防犯カメラがない日本最悪の場所

政治経済学者 植草一秀

 再審制度見直しに関する自民党の協議は完全な茶番。質の低い学芸会でしかない。焦点は二つ。検察の抗告禁止と証拠開示。裁判所が再審開始を決定したときに上級審に異議を唱える検察の抗告を禁止するのかどうかが最大の焦点。

 「原則禁止」は「禁止」ではない。例外として抗告を認めるからほとんどのケースで抗告が行われることになる。霞ヶ関用語に騙されてはならない。「原則禁止」は霞ヶ関用語辞典での意味は「容認」。三審制度で確定した判決をたった一度の開始決定で再審を認めてよいのかとの主張が示される。「法的安定性」が損なわれるとの主張が示される。「恥知らず」の極致。「冤罪」ほど卑劣な犯罪はない。国家にしかできない犯罪。それは戦争と冤罪。冤罪は魂の殺人。冤罪で死刑が執行されるなら正真正銘の国家による殺人だ。

 刑事司法の根幹は冤罪の排除。冤罪がどれほど深刻な犯罪であるのかを知らないのか。冤罪を生み出す側はお気楽だが、冤罪の被害者は「魂の殺人」被害者だ。初代司法卿の江藤新平は冤罪の防止を根幹に据えた。フランスの人権意識を強く有した人物だった。明治維新最大の偉人である。江藤を失脚させたのが大久保利通。大久保は人権よりも国権を優先した。たとえ10人の冤罪被害者を生み出そうとも、1人の真犯人を逃すなとの考え。冤罪排除の基本はたとえ10人の真犯人を逃しても1人の冤罪被害者を生んではならないというもの。明治6年政変ののち、大久保は不当に国家権力を掌握して江藤新平を処刑した。江戸刑法を用いて江藤を晒し首にした。「江藤の日本になるか」、「大久保の日本になるか」の分岐点だった。大久保が江藤を抹殺して「大久保の日本」になった。

 その大久保が生み出したのが内務省。ここに特高警察が置かれた。大久保のDNAが日本の警察・検察・裁判所制度に流れている。冤罪に何の罪の意識を感じない。冤罪を生み、人権を木っ端みじんに破壊しておきながら「法的安定性」とはよく言えたものだ。

 証拠開示に「目的外使用を禁ずる」が盛り込まれると開示証拠を広く流布できない。自民の会合で紛糾したが学芸会よりも低質の茶番。「原則禁止=容認」を本則に入れても付則に入れても何も変わらない。

 自民は「原則禁止=容認」を本則に入れたから検察の主張を抑えたとアピールするだろう。完全な茶番。プロレスだ。大声を上げて正義の演技をする稲田朋美氏は検察の台本通りに芝居を演じているだけ。「原則禁止=容認」を確保すれば、いままでと何も変わらない。この茶番劇に全面協力しているのがNHK。「原則禁止」は「容認」。「抗告禁止」を決定しなければ何の意味もない。

 世間の批判をかわすために台本が用意された。冤罪そのものが最大の犯罪。日本の刑事司法に冤罪を生み出す構造が内包されている。冤罪には二つの種類がある。第一は意図せず冤罪が生み出されるケースの冤罪。第二は意図して冤罪を生み出すケースの冤罪。後者がはるかに悪質だ。

 しかし、日本の制度では冤罪を生み出すのは朝飯前。なぜか。取調室がブラックボックスだからだ。密室の取調室で何をしても分からない。警察・検察は密室で犯罪を創作する。無実の人間を犯罪者に仕立て上げる。被害者の供述、目撃者の供述、現場にいた者の供述を、警察と検察が「創作」する。すべては密室の取調室で創作する。

 十分に口裏合わせをして裁判の練習を繰り返す。これで法廷に臨むから完全に冤罪を創作できる。何が問題なのか。取調室がブラックボックスであること。これを見えるようにする必要がある。これが「可視化」だ。

 日本ではいま、防犯カメラが多く設置されている。多くの犯罪が防犯カメラによって明らかにされる。防犯カメラの威力は極めて大きい。ところが、この日本で防犯カメラがまったく設置されていない場所がある。それはどこか。警察と検察の内部。もっとも重大な悪質犯罪が実行されている場所は警察と検察の内部。ここに防犯カメラが設置されていない。最大の抜け穴だ。

 警察と検察はブラックボックスの取調室でやりたい放題。ねつ造のオンパレードなのだ。小沢一郎氏が強制起訴された。その最大の原動力になったのが検察が「創作」した「捜査報告書」だった。石川知裕氏に事情聴取して作成された「捜査報告書」。これが決め手になって小沢一郎氏は強制起訴された。ところが、その「捜査報告書」がねつ造文書だった。

 なぜねつ造文書であることが明らかになったのか。動かぬ証拠があったからだ。石川氏が取り調べの模様を秘密録音した。その音声データがあったために検察の「捜査報告書」ねつ造が明らかになった。日本をひっくり返す重大犯罪だった。

 しかし、メディアがほとんど報道しなかった。関西の村木厚子さん冤罪事件など足元にも及ばない。検察史上空前の不正捜査が判明した。小沢氏の事件でさえ、このような不正が白昼堂々と行われているのだ。大阪の事件はフロッピーディスクの改ざんが判明して事件化したが、このような物的証拠を掴まなければ警察・検察の犯罪を取り締まることができない。日本は冤罪創作天国なのだ。

 だから、警察・検察職員と接触するすべての場面を完全に録音・録画することが必要不可欠。日本最大の悪質犯罪実行場所は警察と検察の内部。ここに防犯カメラを設置しなければ防犯カメラの存在意義がない。そして、直ちに決定すべきことは「抗告禁止」である。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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