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2018年11月27日 07:03

現実を認めたがらない人たち(後)

大さんのシニアリポート第72回

「孤独死」を「緩慢な自殺」と定義したのは、阪神・淡路大震災の仮設住宅で「クリニック希望」を開設し、住民の健康をバックアップした医師の額田勲氏である。
 額田氏は著書『孤独死』で、「〝孤独死〟とは単なる『独居死』ではない。いかにも突然死のように世間から受け止められがちだが、実際は自殺などを除けば、慢性疾患によって長い期間苦しみ続けた帰結である場合が圧倒的である。独居、傷病、貧困というサイクルに巻き込まれ…」。実は「孤独死予備軍」と呼ばれる人たちが存在していて、さまざまな要因を抱えながら徐々に死を迎えるのであると述べている。正に「緩慢な自殺」といえる。

 常連の女性(81歳)の場合はみずから貧困状態を招いた。夫が残した財産(金額不明)を誰彼構わず振る舞った。例えば居酒屋に多人数で行って、その支払いを自分で済ませる。それも一度や二度ではない。従兄と称する男には、毎月一定の小遣いを手渡した。乳酸飲料の訪問販売員、新聞拡張員が「可愛そうだから」と言って契約する。彼女は新聞を読まないので、「ぐるり」に持参する。半年後には、違う新聞をもち込む。「無駄遣いしない方がいい」と注意しても、耳を傾けない。

 やがて急激に痩せ始めた。1年間で14kgも痩せたのだ。ふくよかだった身体がガリガリになってしまった。「食事が喉を通らなくなった」というのだ。食べないから痩せるのは当然である。痩せた理由を聞いても、「食べたくない」の1点張り。医者に行くよう勧めても一向に行く気配がない。痩せ始めたのは、従兄が顔を見せなくなった時期と符合する。カネが底をついたのだ。カネの切れ目がなんとやら、である。

 電話も止められたが彼女は「静かでせいせいする」とうそぶく。ある日、彼女が知人にバッグや小物品を売りさばいているという情報が私の耳に入った。社会福祉協議会に出かけ、生活の立て直しを相談したらしい。社協では、「年金が月15万円もある。その半分以上を交際費として使っている。生活を立て直すのはそうとう困難。この年金額では生活保護受給も不可能」と判断した。病気を心配した係員が、地域包括支援センター(以下「包括」)を紹介したが、連絡した気配はない。なぜ私や友人に相談してくれないのだろう。

 先日、嫌がる本人を「ぐるり」の女性スタッフのかかり付けの医者にむりやり連れて行った。ところが、医者の前で平気で嘘をつくのだ。「激痩せ」のことも「食べられない」こともいわない。たまらず同席した女性スタッフが、先生に告げる。大腸がんの疑いがあるということで検便持参(2日分)を医者から言い渡された。しかし肝心の便が出ない。口から食物をとることができない状態では便も出ない。ようやく2日分を先日届けた。医者に診せてから二週間以上もたつ。結果は間もなく出る。

 なぜ医者に診せることをためらうのか。本人は「死」をひどく怖がっている。私は検査の結果が「クロ」と出て欲しいと願っている。激痩せの原因が見つかれば治療法も明確になる。入院費用、治療費は何とかするつもりだ。
 もう1人の男性(78歳)も体調が急変。歩行も困難になったにもかかわらず、医者に行こうとしない。友人が無理やり医者に連れていったものの、嘘をついて事実を隠そうとするという。
 驚いた友人が男性の症状を説明すると、「今は元に戻り、体調に問題ない」と言い張るの。彼もまた私が勧めた「包括」へ連絡しようとしないし、「包括」が何たるかを知ろうともしない。歩行困難な状態なら、要介護1は付くだろう。しかし、介護保険料を支払っているにもかかわらず、介護保険の中身を知ろうとしない。
 「介護保険を利用したら、余分な金を取られる」と本気で思い込んでいるのだ。ふたりに共通するのは、追い詰められた状況になっても自分自身を取り繕うところだ。なぜ現実の自分を認めたがらないのだろう。「死」が目前に迫っているにもかかわらず自分に嘘をつく。嘘をつけば「現実」が霧消するとでも思っているようなのだ。
 問題を先送りする人たち。私にはこの状況が理解できない。「PLAN75」を実施しなくとも、自分から「死」へと進んでいく人が意外に多いのでは、とつい思ってしまう。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

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