2024年04月20日( 土 )

宿泊税論争・福岡県vs福岡市を長期化させる重大な事実誤認

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徴税議論を宿泊税の協議へ

高島 宗一郎 福岡市長

 18日投開票の福岡市長選で3期目の再選を決めた高島宗一郎市長。市長選後、注目されるのが福岡県と福岡市の宿泊税論争。高島市長は、選挙後の取材で、「徴税を市がするのか、県がするのか、宿泊税に限らず、これまでも問題点はあった。たとえば、子ども医療費。福岡市の子どもたちには4分の1しか、等しく県民税を払っているがもらえていない。福岡市外の県内の子どもたちには2分の1の補助が出ている」とコメント。小川洋福岡県知事との間で、税の徴収をめぐる市と県の問題全般について実務者協議を進めていくとした。しかし、高島市長のいう「問題点」を議論する前に、市側に重大な事実誤認があることを知っておくべきだろう。

宿泊税特集が組まれた「市政だより」

 福岡市は、財源化の正当性を主張するため、市の広報紙「市政だより」の11月1日号で「宿泊税特集」を組み、福岡県が福岡市の観光面で予算を投じていないとし、「宿泊税は市が徴収すべき」と主張。しかし、その内容は、結果的に、都合の良い部分だけを切り取って、あたかも県は何もやっていないかのような印象を読者である市民に与えるもの。福岡県が18年度予算で、観光面で重要な役割をはたす“空の玄関口”の福岡空港に、空港整備促進費67億6,464万円を支出したことはまったく触れられていない。また、同年度予算で、県が、漁港や河川、水道施設などインフラ整備、医療、教育、児童福祉、雇用対策、文化・スポーツ振興など153事業、計325億6,904万円を「福岡市民のための県予算」として使っていることも無視されたかたちとなっている。

市内民泊の届出先・監督権限は県

 宿泊税に直接的に関わる部分でも“重大な事実”が隠されている。近年、インバウンドの受け皿としても急増している民泊に関することだ。「市政だより」や高島市長のコメントではまったく触れられていないが、実は、福岡市内における民泊新法に基づく民泊営業の届出先は福岡県。民泊の監督権限は県にあり、近隣住民の苦情を受けて調査・指導を行うのは県となっている。民泊を担当する県生活衛生課によると、福岡市内の民泊届出は11月16日時点で449件。県全体517件の87.8%を占める。

 「福岡県の民泊のほとんどは福岡市内。騒音や衛生上の問題など民泊のトラブルについて福岡市民は市に相談をする。当初、民泊について、届出を含めて福岡市で監督する話もあったが、結局、福岡県がやることになった」(県関係者)。2017年度における福岡市に寄せられた民泊の苦情・相談は169件。前年度96件から76.0%増加した。福岡市は、各区の保健福祉センター衛生課に相談窓口を設けているが、調査・指導を行うのは違法民泊のみ。届出民泊に関する苦情については県に情報提供するだけとなっている。

 以上のように、福岡市の観光関連で、福岡県がまったく何もしていないというのは重大な事実誤認といえる。この事実誤認のうえに立ち、高島市長に至っては子ども医療費まで話を広げようとしているのだ。とてもまともに話が進むとは思えない。財源化へ向けてスピード感が求められている宿泊税だが、協議が難航し、結果的に福岡市の損失(取りっぱぐれ)となるのではないだろうか。

【山下 康太】

宿泊税の導入をめぐっては、福岡県と福岡市のそれぞれで導入を検討し、福岡県が一律200円(ただし、福岡市は100円)とする案、福岡市は、宿泊料1人1泊2万円未満200円、2万円以上500円とする案を打ち出した。仮に、双方が、この案のまま導入した場合、かかる宿泊税は1人1泊2万円未満300円、2万円以上600円となる。2万円以上600円は、宿泊税を導入する自治体、東京都、大阪府、京都市、金沢市のなかで最も高い税額。観光振興の財源として期待される宿泊税が、観光地としての魅力減につながる恐れもある。

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