政治経済学者 植草一秀
高市内閣が消費税減税を潰せば内閣支持率は急落する。2月8日総選挙の本来の重要争点は消費税減税だった。その消費税が争点化しなかった主因は高市自民が消費税減税を公約に掲げたこと。2年間食品消費税率ゼロを公約化した。これで消費税減税の是非が争点ではなくなった。
消費税減税について高市首相は「私の悲願」と表現。高市首相は時期を問われて2026年度中の実施を明言した。この公約を実行することが求められる。
高市首相はそのために「国民会議」を創設。国民の代表者が論議をする場が国会。国会で論議すればよいはず。ところが、国会の外に「国民会議」なるものを創設した。しかし、会議に入るには条件が付された。消費税廃止等を主張する勢力は会議に参加できないとした。これでは「国民会議」ではない。「有志会議」である。
総選挙後の動きを見ると財務省とメディアが結託して消費税減税潰しのTPRが展開されている。TPRは「TAXのPR」ということだが内実は「言論統制」。
消費税減税潰しに動くメディアの中心は日本経済新聞と読売新聞。裏の本尊は財務省。消費税率を10%にするときに8%軽減税率が新設された。食品が軽減税率適用対象になったが、同時に新聞が含まれた。食品の税率がゼロになると新聞だけが唯一の8%税率になる。いままで食品の陰に隠れていたが唯一の8%税率適用になると「悪目立ち」する。新聞だけが8%である合理的理由がない。あるとすれば、財務省が世論に影響を与える新聞業界=マスメディアに利益を供与し、見返りにマスメディアが財務省の広報機関になることを義務付けるということ。悪質な官民癒着の典型でしかない。
新聞は軽減税率適用が廃止されるのを恐れて食品税率ゼロを阻止するために動いている。それだけではない。日経新聞の場合、売り上げに占める政府支出のウエイトが高いと見られる。公正な報道を使命とするメディアが金銭で報道を歪める深刻な利益相反が生じている。
テレビに登場するコメンテーターの大半が「御用」。権力寄りの発言を展開することによってテレビへの露出を維持拡大する。さもしいコメンテーターに占拠される状況が強まっている。
「食品の価格高騰の大きな原因は円安。
減税を実施して財政赤字が拡大すると円安になり、食品消費税減税の意味を打ち消す。
だから、消費税減税は実施する意味がない。」
これは財務省が用意した消費税減税潰しコメントの一例。TBS番組に登場する杉村太蔵氏はこれをそのまま述べる。「台本通り」と言ってよいだろう。
しかし、財務省はかつて真逆の主張を展開した。「財政出動が金利上昇から円高を招いて財政出動の効果を打ち消す」というもの。2001年から2003年にかけての小泉内閣による超緊縮財政運営に対して財政緊縮を緩和すべきとの主張に対する反論として財務省が用意した。つまりこういうことだ。理論的に正しいことを主張しているのではない。「消費税減税・財政出動は行うべきでない」との最終結論が先にあり、その結論につなげられるストーリーなら何でもよいとの判断から一般に流布する説明を用意する。それを御用コメンテーターに発言をさせる。それだけだ。極めて低質な論議しかない。
財政論議のいかがわしさがどこにあるか。財政出動の対象によって財務省対応、政府対応が180度異なること。社会保障支出、消費税減税の場合は1円でも「財源の手当が必要」と絶叫する。他方、利権補助金支出、軍事費増大の場合は無限の拡大でも「財源の手当が必要」と叫ばない。
コロナの2020年度に政府は補正予算で財政支出を73兆円も追加した。その財源をどう手当てしたのか。全額を国債発行で賄った。しかし、財源論は一言も語られなかった。20年度の73兆円支出拡大のほとんどが利権補助金・利権財政支出だった。
病院の病床確保に6兆円。
ワクチンに4.7兆円。
デジタルグリーンに3兆円
防災減災に3兆円
GOTOトラベルに3兆円
など数え上げればきりがない。
病床確保予算は基幹病院への補助金だった。極めつきは「資金繰り対策」の名目で財務省天下り先に19兆円の資金を贈与したこと。こうした支出拡大の際に「財源論」が一言も発せられなかった。ところが、高額療養費の政府支出を100億円切り詰めるのをやめるべきだと主張した途端に「財源を示せ」の大合唱になる。
食品消費税ゼロを2年実施するのに10兆円が必要としても、これまでの放漫財政を踏まえれば目をつぶってでも実施できる。しかし、消費税減税と言ったとたんに目の色が変わる。そもそも日本の国税収入は激しく上振れしている。2020年度の国税収入が60兆円だったのに25年度は80兆円を突破した。1年あたりの税収が20兆円も上振れした。年間20兆円の財源が発生した。したがって、食品消費税率ゼロを恒久措置で実施できる。だが、食品税率をゼロにすれば、外食産業は大打撃を受ける。だから、外食も税率ゼロにとの声がある。
しかし、3万円のディナーを税率ゼロにするのが適切かという議論になる。だから、消費税率そのものを5%に引き下げるべきだ。消費税率を5%に引き下げると国地方合わせて15兆円の減収になる。消費税率を5%に下げた場合、国の減収は11.7兆円。税収が20兆円も上振れしているからこの財源で減税を実施して9兆円近くお釣りが残る。
ところが、国会議員の多数がまともな議論をしない。ほとんどの国会議員が財務省と癒着している。財務省の最大の権力は予算配分権。個別の議員は個別の予算措置について財務省と掛け合う。財務省との「良好な関係」があると「個別予算」で配慮を得られる。
また、財務省には国税調査権がある。これでほとんどの国会議員が財務省支配下に置かれてしまっている。メディアも同じだ。この歪んだ構造を打破することが日本政治最大の課題。高市首相も財務省と癒着していると考えられる。
消費税減税の公約を守れなかったらどうするかと問われて「意地悪やな」と答えること自体がいかがわしい。消費税減税の公約が破棄される場合、当初からの策略であった疑いが濃厚だ。国民はそろそろ高市内閣の欺瞞に気付くべきだ。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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