2024年03月29日( 金 )

貴乃花親方辞職事件の真実(1)

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青沼隆郎の法律講座 第16回

一門の政治学

 一門が派閥であることは、識者者間でも一致した見解である。そこで、極めて当然であるが、派閥の本質を、日頃目にしている政治家集団・自民党の例で確認する。

 今回の総裁選で安倍晋三は3選をはたし、支持してくれた派閥に論功行賞として大臣待ちの新人入閣者の入閣名簿を発表した。これが派閥の存在する本質である。

 新人国務大臣に担当行政で辣腕を振るいたいなどという考えは微塵もない。なぜ大臣になりたいのか。それは間違いなく知名度をアップさせ、議員の再選を盤石のものにする最大の手段だからである。無論、国会議員の地位は年額数千万円の歳費のみではなく、族議員として、膨大な国家予算の配分に関与することにより産まれる、いわゆる利権の恩恵に浸ることができるからである。

 選挙費用や議員活動の維持には数億円を下らない費用が必要で、議員歳費だけでは完全に赤字である。以上は、この議員政治の実態である金権まみれに嫌気がさし、投票では政治的無関心層となる良識市民のほぼ共通の認識といえる。この金権構造を何も知らないで投票する人々が、いわゆる選挙で狩り出される組織票といわれる人々である。

 相撲協会の派閥である一門もこのような本質をもっている。つまり、派閥(つまり政党)は多数決原理を民主主義原理の正当な政策決定手段とする政治過程には必然的に発生する利権獲得手段である。

 協会の政策決定(利権の配分)は理事会の多数決による。従って理事の選出過程に派閥が発生する。一門(派閥)の利益を代表するのが派閥推薦の理事であり、理事は自己の利益とともに派閥の利益を獲得する使命を負う。当然、派閥に安定した利益の配分が行われる。これが、一門への助成金である。これは本来、公益財団法人ではあり得ないことである。

 なぜ、これが現実に行われているのか。理由は簡単である。国民、とくにその耳目の代行者であるマスコミ・ジャーナリストが公益財団法人制度について無知だからであり、法匪が協会の業務執行が適法であると見せかける役割を演じ、利得にあずかっているからである。

 貴乃花親方は別にこの隠れた腐敗した利権構造を批判したのではない。この利権を争奪する過程で生まれた派閥が相撲道の精神そっちのけで利権確保だけに奔走し、その結果、個々の力士の精神に金権支配の腐敗精神が蔓延したことに強い危惧を抱いたのである。

 本質的に出稼ぎ感覚をもつ外国出身の力士に日本古来の伝統的な相撲道を理解させることは困難であり、日本人の力士のなかにも力士業を単なる職業(金銭獲得手段)としか理解していない者が当然いる。協会が国の助成金だけで運営されるならまだしも、膨大な資金を自前で稼ぎだす力をもつため、金権まみれになるのもある意味必然的である。

 貴乃花親方の政治信条は極めて純粋である。稼ぎ出した資金を私人に払い戻すのではなく、将来の相撲道のために投資することであり、ほかのプロスポーツのように、さらに巨大な国民の支持を得て名実ともに国技にしようする理想だ。

 そのために本質的に個人的利得確保の力学しかない派閥の弊害と戦っているのである。暴力事件や、その隠蔽は派閥政治の病理現象(精神の腐敗)であるから、貴乃花親方は不退転の覚悟で対峙してきたのだ。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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