2024年03月30日( 土 )

生存権脅かす水道民営化 再公営化も困難(後)

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再公営化の結末、莫大な補償金負担

 我が国で最初に水道民営化を打ち出した自治体は、橋下徹氏が市長を務めた大阪市である。市議会で懸念が上がり廃案になったが、2017年4月、吉村洋文・現市長が水道法改正案を活用し、改めて水道事業の民営化を目指す方針を固めた。

 他方、フランスのヴェオリア社は06年、広島市の西部浄化センターの運転・維持管理や埼玉県の荒川上流および市野川水循環センターの運転・維持管理の契約を相次いで受託している。

 2017年10月には、前述のコンセッション方式の国内第1号案件として、浜松市が公共下水道終末処理場の運営契約を締結している。

 世界の動きはどうか。英国では、水道民営化が始まった1987年から25年間に水道料金がインフレ率を差し引いても50%上昇している。

 1998年、世界銀行はボリビア政府への融資条件として、コチャバンバ市の水道民営化を要求。同市の水道は米ベクテルの子会社に売却され、水道料金は一挙に35%値上げされた。この値上げに対する抗議行動がゼネストに発展し、軍はデモ隊に発砲。死者6人、負傷者175人を出す大惨事に至った。

 パリ市の水道事業は1984年にヴェオリアとスエズ社とコンセッション契約を結んで民営化されたが、翌年から2009年の間に水道料金は265%も増加(その間のインフレ率は70.05%)した。

 こうした惨劇を受け、再公営化した事業体は2000年から2017年の間に世界で267事例ある。「1度民間に任せて駄目なら戻せばいい」というかもしれないが、それほど簡単な話ではない。ドイツのベルリン市は受託企業の利益が30年間確保される契約が結ばれていたため、2014年に運営権を買い戻すために13億ユーロ(約1,690億)の膨大な費用がかかった。

 「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障および公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」日本国憲法第25条2項である。新自由主義は、国民に保障された生存権も脅かしている。

(了)

<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)

1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。
『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。YouTubeで「高橋清隆のニュース解説」を配信中。

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