たしかに、ITやAIの研究開発のスピードは加速する一方である。ビジネス面での応用はもちろん軍事面での応用にも拍車がかかっている。アマゾンではあらゆる商品を注文から30分以内にドローンで宅配する実験を行っているが、同じ技術を戦場でも活用しようとする動きもあるため、Googleでは軍事応用研究に反対する社員たちが反旗を翻すことになった。ロボットシェフの登場に危機感を抱くラスベガスの料理人たちは「ロボット反対」のデモを繰り広げている。

 その一方で、人口減に直面するサウジアラビアでは世界初のAIロボットに市民権を与えた。アメリカではロボットが正式に弁護士資格を取得した。中国ではロボット記者が活躍している。まさに人間がAIロボットに凌駕される「シンギュラリティの時代」の到来を予感させるばかりだ。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

前参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。

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