2024年04月19日( 金 )

生存権脅かす水道民営化 再公営化も困難(前)

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自治体に餌付け、裁量広い民間委託導入

 水道法改正案は7月5日、衆院本会議で可決した。前日4日、東京都北区で水道管が破裂し、住宅街や商店街が水浸しになるニュースが全国のお茶の間に流されている。6月18日に発生した大阪北部地震でも、約9万戸が一時断水に追い込まれた問題がクローズアップされ、同法案可決の追い風になった。

 同法改正の趣旨は、「施設の老朽化や人口減少で経営困難になった水道事業の基盤強化を進める」というもの。その目玉は24条にPFI(Private Finance Initiative:公共施設等の建設や維持管理、運営などを民間の資金や経営・技術能力を活用して行う新たな手法)の一手法であるコンセッション方式の導入を促していることである。

 この方式は施設の所有権を発注者(公共機関)に残したまま、特別目的会社(SPC)として設立される民間事業者が施設運営を行うもの。SPCは公共施設利用者などから利用料金を直接受け取り、運営にかかる費用を回収する「独立採算型」で事業を行う。裁量の広い経営が認められ、たとえば利用者の数を増やすことによって収入を増やしたり、逆に経営の効率化による運営費用の削減で利益率を上げることも可能だ。

 同改正法案は参院で成立が見送られ、継続審議になったが、この地ならしとなる改正PFI法が5月に成立している。この法改正では、上下水道事業のコンセッションについて特別に導入インセンティブ(誘因)が設けられた。地方公共団体が過去に借りた高金利の公的資金を、補償金なしに繰り上げ償還できる。
 水道事業が「施設の老朽化や人口減少で経営困難になった」のは事実だ。財政事情のひっ迫した自治体が1960年代に敷設した水道管更新の予算を捻出しにくいのはわかるが、はたして民間企業に委ねたら整備が進むのだろうか。

ジャパンハンドラーズが仕掛ける民営化

 公共機関は本来、利益追求が目的の民間企業にできない事業を担う。市民の生活維持に必要なインフラ改修は、財政支出を拡大してでも対応するのが筋ではないか。採算が合わないから民間に委ねるのは、本末転倒に見える。

 もちろん、「水道事業の基盤強化」など口実にすぎない。ハゲタカ外資に国民資産を献上するのが本当の目的である。我が国の水道民営化論議は、2013年4月に麻生太郎副総理兼財務相が米国のシンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)で講演したのが発端だ。公演後の質疑応答のなかで、次のように発言している。

 「世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営しているが、日本では自治省以外ではこの水道を扱うことはできません。しかし水道の料金を回収する99.9%というようなシステムをもっている国は日本の水道会社以外にありませんけれども、この水道はすべて国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものをすべて民営化します」

 パソナグループ会長・竹中平蔵氏は、次のように発言している。

 「官業の民間開放の象徴としてのコンセッション、つまりインフラの運営権を民間に売却して、その運営を民間に任せる。世界を見渡してみれば、港湾であれ空港であれ、インフラを運営する世界的企業が存在します。(中略)これをうまくやれば、実は、非常に大きな財政への貢献にもなります」(平成25年第6回産業競争力会議議事録)

 竹中氏は、郵政民営化や農協解体など国民資産の明け渡しを手引きしてきた。水道民営化も同じ線上にあるのは明らかではないか。

(つづく)

<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)

1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。
『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。YouTubeで「高橋清隆のニュース解説」を配信中。

(後)

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