2024年04月20日( 土 )

【大規模修繕への取り組み】2025年には7,000億円超~拡大が見込まれる大規模修繕工事市場(後)

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 矢野経済研究所の調査によると、2017年に約6,200億円だったマンション共用部修繕工事の市場規模は、25 年には7,000 億円超に達すると予測されている。そうしたなか、設計から施工、分譲、管理、そして大規模修繕工事の実施まで、ワンストップ体制でサービスを提供している点を強みとする大京グループでは、グループの工事事業を手がける(株)大京穴吹建設が、マンション管理事業を手がける(株)大京アステージ、(株)穴吹コミュニティとの連携を強化し、年間約400棟の大規模修繕工事を実施。グループで管理するマンションの戸数は50万戸を超えており、今後も一定数の需要を見込む。一方、野村不動産(株)では今年8月、分譲マンション『プラウド』の新築時から仕様を高度化することで、大規模修繕の周期を延長するための「アトラクティブ30」を発表したほか、前年には野村不動産パートナーズ(株)が大規模修繕向けに最大15年の保証を実現する「re:Premium」の提供を開始している。野村不動産の戦略は、大規模修繕の周期を延長させることで、「住まいの営み」をより豊かに育むというものだ。今後、計画修繕工事適齢期を迎えるマンションストック数の増加によって市場の拡大が見込まれる、大規模修繕工事に対してのそれぞれの取り組みとは―。

【野村不動産パートナーズ(株)】大規模修繕工事周期延長に注力

 ――マンション大規模修繕の市場をどう見られていますか。

 仙田 野村不動産グループでは、2002年にスタートした分譲マンション『プラウド』が、竣工済総戸数約5万8,000戸、マンションの管理総戸数が17万戸を超えるなど、分譲マンション事業において多くの実績を築いてきました。数年前から『プラウド』の第1期大規模修繕が始まっており、順調に大規模修繕の提案を行っているところです。ただし、1回目の大規模修繕は管理組合から了承されても、2回目や3回目の大規模修繕になると、資金面、建物の事情や管理組合の事情もあり、大規模修繕工事のサイクルが計画通りに進まない実態もあります。

 西坂 たしかにここ数年ではストックが増えていることもあり、マンションリニューアル事業も徐々に成長しています。今後、さらなる事業の拡大を目指していきたいと考えております。

 ――タワーマンションの大規模修繕は。

 仙田 弊社では、タワーマンションでの2回目の大規模修繕工事の経験はありません。しかし、1回目が容易かといえばそうではなく、マンション居住者のなかには知識をお持ちの方もおり、組合員の過半数の同意が得られるまでの道のりは簡単ではありません。技術的にも高い施工能力が求められます。むしろ低層マンションと比較して、ハードルは高いです。また、新築とは施工の難しさの観点が違います。「居ながら施工」でもあるため、マンション居住者全員が顧客でもあり、組合員との同意を図っていく必要があります。

 ――大規模修繕工事における企画力と提案力については。

※クリックで拡大

 坂巻 我々も大規模修繕ではより差別化を図るべく、お客さまに寄り添う提案や企画を行っています。とはいえ、一般的な大規模修繕では他社も実施しているように、屋上防水、仕上げ材、外壁塗装などの仕様などはおおよそ同じです。

 そこで、弊社は17年10月から、「re:Premium」(リ・プレミアム)の提供を開始しました。これは、弊社が責任をもって元請工事を実施し、かつ弊社独自の仕様を選定いただくことで、最大15年の保証を実現するものです。一般的に「12年ごと」に計画される工事サイクルを「16~18年ごと」に延長することで、大規模修繕工事の総工事回数を減少させます。長期的な工事時期と費用の見える化を行い、総工事費用および一時徴収金の発生を抑制します。

 これは、業界初の試みです。マンション管理では、管理と修繕工事は表裏一体で、どちらかの評価が下がると、結果的に両方の評価が下がってしまいます。居住者から「野村でやって良かった」といわれるように、顧客満足度を高める努力を心がけています。

 ――リリース発表後の反響は?

 坂巻 今まで工事に関心がなかったマンション居住者も目を向けるようになったと思います。「re:Premium」は『プラウド』を対象にしており、目標数値としては『プラウド』の大規模修繕工事では80~90%までを受注する考えで、なるべく失注率は少なくして展開したい意向です。リリース後、約20棟近くを「re:Premium」で工事を実施しました。

 ――営業体制は。

 坂巻 首都圏では、建築事業本部のなかにマンションリニューアル一部と二部を設置し、関西では西日本工事部があり、それぞれバックアッパーとして技術管理部や積算統括部といった部署があります。全国的に中核都市には技術者を配置しており、管理を担当しているマンションマネージャーと連携し、管理しているマンションに出向いて、提案をしております。

 ――先日、マンション大規模修繕長周期化への取り組み「アトラクティブ30」を発表されましたが・・・。

 仙田 先行して「re:Premium」を提案しましたが、今後、新築分譲時から高耐久部材などを採用することで、大規模修繕周期をこれまでの約12年から16~18年まで長周期化する「アトラクティブ30」を開発し、今後の野村不動産分譲マンションで導入する運びとなりました。その後、我々の「re:Premium」を活用すれば、さらにライフサイクルコストが低減できます。具体的には、外壁タイルに「有機系接着剤張り工法」を採用するほか、屋上防水を15年保証の仕様とし、専有部内のすべての給排水管において長寿命化を実現した配管システムなどを導入するなど、「アトラクティブ30」によって、大規模修繕周期を延長させる効果があります。すでに新築物件では、神奈川県横浜市の「プラウド港北センター北」、千葉県市川市の「プラウド市川マークス」で実用化が決定しています。

 西坂 今後、野村不動産の分譲マンションでは、「アトラクティブ30」で耐久性の高い仕様を採用することにより、修繕周期を延伸することが可能となり、ランニングコストも抑制することが実現できると考えております。

 ――新築時の「アトラクティブ30」、修繕時の「re:Premium」が連携することで、『プラウド』全体で差別化が図られますね。

 西坂 「アトラクティブ30」と「re:Premium」とが連携することは、弊社が管理するマンション居住者の方々が月々に積み立ている修繕費の抑制につながると考えております。この2つの手法の提案は、野村不動産グループ総力を挙げた取り組みです。

左から、建築事業本部・技術管理部長 西坂 準 氏
マンションリニューアル一部長 兼 事業推進課長 兼 超高層マンションリニューアル課長 仙田 浩之 氏
マンションリニューアル二部長 坂巻 孝宏 氏

(了)
【長井 雄一朗】

(前)

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